NPO法人証券学習協会理事長 西村あさひ法律事務所弁護士 滝本豊水氏

NPO法人証券学習協会理事長 西村あさひ法律事務所弁護士 滝本豊水氏

投資教育、今こそ不可欠に



聞き手 編集局長 島田一
――この度、NPO法人証券学習協会の理事長に就任された…。

滝本 10月1日に理事長に就任したNPO法人証券学習協会は、一般的に認知度はそう高くないと思うが、このような組織がもっともっと活発になっていくことが今の日本においては非常に重要なことだと思いお引き受けした。「投資家教育」と言うと、あまり響きは良くないかもしれないが、私は、お客様が色々な金融商品を買う時に、本当にその商品のことを十分理解して、自分の投資判断で責任を持って買っていただきたいと思っている。日本は昔から銀行を通した間接金融が殆どで金融規制も非常に強かったため、投資への馴染みも知識も少なく、そのため、金融機関の言うことを鵜呑みにして、その批判をすることもなかった。そうではなく、金融の仕組みや金融商品の中身を十分理解して投資をすることが大切だということを、この協会を通して伝えたいと思っている。

――間接金融では銀行預金の利回りも決まっていて、リスクもない代わりにリターンも高くない。リターンを求めるのであれば、自分でリスクをとって投資をしなくてはならない…。

滝本 銀行のお金の運用先は、銀行内でその専門のポストにいる人が以前の大蔵省や今の金融庁の規制の下に行なうため、預金者は安心して資金を預けることが出来てきた。しかし、資本市場というマーケットにおいては、投資家一人一人が「どの企業が一番成長性や収益性があるか」ということを判断して投資する。そうすることで、人気のある企業の株は値上がりし、資金調達が容易になり、その事業は拡大していく。一方で、収益性や将来性が無い企業の株には資金が集まらず、その企業や産業は衰退していく。その動きは極めて合理的だ。

――成長性のあるところに投資するということは、その企業のためだけでなく自分の利益にもなり、且つ、日本の経済の発展にもつながる…。

滝本 そのとおり、それが一番投資家の利益にもなるということが大事だと思う。投資というものは本来こういう仕組みであるにもかかわらず、日本の場合は銀行中心のマーケットが長い間続いたため、投資家が自分でリスクをとって投資することにどうしても慣れていない。証券投資を行なうにしても、証券会社に勧められるがまま、判断基準は儲かるか儲からないかというだけで、ともすれば、投資はギャンブルと同じだと考えるような人もいる。しかし、投資をするに当たっては、人の言うことを鵜呑みにしたり、一か八かのギャンブルのようだったり、他人がやるからやるというようなことではないということを良く理解して欲しい。ギャンブルというのは一か八かで全く偶然のものだが、企業への投資は経済合理性がベースにある。それは、必ずしも確実なものではないが、一定の根拠に基づくものであり、ギャンブルとは全く違う。

――日本の個人金融資産の6割以上は高齢者が保有していると言われている。まずは、そういった人たちの投資に対する意識を変えていかなくてはならない…。

滝本 家計の余裕資金を持っている高齢者の方々が、もっと若いベンチャー企業を応援したり、本当に見込みがあると判断したところに資金を提供したりすることが日本経済の活性化につながるというような考えを持って欲しいと思う。もはや、郵便貯金等に集まったお金を国が財政投融資的に動かすというような時代は去ったと思う。お年寄りが余剰資金で企業を応援し、そのリターンを期待するというような流れを作ることが、今後の日本経済の発展において重要なポイントとなってくるだろう。

――金融技術の発達に伴って複雑な商品も増えてきた。そういった商品をきちんと理解するためのサポートも必要だ…。

滝本 仕組みが複雑で難しい商品は、本来、理解できない人には売るべきではない。もちろんそういう商品に投資したいと望むお年寄りもいらっしゃることは否定しない。安全のために高齢者には難しい商品を売らないというような仕組みを作ってしまっては、いつまでたっても最適な資金の流れを生み出すことは出来ない。この協会は、そういった高齢者に商品をよく理解していただくための活動の場でもある。金融機関も、もう少しわかり易く金融商品の仕組みを説明すべきだ。今まで銀行で預金しかしてこなかったお年寄りの人達に、いきなり聞いたことも無いようなカタカナの商品を売っても、本当にその中身を理解して購入できるか金融機関もよく考えるべきだ。確かに利回りは良いが、その高利回りの背景にはそれなりのリスクがあるということを十分に理解していただくためのきちんとした説明がなければ、その投資はギャンブルと同じだろう。

――金融市場の教育は本来学校で行なうべきものだが、日本では殆ど出来ていない…。

滝本 日本では、お金の話は教育という聖域では余り語るべきことではないというような風潮がある。さらに、学校の先生の金融に対する知識も十分とはいえず、教えるまでに至っていない。しかし、預金の仕組みや保険の種類、株式・投資信託の仕組みなどは、社会生活のうえで非常に大事なことであり、そういった仕組みは、学校教育などでも取り上げて然るべきだと思う。一部には、市場原理主義といわれている米国がリーマン・ショック後の影響から上手くいっていないということで、市場主義や民主主義よりも一党独裁の国でマーケットに頼らないほうが経済が順調に進むというような揺り戻しの見方もあるようだが、そのような考えは違うのではないか。すでに経済が成熟した日本では、国が資金の流れを決めるようなことはもはや不自然であり、皆が良いと思う企業や産業が育っていくことが、健全な流れだろう。ただ、日本における株式投資のイメージはかならずしも良いものではなく、直接金融市場に活発にお金が流れず、それによって企業が成長するチャンスも失われてしまう。それでは、健全な金融市場は形成されないと思う。

――今後の取り組みは…。

滝本 1つのアイデアとして、理解力に懸念のある高齢者の金融商品に対する理解度を示すための認定制度のようなものはどうだろうか。認定される資格レベルによって、自分が取れるリスクの幅も変わってくるような仕組みがあれば、高齢者の楽しみにもなるし、売る側としても安心だ。また、投資家=消費者と考えれば、その商品をよく理解したうえで納得して購入(投資)することで、満足感も生まれてくるし、消費者の利益になる。今の日本は国がいくらでも国債を発行して資金を集め、その資金で国が次々に事業を行なうというような財政の余裕はない。民間で資金を還流し、マーケットでその流れを決めていくという方向を目指さなくてはならない。そのために金融機関などが投資のための講座を開くような際には、我々も独立第三者の組織として出来る限りの協力ができると考えており、そういう形で証券投資の普及に積極的に参加していきたいと考えている。(了)