日本公認会計士協会 会長 山崎 彰三 氏

日本公認会計士協会 会長 山崎 彰三 氏

日本の公認会計士制度のあり方模索



聞き手 編集局長 島田一

――この度、日本公認会計士協会の会長に就任されたが、課題は…。

山崎 ひとつの大きな課題として、やはりIFRS(国際財務報告基準)への対応がある。今までの日本の伝統的な会計は歴史的原価主義で、過去に起こった事象を帳簿につけて、検証し、そこから純利益を算出していくものだった。一方、IFRSは、現時点のバランスシートを作る時にどういう価額が一番的確に企業の財政状態を表わすかという公正価値を測定するという考えに基づくものだ。また原則的なことを決めているだけなので、人によって判断基準に違いが生じても、それを脚注で説明すればそれが認められ、そこに絶対的な基準はない。そのような難しいものなので、当協会では、監査をする人や、企業に指導する立場の人たちといった協会の会員が、全員等しくIFRSを使えるように、組織を挙げて新しいIFRSに対する知識を共有できるように対応していかなければならない。

――グローバル化の中で国ごとに基準が違っていては困るため、IFRSが導入されてきた…。

山崎 最終的に、国ごとにある基準は全ての分野で差異がなくなってくるだろう。実際に、現在日本で使っている会計基準も、IFRSと大きな差異がないようにコンバージェンスを行っている。米国FASBが先日公開草案を出した金融商品の会計基準については、未だどのような方向に進むのか分からないが、基本的な思考は米国会計基準もIFRSもほぼ変わりはないと言える。金融システムが安定するためには、IFRSが欠かせないという意見がある一方で、極端な時価主義によるIFRSが金融不安を助長したという意見もある。しかし、少なくとも、日本の伝統的な会計基準に比べて、IFRSの方が金融危機を招く確率は少ないだろう。金融庁は、IFRSを日本の規制制度の中に入れ込むというこれまでにない大仕事をすることになると思うが、その下で監査をする我々公認会計士も大変だ。

――金融庁が事務局となり、「公認会計士制度に関する懇談会」も定期的に開かれている…。

山崎 現在のテーマは公認会計士の試験制度だ。特に公認会計士の養成過程が問題になっている。平成15年の法律改正では、公認会計士が最終的な実習経験を受ける場所として、監査法人や会計事務所に加えて、一般企業も可能ということになったが、現実的な問題としてそれにはやはり無理がある。そして、試験には通ったものの、最終的に公認会計士のトレーニングを受けることが出来ずに公認会計士の資格を取れない人が何百人と出てきてしまった。国がお金を出して司法研修所のようなものを作ればよいのだろうが、財政難の今、とてもそういうことを出来るような状況ではない。懇談会の結果は7月末にはまとめられる予定で引き続き検討課題となっているが、実際問題として試験合格者の人数の調整だけで問題の解決をすることは難しいため、試験制度を変えていく方向になるだろう。

――公認会計士をもっと増やす一方で、公会計を確立すれば、事業仕分けをするより効果的な財政削減になるとも思うが…。

山崎 明治以来の地方と国の財政の在り方そのものに関わってくるこの問題は非常に根深く、公認会計士を各役所に一人ずつ置いたところでなかなか解決しない。特に、今の日本の行政の会計は単式簿記で「いくらお金を使ったか」というだけで、使った結果どうなったか、例えば資産がどうなるのかなどの考慮は必要ない。この点、世界各国には国際公会計基準という企業会計の良いところを取り込んだものが広く普及しており、日本でもこれに基づいた公会計の基準を作り、使っていこうということを私たちは主張している。しかし、行政など各方面との調整も必要であり、なかなか簡単には進まないのが実状だ。

――品質管理が引き続き大きな問題となっている…。

山崎 品質管理は厳しくやっていかなければならない。特に、カネボウ事件以来、我々は品質管理レビューシステムなども作り、当協会のレビューアーが会計事務所や監査法人の監査のやり方を実際に見に行くなど、それまで以上に厳しく指導をしてきた。しかし、このような問題を完全になくすのは非常に難しいため、例えば、上場会社の監査人が交代した場合には、その理由を詳しくチェックするなどの対策を打ち立てていかなくてはならない。また、現在の日本の伝統的な会計の考え方では、売上高が一番重要な指標になってくるため、売上ルールの変更などについてもきちんとした監査が必要だと考えている。一方で、当協会では公認会計士全員の名簿登録をしているのだが、引っ越して住所変更を登録しなかったり、高齢になって亡くなっても届出を出さなければ、名簿はそのままになってしまう。後者は身寄りが居なければ対応は難しいが、例えば住所変更の登録をしないとか、長年会費を払っていない人たちに関しては、現在、金融庁の下にある処分権限を、我々に移し、当協会自らが適切に公認会計士を処分できる仕組みを作って欲しいと当局にお願いしているところだ。

――その他、協会としての取り組みは…。

山崎 基本的に公認会計士は最初、監査法人に就職をする。その後に監査法人を辞めて新たな仕事を行う場合には、今までは大体税務業務となっていた。しかし、徐々に税務業務のマーケットも飽和し始め、今では、M&Aやコンサルティング、新規公開のサポートなどを行う人たちが増えてきた。ところが、こういった仕事は簡単に出来るものではなく、自分が監査法人にいたときの経歴などがベースになってくる。そこで、我々としては、そういった人達への独立支援を行っていきたいと考えている。せっかく公認会計士の資格を取って一生懸命やっているのに、それが活かせないのはもったいない。また、一般の企業に勤めていく企業内会計士への支援や組織化なども行っていきたいと考えている。

――公認会計士事務所の寡占化に関する問題については…。

山崎 寡占化自体は経済原理であり仕方のないことともいえる。しかし現在、一つの会社に対しては、監査とシステムのコンサルティングが同じ監査法人では実施できないという決まりがあるため、例えば、世界4大監査法人が3つになれば、企業が監査人を選択する幅は極端に限られてしまい、市場が機能しなくなる。こういったことは日本では未だ議論されていないが、欧米ではそれを避けるために会計事務所を分割するのか、新しい会計事務所を育てて数を増やしていくのかといった議論が行われている。こういったことを含めて、今後の日本の公認会計士制度のあり方を考えていかねばならないと思っている。(了)