緊急記者座談会

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デフレ克服の道筋は…



聞き手 編集局長 島田一

――サッカー・ワールドカップが終わって、いよいよ参議院選挙だ。

 民主党が56議席程度を獲得すれば参議院選でも何とか過半数の勢力となり、政権基盤は磐石となるが、どうかな。私は、ずばり50議席前後と見ている。理由は、やはり菅首相が消費税引き上げを表明してしまったからで、表明しなければ楽勝だったのではないか。
 確かに消費税はまずかったが、私は56議席前後は獲得するとみている。理由は、なんだかんだ言われても小沢幹事長時代に組織票を固めているし、消費税にしてもG20で財政再建が合意されたこともあり、仕方ないといった声も国民の間からは出始めている。ギリシャのようになるよりはましだという訳だ。それに、子ども手当てや最低賃金引き上げなど実現性はともかく、最低所得者層の受けは良い。加えて、高齢者層の間では「色々と問題はあるが、もう少し長い期間、やらせてみるべき」といった意見も目立っている。
 しかし、民主党の昨夏の衆議院選のマニフェストは、真に絵に描いた餅だった。一番期待した無駄の削減は、事業仕分けという名の政治ショーに過ぎず、公約である十数兆円の削減が実現できるとはとても考えられない。高速道路の無料化もむしろ引き上げの方向が出ており、子ども手当ても半額しか支給されていないし、財源の手当ても出来ていない。

――それに加えて、当初は検討しないといっていた消費税の引き上げを前面に出してきている…。

 確かに困ったもんだ。しかし、それでも自民党の支持率が低いままであるのは、さらに困ったもんだ(笑)。自民党は日本経済を駄目にしてしまった張本人との見方が国民の間には多い。本当の張本人は日本銀行だと山本幸三衆議員は主張しているが、国民はその辺のところは理解が出来ないし、なにより、長らく与党であった自民党には霞ヶ関や本石町(日銀)を監督する責任があった。
 とはいえ、国会議員の間でも日銀犯人説はかなり浸透してきており、今回の円高・株安局面においても、日銀は何もやらない訳にはいかないだろう。前回の局面では、成長産業への融資という奇策を発表したが、市場では、「幕間つなぎ」「お茶を濁しただけ」という受け止め方が大勢で、これによりデフレが直るとは何人も思っていない。融資額も30兆円であれば理解できるが、その10分の1の3兆円ではデフレは直らない。
 自民党もそうだが、日銀にも困ったもんだ(笑)。金融政策決定会合の議事録を読んでいると、未だに「物価は安定的に推移している」と言っている審議員が散見される。CPIが前年比マイナスで推移しているにも関わらず、安定しているとは何事だ。そうした、倒錯的な感覚だからこそ、デフレ退治しようという積極的な政策が出てこない。
 しかし、それは財務省も同様で、経済にとってデフレがいかに恐ろしいことなのか、人の金だから実感が無い。経営者であれば、巨額な借金を抱えている上に、デフレが続き収入が減ってくればどういう恐ろしいことになるか身を以って分かるが、財務省ではデフレにより実質的に借金が増えているという感覚すら乏しい。

――日銀も「親方日の丸」だからデフレ意識に乏しいのが事実だろうが、リーマン・ショックを経て今振り返ってみると、金融不安やその後の金融機関への規制によって、金融が相当に目詰まりしてしまって、それがデフレの大きな原因となっていることが改めて分かってきている。当時から弊紙では、資産効果と逆資産効果を認識し、これに対応した政策を日銀と金融庁はとるべきだと主張してきたが、実際は「羹に懲りて膾を吹く」といった姿勢に終始してしまっていた。今でこそ「プロシクリカリティ」といった言葉で、資産効果が世界的に認識されてきているが、金融不安の先駆者である日銀や金融庁が世界のリード役になれないのは何故なのか。

 資産効果、プロシクリカリティということを勘案して今、日銀が行なうべきことは銀行株の大規模購入だろう。これにより銀行の自己資本が強固になり、融資態度が積極的になる。そして、それにより景気が回復してきた時には株価が上昇するから、その時に日銀は購入した銀行株を売却すれば良い。また、そうして平時に戻った時に、プロシクリカリティで銀行の自己資本を積み増せばよい。さらに、国債の買い切りと合わせればより効果的だろう。
 それは良い案だ。世界のリード役という話が出たが、亀井前金融大臣のモラトリアム法案は、リード役となったのではないか。もちろん本当のモラトリアムではないが、銀行の健全化が貸し渋りを生み、却って経済を疲弊させてしまうということに対し、一定の歯止めをかけた。銀行や金融は何のためにあるのかということを再考させた功績は大きい。
 その後の郵政改革法案はいただけないが、あれについてもモラトリアム法案と同様に結局は10万人も再雇用するということはせずに、せいぜい数千人という考えだという話がある。今となっては廃案になってしまい、かつ参院選で民主党が勝てば復活するか否かも不透明だが…。
 デフレ化で消費税を引き上げればよりデフレになるのは明らかだが、日銀の言うように来年度からCPIがプラスに転じた場合でも、その上昇幅が消費税の引き上げ幅より小さければ、再びデフレに陥る可能性が高い。政府筋では、消費税で吸収した分だけ使えばデフレ効果は低いというが、問題はどこに使うかだろう。それに、来年度から本当にCPIがプラスに転じるのか、転じなければ日銀総裁は責任をとるのかということを明確にする必要がある。
 消費税の引き上げ分をどこで使うかということだが、バブル崩壊後の20年間に景気対策という名目で相当な飽満財政になってしまっており、パブリックセクターは超肥満体質と言って良い。その上にさらに消費税分を使うことになったら、真に糖尿病で死んでしまう。だから、多くの国民が望んでいるように先ずは財政コストを大幅にカットし、そのカット分を減税や子ども手当てなどに回し、それにより景気が浮揚し、CPIが上昇したら、その分消費税を上げるといった対応が望まれる。
 万が一、消費税を引き上げるとしたら、1%ずつ5年間かけて上げていけば、デフレ効果は薄い。消費者は消費税が大幅に上がる前に買おうとするからだ。しかし、CPIがマイナスのままでは、その方法でもダメだ。
 同時に、金融の目詰まりを直していけば、より早くCPIはプラスに転じる。また、パブリックセクターのコストを削減する過程で、高速道路の値段などを引き下げれば民間のコストも下がり競争力が回復するから空洞化も加速しなくなる。
 しかし、行政コストの削減は実際にはなかなか難しい。パブリックセクターにはコスト意識が無いから、削減する意識も無ければ、削減できるとも思っていない。これは、勉強が出来る出来ないの問題ではない。人間だれでもお金に困らなければコストは削減しないし出来ない。母ちゃんに給料が足りないと言われたり、子どもの学費が必要だから小遣いを節約するんだ(笑)。

――そうすると、やはりギリシャと同じにならなければ日本の再生は難しいか…。しかし、そうなる前に何とかしないと。(了)