緊急記者座談会

緊急記者座談会

国のお金に頼らず自由な創造を




――日本振興銀行破たんの影響は…。

 立件するには手頃だったということだろう。初のペイオフ発動ということで大きなニュースとなったが、それで個人が大損することはなさそうだ。心配なのは、中小企業振興ネットワークの会員企業への影響だが、振興銀行の実体は商工ローンのようなものだったし、その点では、普通に預金をしている人達への影響は無いだろう。
 始めの理念自体は新銀行東京と同じでそんなに間違ってはいなかったはずだ。ただ、日本は銀行のステイタスが特殊で、銀行という名前がついていると危ないビジネスが出来ない。さらに金融危機の反動で金融機関を縛り付けてしまったことで、自由な取引がほとんど出来なくなった。そういった雁字搦めの状態がデフレの原因であり、一番の問題点なのだが、結局、日本はそういう国だと納得して、それに従わないと、今回のようになってしまうということだ。
 市場関係者の間では、振興銀行の話は数年前から終わっている。日銀当座を持っていないし、金融市場への影響は極めて小さい。敢えて言えば、ペイオフ発動の練習になったということだ。
 それより気になるのは、日本の景気がこれからどうなるのかだ。先日発表された4〜6月期の実質GDO改定値はプラス0.4%で良かったが、名目はマイナス0.6%。物価連動国債のブレーク・イーブンも当然マイナスで、これはちょっとひどい。日本の企業も安全志向になり、リスクをとらないような仕組みになってしまっているが、これからはリスクをとらないことが最大のリスクになる。

――これまでの安全志向の官僚主導を、政治主導で変えていかなければならない…。

 新しい自民党3役は50代で若いと言われているが、米国のオバマ大統領、英国の連立与党の党首二人、皆40代だ。この激動の世の中を乗り越えるには、日本にも、もっと若い人材が必要なのではないか。世界的なデフレ基調の中でも、諸外国では「何かやらなくてはならない」という危機感が強く、「失敗してもいいじゃないか。何もしないほうが遥かに悪い」という考え方なのに対し、日本の場合は既存のフレームワークから抜け出す勇気が無い。
 特に日銀は、失敗して叩かれることを恐れて思い切った行動を起こさない。その辺りを政治主導で行なう必要があるのだが、政治家は金融のことがわからず、そういった指示も出来ない。さらに日銀は、「極めて金融緩和的な状況を継続している」と言っているが、全く緩和的ではない。CPIがマイナス1%程度で長期金利が1%ということは、実質金利は2%だ。2%の実質金利が緩和的とは決して言えない。
 名目金利に関しては、理屈の上では皆「マイナスにしてもいい」と考えているのだが、実際問題として、今はすべてシステム化されているため、日銀の当座預金などもシステム的にマイナスに出来ないのだろう。そうであれば、預金の残高に対して税金をかけるなど、マイナス金利を作り出すメカニズムをもっと真剣に考えるべきだ。エコポイントのような制度も、極端な話、全ての物品に当てはめれば、消費意欲も増すのではないか。
 今は、銀行や国債ばかりにマネーが集中し、それが資金源になってパブリックセクターが膨らんでいる状態だ。公共投資も上手く使えば良いのだが、結局、高コストで無駄遣いに終わるという悪循環に陥っている。もっと、株や土地に資金を流して、資産効果を生み出す必要がある。それには、株にかかる税金を撤廃したり、国債に対する税金を高くするようなことも考えるべきだ。株から一般企業にお金が流れ、そのお金を各企業が上手く使うというような流れを、早く復活させなくてはならない。
 以前、日銀が株の買い取りを行なった時は、それを機に株価が上がり、日銀もその株で大儲けをして、大成功だった。ここまでデフレが長期化している今は、それくらいの思い切った策をとるべきではないか。そうしないことには、このデフレ下で国の借金は膨らむ一方だ。
 国債の日銀引受の問題に関しては、この放漫財政を日銀まで助けるのかという議論がある。確かにインフレを起こすためには日銀が国債を引き受ければ良い。しかし、それも10年前だったらまだ理解もできるが、この残高になったところで日銀がさらに国債を引き受けるのは難しいのではないか。
 放漫財政だけで借金が膨らんだのではない。デフレによって膨らんだ借金は2割程度あるだろう。つまり180兆円程度は日銀が買う責任があるということだ。また、デフレによって国の借金が増えただけでなく、パブリックセクターが高コストになってしまった。民間セクターがデフレによってコストを下げている中において、パブリックセクターは値下げしないため、3割ほど割高になっている。この状態を改善するには、インフレにする以外に解決策はない。


――今回の為替介入は、一応政治主導と見られている…。

 70円台の円高に突入したら介入と見られていただけに、市場には意外感があって、それが効果的となった。8月30日の日銀の30兆円規模の緩和とは大違いだ(笑)。あの時は見透かされており、本誌でもそれでは効果が無いと紹介していたにも拘らず実施した。日銀は全く市場を理解していない。
 本誌では為替の単独介入の可能性についても早くから紹介していたが、押し目買いにより介入コストを引き下げられるという財政上のメリットもある。
 とはいえ、司令塔が不在だからこそ、ここまでの円高になったという観は否めない。新政権の顔ぶれをみても、経済に明るいのは海江田経済財政担当くらいではないか。あとの人は、人柄は間違いなく良いが、経済はあまりわかっていない。このため、経済政策は引き続き官僚主導だろう。やはり、当社の市場担当者へのアンケート結果のように、小沢氏が首相になっていれば良かった(笑)。

――BIS規制が再び強化されたが、その影響は…。

 今回の金融危機の反動から、銀行はナローバンクに向かっている。その方が社会としては健全なのだろうし、これまで銀行が自己勘定でやっていた部分に関しては、ファンドのような形にして、リスクをとりたい人が、そのリスク範囲を分かった上で取ることのほうが自然だと思う。銀行が持っている預金はナローバンクで扱い、一方、ファンドなどについては、大いにリスクをとって収益を上げるように、棲み分けがあっていいのではないか。
 今回は自己資本比率を上げてTier1を重視するという流れだが、それ自体に意味はないように思う。結局、自己資本を引き上げるには、増資が必要になり、その増資に見合う収益を上げなければならない。本当にそれで金融機関が健全になるのかといえば、そうではない気がする。その結果、世界的にも、先進国の銀行は利益を上げられない業態になっていくだろう。世の中に対する流動性供給が減少し、先進国の金利はベアフラットにならざるを得ず、その分、当局の否応に関わらず、ファンドへと資金が流れ出ていくことになる。
 とはいえ、ファンドに対する規制は厳しさを増している。ファンドの場合は潰れても補償する必要がないため、公的資金を使わなくて済むという安心感はあるが、そうは言っても、ファンドが潰れれば、そこに出資や融資をしている金融機関等の経営は圧迫されるため、やはり規模の大きいファンドは取り締まらなくてはならない。結局、資本主義の成長と同じで、その時、その時の問題点を、国は逐一潰していくしかない。
 これが金融危機のせいなのか、世の中の趨勢としてその傾向にあったものが金融危機によって加速してしまったのか、先進国はほとんど成長していない。ところがブラジルと中国の経済成長には目を見張るものがある。ブラジルや中国、東欧、中欧、さらにアフリカなど今後経済発展を遂げていくであろう国が輸出セクターで、先進国が貯蓄セクターになるという大きな構造が、ここに来てさらに明確になってきたように感じる。
 米国もあと20年も経てば英国のようになってしまうのではないか。そんな中で、日本はもう少し立ち位置を明確にしないことには、「多少お金を持っている小さな国」になってしまう恐れがある。日本は周りを全て違う言葉の国々に囲まれ、英語力も世界で最低レベルというように、国際金融的に非常に大きなハンデを負っている。すでに経済力も中国に抜かれており、先日のGDPデフレーターは年率マイナス4%と強烈な数字だった。物価が4%下がるなんて、ありえない話だ。国民もきっとこの危機に気づいていて、とにかく変革を求めているのだが、戦後の成功体験があるため、なかなか変えられないでいる。


――ところで、リーマンショックからちょうど2年。証券化市場の動向は…。

 ここにきて少し落ち着きを取り戻してきたようだ。今回の金融危機のポイントはCMBSとCDOだったが、先月末から今月にかけて新しいCMBSも2つ出ており、不動産市況も若干落ち着いてきたと言われている。一方で、CDOに関しては基本的に暫く復活することは無いだろう。また、企業買収の時のローンを集めるCLOは、もともと日本にはほとんど無く、単に利回りを取りたい人たちが海外のものを購入していただけだった。もっとも投資ファンドによるLBOは海外で徐々に増えてきて、CLOにも復活の兆しはあるようだ。それ以外の、昔からあるリース料債権のABSなどは、日本でも継続的に発行されている。米国でも、クレジットローンやオートローン、学資ローンなどは、市場が崩れても、発行レートが変わるだけで継続的に発行されているなど、真っ当な人たちが行なっている真っ当な証券化商品自体は粛々と続いている。日本の住宅金融公庫のローンは相変わらず出ているようで、裏づけ資産の中身は段々悪くなっていると言うような話も聞くが、AAA格付が崩れるほどではない。全体的には、銀行規制等の強化も考えると、証券化市場が再びピーク時に戻ることは当面考え難い。

――米国のファンドは活況のようだが、日本では…。

 日本では、シティック・キャピタルのトライウォール買収や、ワイズパートナーズがゴールドマンの投資先であったテイボーを買収するなど、案件は出ているのだが、社会的認知度が少ないことと、プレスリリース等を出さないこともあり、日本のファンドはあまり目立たない。案件の数も扱い方も、米国とは全く違う。巨額の資金を持つ日本の年金基金でさえ、失敗をしないように何もやっていないというのが現状だ。もっと、米国、カナダの州政府や韓国などの年金基金の行動を見習って欲しいものだ。
 日本でリスクを取っているのはDBJだ。DBJがお金を出しているからこそ成り立っているものはたくさんある。本来ならば、DBJが10億円出したから他の民間が100億円を集めましょうという流れになるべきところを、DBJが90億円出したから、ではあと10億円出しましょう、というような状況だ。本来ならば民間がファンドを作り率先してリスクを取っていかなければならないのだが、そういう発想が乏しい。DBJも自分の存在意義を誇示するためにやっているようなもので、彼らによってマーケットが歪められているというのもまた事実だ。
 確かに、自分でファンドを作って儲けるという金融的な発想が日本人には少ない。全ての局面においてお上頼みが多すぎる。物事を、国のお金に頼らずに自由に創造していくという問題意識を構築していくことが、今後の日本にとっての一番の課題だろう。(了)