財団法人 国際金融情報センター 理事長 加藤 隆俊 氏

財団法人 国際金融情報センター 理事長 加藤 隆俊 氏

海外に積極的に進出を



聞き手 編集局長 島田一

――マーケットでは、政治力が強い国の通貨が安く、弱い国の通貨が高くなるという状況が起こっている…。

加藤 今年のある時期までは円がセーフヘイブンと目され、ドルに対してもユーロに対しても強くなっているという見方だった。しかし、今では、マーケットが米国の第2段階の量的緩和を盛り込みはじめたことで、ドルが主要通貨に対して弱くなり始め、それが、円高の理由のひとつだと考えられている。11月2日〜3日に開催されるFOMCでは、FRBがどのような緩和策を打ち出してくるのかが注目されているが、そんな中で先日、米ガイトナー長官が「主要通貨間でこれ以上の大きな動きは望まない」という発言をしたという記事もある。それは今後のマーケットで試されることになるだろう。

――日本経済が決して強いとは言えない今の状態で、この円高とは…。

加藤 立つ位置によって見方も変わってくる。海外から見れば、日銀の実質実効為替レートはそこまで円高にはなっていない。一方、国内から見れば、製造業や中小企業が海外需要に期待せざるを得ない状況にあって、ドル決済が多い日本企業は円ドルの急激な動きに対して非常にセンシティブになっている。

――「通貨戦争に負けている弱い国だから円高になる」というマーケットのイメージでは無いということか…。

加藤 そう思う。昔つけた79円75銭という値は、その後のインフレ格差を考えると、実力で見ると現時点での値はもっと円高の水準に該当すると指摘されている。そうすると、海外で現在の円高がそこまで行き過ぎではないという意識が芽生えてくるのは当然だ。だからこそ、日本の当局の通貨政策は難しい。また、海外では、日本が仮に大規模な介入を行なった場合に、他の新興市場国が追随してしまうことも心配している。

――とはいえ、日本は1ドル360円だった時代から4倍の円高まで容認しているのに、中国ではわずか数%の元高容認に留まっている…。

加藤 中国人は、プラザ合意で日本が米国のプレッシャーに負け、そこで円高にしてしまったことが、日本のバブルを招く原因となったと考えている向きも少なくない。しかし、少なくとも日本人の感覚から言えば、日本は商人国家であり海外との協調がなければ経済が立ち行かない。その日本がキャッチアップしていく上で円が強くなるということは、むしろ日本産業の背中を押すという考えだった。こういった考えは、恐らく中国人にとっては受け入れられない説であり、日本のバブルの二の舞は踏みたくないと考えているのだろう。

――確かに日本は、過去に円高にしたことで良いこともあったかもしれないが、足元ではGDPの外需比率が10%台に縮小している。これは、いくらなんでも落としすぎなのではないか…。

加藤 ある程度のマーケット規模を持つ先進国の貿易依存度は、米国を始め、そう高くはない。ドイツが少し高く見えるのは、他のユーロ圏との取引が外国貿易にカウントされるため、依存度が高いように見えるだけだ。こういったことは、民間取引の結果がこのような数字として現れているのであり、これを政府が目標を立てて実現させるようなものではない。経済のロジックから行くと、徐々に上がっていくと思う。

――そのためにも、もう少し円安になることが必要なのではないか…。

加藤 マーケットがこれだけ大規模になってくると、なかなか望ましいと思う方向には動いてくれない。さらに、急激な動きになるのは困る。G20では、中国やインド、ロシア、ブラジルなどが加わったなかで数値目標などの具体的な結論を引き出すのは難しかったかもしれないが、これらの国々が入った枠組みを育てていくという意識の下で世界経済の運営について話し合うことは非常に重要なことだ。日本にとっても、それは大変意義のあることだろう。

――昔の為替介入によって、現在、外貨準備高には20兆円規模の含み損があると聞く。なぜ、ナンピン買いをしないのか…。

加藤 為替が他の金融商品と違うところは、その売買によって相手国通貨に影響を与えるということだ。そこには国際的ルールがある。それに則って行動することが日本にも期待されている。

――5年前に比べて日銀の資産は数十兆円単位で減少している。これにより日銀の資産が健全すぎるため、円高・デフレスパイラルに陥っているという意見があるが…。

加藤 それは先進国の中央銀行に共通する問題だ。リーマンショック後の混乱に対応するために行なった超金融緩和を段階的に縮小するということは、異常事態から正常化へ向かっているという見方がある一方で、金融緩和を止めるのは今の経済の状況からすれば好ましくないという見方もある。それはECBやFRBでも葛藤している問題だ。この点、米国ではファニー・メイ等のMBS(モーゲージ・バンク・セキュリティー)が満期になった分は国債を買い取り、それを維持する方向になったのだが、それ以上に更に踏み出すとも見られている。一方、日銀の場合、GDPに対するバランスシートはFRBよりも高かったということで縮小してきた。その縮小の戻しがどの程度必要なのか、或いは維持していくのかは、経済情勢を見ながら絶えず検討すべき問題だ。

――米国では住宅関連指標がまだ回復していない。そんな中で、銀行規制を強化するとデフレになり、強化しなければ国民の銀行に対する反発はますます高まっていくなど、FRBは引き続き難しい舵取りを迫られている…。

加藤 中間選挙を控えて米国のメインストリートは金融機関に対して非常に批判的な目を向けている。幸い日本はそういった問題はあまり大きくはなっていないが、恐らくバーゼル?やそれに関連する規制は粛々と導入していくだろう。そうはいっても、今、日本で銀行規制の強化が政治的な問題になっていないということ事態、随分落ち着いてきたということなのかもしれない。

――日本も銀行と証券会社との業務分離を定めた金商法33条をもう一度整理して、金融の在り方を考え直すべきだ。デフレ解消のために、金融というものの本来のあり方をもっと真剣に議論する必要がある…。

加藤 ただ、日本の銀行の貸出スプレッドがあれだけ縮小すると、融資業務だけで収益を上げるのはなかなか厳しい。そのため、他の商品も扱えるような状況を認めていく必要性がある。色々なキーワードはあるにせよ、すべては日本経済全体が活性化することが第一だ。

――海外から日本を見た時に感じることは…。

加藤 若い世代が、海外で働くということに対して関心が乏しい。日本は豊かで居心地が良いためか、外国に留学することはもちろん、旅行すら関心が低いということは如何なものか。世界は広い。若者には、もっと、「何でも見てやろう」という精神を持って欲しいと思う。尖閣諸島の問題をみても、外国とのやり取りというのは非常に厳しいものだ。蚕の繭のように覆われていては、日本人が今の生活水準を維持することは出来なくなるだろう。

――金融機関の海外進出も非常に遅れている…。

加藤 特にリテールは遅れている。今、見ていても、日本の銀行が海外で行なっている業務は、日本企業関連の取引やシンジケートの協融が主体ではないか。もっと、別の海外業務のモデルが出てきてもいいのではないかと思う。(了)