大阪証券取引所 取締役副社長執行役員 松本 学 氏

大阪証券取引所 取締役副社長執行役員 松本 学 氏

新JASDAQ市場がスタート



聞き手 編集局長 島田一
――「新JASDAQ市場」が始まった…。

松本 昨年1月に就任して以来、JASDAQ、NEO、ヘラクレスの3つの新興市場を統合させることにまい進してきた。昨年9月には売買システムの統合を行い、本年4月には経営統合を行い、現在は、大証のジャスダック本部担当として、市場統合へ向けて全力投球してきた。その最後の仕上げがようやく完成し、新JASDAQ市場が幕を開けた。振り返ってみれば、昨年1月のJASDAQ市場の状態は、売買代金が1日平均100億円と、2006年3月期の1日平均売買代金に比べて10分の1まで落ち込んでおり、新興市場は壊滅的な状況にあった。そんな中にあって、JASDAQは生き残る策として、自社でのシステム構築ではなく、大証の売買システムを利用するという決断をした。会社としてその決断は成功だったと言える。ほぼ同一化している6つの新興市場が日本に乱立してから約10年。その中で1000社を超える新興企業の上場が実現出来たことは事実だ。しかし、時代は大きく変わり、少子高齢化で低成長状態にある日本の新興市場が、今後、アジア経済圏の中でどうなっていくのかが問われている。このまま6つの新興市場が乱立している状態のままで良いのか、或いは統合したほうがいいのか。その一つの方向性を表したものとして、今回、初めて新興市場を統合し、「新JASDAQ市場」が誕生した訳だ。

――新市場の特徴は…。

松本 今回、JASDAQ、NEO、ヘラクレスの3つの新興市場を統合させたが、その統合の仕方は、各市場の特性を生かしつつ,新たな基準を取り入れることにより、新しい市場を作り上げることにした。名称は、ブランド認知度が高いということで「JASDAQ」を継承した。その中身としては、新JASDAQには2つの市場区分があり、「JASDAQスタンダード」という、事業の拡大が見込まれる企業群を対称にした市場区分と、「JASDAQグロース」という、将来の成長可能性に富んだ企業群を対象にした市場区分がある。市場としてのコンセプトは3つ。1つは投資家からの市場全体の信頼性の向上だ。私は新興市場の役割を、将来の可能性を持つ企業を伸ばす場所と位置づけており、そのため、間口は広くあるべきだと考えている。上場審査基準もやたらと厳しくするつもりはない。一方で、上場した後のサポート・管理は徹底的に強化し、また、上場廃止基準も、投資家から見てわかり易い市場にしていきたい。それによって市場の信頼性を高めていきたいと考えている。

――コンセプトの2つ目は…。

松本 革新性だ。これは、取引所自らも革新していくつもりで臨んでいく。我々が目指すものは、世界のベンチマークとなる米国NASDAQのようなオリジナリティー溢れる市場だ。この新JASDAQ市場でグローバルになり、そのまま留まってもらえるようなエンドマーケットにしたいという強い思いが私の中にある。今まで、この国は『権威の国』であり、「1部とそれ以外の市場では株券自体の担保力が違う」とか、「人の見る目が違う」というようなことで、圧倒的に最終目標は1部上場になっており、新興市場は通過市場とされていた。しかし、それが「JASDAQ市場の中で成長し、世界的な企業になって、そのままこの市場にいるのが良い」と思ってもらえるような市場にしたい。そう思ってもらえるようにするには、今までの限界を破って市場自体を革新しなくてはならない。そして、将来の日本の成長を背負うような、革新的な取り組みを行う企業に上場してもらう。ここが一番の決め手だ。この国の証券市場に対する見方や考え方自体を変える必要もあるが、同時に、そういった『権威』にも耐え得る会社が新JASDAQ市場に上場し、さらに、我々がその上場した会社に対してどこまでのサービスを提供出来るのかが問われてくる。そういったサービスに関しては、業務提携をしている米国NASDAQのコーポレートサービス等を参考に、JASDAQ風に変えて提供していくつもりだ。

――具体的に、どういったサービスがあるのか…。

松本 日本の取引所で初となる「アナリストレポート・プラットフォーム」を導入した。アナリストレポートを新JASDAQ市場に上場している約1000社すべてカバーするのは難しいため、希望する上場会社に対しては、作成費用を上場会社と当社で折半してアナリストレポートを作成する仕組みを整えた。これにより、カバレッジの低い時価総額50億円未満の会社でも、希望があればレポートが発行され、当社ウェブサイトのほか、幅広い流通手段で多くの投資家が無料で閲覧できるということだ。当初は出来ないだろうと言われていたこのサービスを、金融や法律の専門家と丁寧に擦りあわせを行い、私も相当の覚悟をもってスタートさせた。そうしない限り、新興企業向けマーケットは日本に根付かないと思ったからだ。我々の予想では100社程度がこのプラットフォームを利用すると見込んでいる。新興市場は投資家から見て分からない部分が多い。それなのに、レポートも何もなければ投資家が不安になるのは当然だ。我々は投資家の視点に立ち、今、これだけ注目を浴びているアジア経済圏の中で、これからはじまる日本の新JASDAQ市場を、『質』においてNo.1の信頼性を持った市場にしたいと思っている。5年後、10年後にその価値をわかってもらえるように、今、出来る限りのことに取り組んでいくつもりだ。

――3つ目のコンセプトは「地域性・国際性」…。

松本 全国47都道府県の中でJASDAQに上場している企業がないのは4県のみだ。それほど、この市場にはあらゆる地域の企業が上場している。この有り難い歴史による「地域性」を活かして、今後も地域経済の活性化のために徹底的に取り組んでいきたいと思っている。先日も、北陸・金沢、東北・仙台、四国・高松などでJASDAQ地域フォーラムを開いた。今後も、北海道、東海、中国、九州など全国でフォーラムを開いて交流会を行い、地域発展に力を入れていく。また、「国際性」については、先述したように、業務提携している米国NASDAQのコーポレートサービスを我々の出来る範囲で加工して、新JASDAQ市場に上場している会社が海外に進出する際の情報発信ツールを新しく作っていきたいと考えている。

――外国企業の日本上場については…。

松本 これが一番の問題だ。新興市場はアジア市場の中でも勢いのある分野なので、新たに、深セン証券取引所、韓国取引所のそれぞれとMOU(覚書)は結んだが、いざ上場となると難しい。例えば韓国の企業が日本でビジネスを行いたい場合に、韓国ではなく日本の市場に上場させるような仕組みは十分にあることだと思うが、審査の面でなかなか難しい問題がある。それよりも、すでに米国NASDAQに上場している企業が、日本でのビジネス拡大のために日本に上場したり、逆に、JASDAQに上場している会社が米国NASDAQに上場するといった共通上場から取り組んでいく方が良いだろう。個人的にはアジアの新興市場との共通上場は時期尚早だと思うが、ただ、いずれは、そういったことも可能になるように手は打って行くつもりだ。このような形で『新JASDAQ市場』を、本当にしっかりしたものにしたいと考えている。(了)