政治評論家 屋山 太郎 氏

政治評論家 屋山 太郎 氏

統制経済の流れを断つ政治家を



聞き手 編集局長 島田一

――この10年間、経済対策の効果が一向に現れない…。

屋山 理由は、日本の政治・行政構造が悪すぎることにある。例えば、東南アジアの国は経済発展の為に開発独裁を行なう。それはある程度必要であり、急に民主主義にしてしまうとフィリピンのマルコス政権のように利権を私物化してしまい始末に負えなくなる。そういう意味では、ミャンマーの軍事政権などもある程度必要だ。中国も民主主義化が加速して、突然政権交代してしまったら、国は潰れてしまうだろう。共産党独裁の形式は近代化に至る一過程であり、そういう意味では、日本が近代化に至る一過程で官僚内閣制を敷いたのは賢明な方法だと思う。そのお陰で戦中戦後の統制経済が上手くいった訳だ。

――日本はそれを今も引きずっていると…。

屋山 海外に行くととても良くわかるが、日本の行政は外を見ないで内だけ見ている。他の人がどう考えるかなどは関係ない。例えば、国の産業政策にしても、昔、17万軒の養蚕農家を守るために、輸入の絹に高い関税をかけたことがある。二次加工業を興した方が国全体にとっては余程大きな利益をもたらすだろうに、当時は必死に海外からの絹原料をシャットアウトし、結果として二次産業の可能性を潰してしまったばかりか、養蚕も守ることは出来なかった。

――なぜ、そういった考え方になるのか…。

屋山 戦中戦後の統制経済の流れで、業界と官僚が二人三脚で歩いているからだ。例えば、米国でビッグ3の社長が3人で食事をしたらスキャンダルになる。ところが、日本の自動車工業界などでは、そういうことが日常茶飯事に行なわれている。業界団体や商工会議所などの専務理事が経済産業省出身ということは珍しくない。特に大きい業界団体の専務理事ポストは、すべて傘下の省の天下り先となっており、そのため、企業が自由闊達に動けなくなっている。公務員制度の改革は絶対に必要だ。

――役人も自由に民間に出入りできるようにして、実際のマーケットに触れる機会が必要なのではないか…。

屋山 私はそうは思わない。米国なども役人は民間に出ないし、欧州もそうだ。日本の役人は非常に優秀であり、そういったことを認めながら、その能力を上手に引き出して、活用していくべきだと私は思う。しかし、その頭脳を経済界に持っていき、行政に取り入れるというのは、先ほど言った「専務理事スタイル」であり、好ましいものではない。日本の役人は優秀であるだけに、事前に色々と構想して、全てを雁字搦めにしてしまっている。「悪いことが発生するかもしれない」という可能性の元に、事前にあれこれと対策を考えるのだが、実体は、それをはるかに上回る事態になることが多い。そうであれば、最初は自由にしておいて、問題が起きたらその部分をひとつひとつ解決して、良くないと判断されたものは後から禁止すれば良い。

――今の政治に求めることは…。

屋山 私は「天下り根絶」「脱官僚」「生活第一」を唱える民主党のスローガンに賛成だが、民主党は脱官僚をあきらめている。福祉に対する費用は、ばら撒きと言われようと何だろうと、しっかりやるべきだ。日本が教育・福祉政策にかける費用は対GDP比で17.7%。OECD加盟国の中でも24番目と非常に低い。これに対して、フランスは27.7%で日本とは10%も違う。ざっと計算しても、国の費用に50兆円の違いがあり、それが必然的に出生率などに影響しているという訳だ。とはいえ、2万6千円を配れば単純に子どもが増えるとは思わない。お金を配るのと一緒に、育児園を整備することが必要だ。フランスでは、育児園がない市町村は国から罰せられたり、女性が出産後、前の会社に復帰しようとした時にポストが無ければ、その企業は罰せられる。日本はそれに比べて、子育てに対する国の政策があまりにもお粗末過ぎで、子どもを取るか、仕事を取るかの2者択一を女性に迫っているのが現状だ。

――このような流れになっている原因は…。

屋山 役人が「俺たちがやってやる」という意識が強すぎる。これは良い例だが、全国の小学校の校舎の基準は霞ヶ関が作っていて、「南側に大きな窓を作れ」などといった、全国画一の基準を各都道府県に押し付けている。しかし、北海道はそれで良いかもしれないが、沖縄までそのような作りをしたら暑すぎるだろう。そういったことは、東京の霞ヶ関の人間が決めることではなく、地域毎で決定されるべきものだ。さらに、学校では校長の裁量をもっと大きくすることで、スピーディーに物事を進めることが出来る。07年に参議院で民主党が第一党となった時、初めて天下り実体の調査を実現することが出来た。それまでは、その実体すら役人により隠されていた訳だ。その調査によれば、05年当時、4600社の法人に2万8000人が天下っていた。そういったところに流れたお金は12兆6000億円。私は、そこに使われている無駄金に対する批判はもちろんのこと、天下った人たちが業界をコントロールすることが、現在の日本における最も重要な問題だと思っている。

――なんとかしてその仕組みをストップさせなければならない…。

屋山 財務省に力はあるかもしれないが、各省割拠主義は壊せない。だから、政治がやらなくてはならない。それなのに、菅首相が「シーリング」という言葉を口にしたことには愕然とした。シーリングで各省庁予算の一割を一律カットするようなやり方では、不要な事業でも完全になくなることはない。つまり、種が残ってしまうということだ。この方法に菅首相が歴然と取り組み始める一方で、小沢氏はシーリングに批判的な見方をしている。しかし、実際には小沢氏も財務省の言いなりになる可能性がある。郵政の社長に斎藤氏を推薦したのも、世間的には亀井氏だといわれているが、実は小沢氏だ。言っていることと、やっていることが、全く違う。副社長になった坂氏も内閣官房副長官補だった。要するに、何にも変わっていないということだ。

――天下り根絶も、本気でやっていないと…。

屋山 本気でやれば脱官僚にもなるはずなのに、「国家公務員退職管理基本方針」を打ち出し、天下りがいることを公認し、「官民交流促進のための諸措置」まで出されている今の状況は、私が考えている政治行政構造の改革から全く逆行しているものだ。公務員は徐々に年次計画で減らしていき、能力給などといった民間の仕組みも取り入れて、最終的には労働基本権(スト権)を認めて人事院を廃止すべきだ。

――代表が菅氏でも小沢氏でも、日本は何も良くならないと…。

屋山 政治家が持っている政治方針を実現するために、方法論を聞いたり、手順を詰めたりするのは小沢氏の方が上手だと思う。そのため、役人は小沢氏に対してなら「言うことを聞かなくてはならない」という意識になるかもしれない。とはいえ、小沢氏は再び検察審査会が動けば強制起訴となる可能性も秘めている。本人が「断固として裁判をやる」と言っても、総理大臣にそんなことは出来ない。そもそも為政者は汚いことや贅沢をしてはいけない。例えば、私が実際に存じ上げている池田勇人氏は総理大臣になった途端にゴルフと料亭通いを止めた。佐藤(栄作)氏も福田(赳夫)氏も、応接間も無いような非常に狭い部屋に住んでいらしたものだ。このように、心構えがストイックでなければならない。昔の権力者である武士の精神とは、「絶対に贅沢をせず、修行して人格を高めよ」といったものだった。

――閉塞感に覆われた今の日本経済を救ってくれるのは、一体誰なのか…。

屋山 私は日本人のモラルは世界中でも一番高いと思っているが、一方で、永田町のモラルは一体どうなっているのかと思う。国民の世論調査では菅氏を支持する声が圧倒的に多いようだが、永田町では菅氏、小沢氏、五分五分だ。モラルはどうでもいいから景気が良くなりさえすればいいという発想も間違っている。個人的には、「みんなの党」の渡辺喜美氏は、公務員改革を本気で推進しようとしており、自分の意見を曲げないところが偉いと評価している。次の選挙で3桁の立候補者を擁立しようと思えば、それも可能かもしれない。昨年の衆院選で得た比例票300万票が、今回794万票と躍進したのも、日本国民の高いモラルのもとに、こういった人物の必要性を理解してきたからだろう。(了)