株式会社レコフ 代表取締役社長 恩地 祥光 氏

株式会社レコフ 代表取締役社長 恩地 祥光 氏

経営課題にM&Aの手法提供



聞き手 編集局長 島田一

――6月、新たにレコフの社長に就任されたが、これまでの経歴は…。

恩地 1998年にレコフへ入社したが、前職はダイエー。90年代辺りからダイエーのM&Aに関わるようになり、92年のリクルート買収や、95年のハワイのアラモアナ・センター株式100%取得などといった案件に当事者として携わってきた。ダイエーとレコフの付き合いは長く、ダイエーが70年代後半にマルエツや九州のユニードを買収した際に、山一証券でアドバイザーを担当していたのが、レコフ創業者の吉田允昭氏だった。私はダイエーで故・中内功氏の秘書をしていたこともあり、吉田氏との面識はその頃からあった。

――日本企業におけるM&Aの初期は流通業が主役…。

恩地 レコフデータで作成しているM&A件数のグラフを見てみると、やはり前半はダイエーをはじめとした流通業が主役だった。アラモアナ・ショッピングセンターやリクルートなど、それまで買収を重ねていたダイエーが初めてディックファイナンスの売却を行なったのは98年。当時の消費者金融は非常に価値があり、売却額は885億円だった。売却するということは当然ダイエーの経営状況が良くないということであり、その後も銀行団からアラモアナ・センターを売却するように指示された。結局、海外事業や本業から離れたところから売却の段取りをつけて、最後は本業回帰となった。

――優良物件を次々と売っていった…。

恩地 私は、このダイエーにおけるリストラのやり方は失敗だったと思っている。順番が違う。目先の財務に力点をおくと、どうしてもお金になるところからどんどん売却していくが、本当は、効率の悪いところや、あるいはダイエーの店舗を一部閉鎖するといった方法を取らなくては駄目だった。優良企業は全て残して、業態的にすでに古いスタイルとなっていたダイエーを縮小すべきだった。ただ、一般論としては90年代後半から、本業回帰のために関連会社を売却し、日本の多くの経営者も経営戦略の一環として普通にM&Aを使うようになってきた。92年にダイエーが行なったリクルートの買収を新聞が報じた際などは、衝撃的な見出しで飾られ、何だか異端なことをやっているような気にさせられたが、金融ビッグバンや山一証券の破たん後あたりから、M&Aに対する意識は変わってきたように感じる。

――5年ほど前から、戦略的なM&Aも増えてきた…。

恩地 業界の再編は避けて通れない。日本国内は人口が縮小し、老齢化が進むため、市場の縮小に対応しなければならない。その一方で成長のエッジを獲得するため、海外に出て行くためのM&A。中国などにしても、「安く物を作って、日本に戻して売る」というような、一つの生産基地としての位置付けだったものが、今はベトナムでもタイでも、市場を獲得し成長戦略の一環として進出している。現地の会社を買収する、あるいは合弁でやっていこうという目的をもった日本企業が多く、そういう意味では海外への進出の意味が大分変わってきている。新興国ではインフラ整備もこれからであり、例えばセメントや建築資材なども沢山必要になってくる。さらに、ノウハウもないため、その提供者として日本企業は期待されている。データを見ても、イン―アウト案件の件数は特に新興国で増えている。

――中国企業が日本企業を買収するような案件も増えている…。

恩地 直近では、中国の繊維大手「山東如意」によるレナウンへの資本参加が話題となった。これまでは、マーライオンHDの傘下に入った本間ゴルフであったり、中国の家電販売大手蘇寧電気によるラオックス買収であったり、厳しい状態の企業が中国企業に売却したり、マイノリティの資本参加するものがほとんどだ。隆々とした会社を中国にマジョリティを売却するようなマインドには未だ至っていない。中国側としては、特に技術系の日本企業に対する買収意欲は強いが、大型の買収が数多く起こりうるまでは、まだ時間を要すると思う。両国の経済規模を鑑みれば、日中間のM&Aはまだ「序章」の域を出ていないと見ている。

――今後の組織展開は…。

恩地 レコフが創業した1987年当時は、M&A案件を取り扱うのは殆どレコフか野村企業情報くらいだった。ところが、徐々に外資系やメガバンク系の証券会社が参入し、あるいはレコフからスピンアウトした人たちなど、様々なところでM&A案件を取り扱う企業が出てきた。そこで競争力を維持するためには、レコフの創業以来の強みが一体何なのかということをもう一度見極め、その部分を追求していく必要がある。「何でも出来ます」というのでは、ダイエーと同じだ。我々が23年の歴史の中で培ってきた、クライアントのネットワークやプライベートインフォメーションを持っているという一番の強みを活かして、「この会社がどういう状況にあり、どのようなことを考えているのか」ということを掴んでいれば、クライアントに対して適切な提案が出来る。さらに、資本市場からの規律が問われている現在、フィナンシャル・アドバイザーとして、適格なアドバイスが出来る能力も有している。我々は自分の足で歩いて、会社の課題を把握し、M&Aという形でその課題解決を行っていく。そして、その過程で資本市場の視点からの質の高いアドバイスを行う。ここに我々の存在価値があると考えている。

――現在のネットワークは2万社ということだが、海外展開などは…。

恩地 23年間の蓄積によるネットワークがあるため、国内におけるM&Aの相談には、具体的にお答えできる。社員は現在85名で、規模的にそんなに追求するつもりは無い。品揃えを増やしたり、今後、投資に力を入れたりするのであれば人も増やす必要もあるかもしれないが、専門性・独自性を活かしていこうとするのであれば、これくらいの規模で質を高めていくことが、我々の進むべき方向だと考えている。海外展開は、グローバルM&Aという世界各国のM&A専門会社のネットワークに加盟し、クロスボーダー案件に対応している。もちろん、海外展開のさらなる強化はこれからの経営課題の一つだ。クライアントと密に係わり合っていると海外案件のニーズは出てくる。そういった場合には、グローバルM&Aに加えて、独自の国際的な公認会計士事務所や法律事務所などとの連携を活かしていく。

――M&A業務には特殊な免許など必要なく、証券会社などと比べ自由なスタンスで事業が行なえるが…。

恩地 我々は株を売っている訳ではなく、あくまでも企業と企業の橋渡しと企業へのアドバイスという役割を担っている。免許がある、ないということは問題ではなく、やはり質的なところで、関わった案件の入口から出口まできちんとした仕事が出来なければ、その後の注文はこない。つまり、本当に質が問われる仕事なのだと思う。プロとしての仕事をするために常に高い意識を持つことは大切だと考えている。証券会社と比べてという点については、我々はどこの金融グループにも属さない独立系である利点はある。利益相反の問題は起きにくいポジションであり、ある意味、どの企業からも「等距離」なので、案件毎にしがらみなく最適なアドバイスがしやすいポジションと言えるだろう。

――リーマンショック後の金融危機の影響でM&Aも一時期縮小したが、今後の見通しは…。

恩地 今年は昨年比横ばいと見込んでいる。ピークだった07年から件数は3割弱程度減少している。その下げを急に戻すことは難しいと思うが、我々が日々クライアントを回っていて感じることは、徐々に持ち直しつつあるということだ。ただ、リーマンショックで工作機械業や人材派遣会社の売り上げが6割減になり、一段落したと思えばギリシャ問題が持ち上がる。本当に3年先、5年先にどうなるかが分からない。しかしながら、一夜にして様相が一変するような厳しい環境においても、M&Aは企業の経営に欠かせない手法となっていて、それは変わらない。我々はクライアントの経営課題に、M&Aという手法を用いて応えていくことが存在価値だと思っている。(了)