内閣官房参与 前参議院議員 峰崎 直樹 氏

内閣官房参与 前参議院議員 峰崎 直樹 氏

社会保障の充実に国民負担は不可欠



聞き手 編集局長 島田一

――内閣官房参与になられた…。

峰崎 今回新たに、社会保障について与党と政府の検討本部が立ち上がり、私はその事務局長を務めることになった。現在、制度設計の在り方をはじめ、必要な財源を税で負担するのか、社会保険料で行なうのか、目的税にするのか、或いは低所得者対策をどうするのか等を議論している。社会保障は毎年1兆円以上膨らんでいるが、それは裏を返せば、高齢化のテンポが急速に進んでいるということだと私は思う。日本は必要とされている社会保障費用に比べて、税や保険料という国民負担率が低すぎる。これまでのように、企業や家族が介護や子育てを行っていた構造は崩れてきており、さらに、若い人たちは雇用の問題に不安を抱えている。保育所の整備や若者の雇用の問題といったほころびを、今、改善していかないことには、これからの日本に未来は無い。

――現在、社会保障に使われている金額は…。

峰崎 年間約100兆円だ。この内訳は、約50兆円が年金、30兆円が医療、20兆円がそれ以外の福祉に充てられている。数字だけ見てみれば大きい額かもしれないが、それは国民に安心を与えてくれるものだ。そう考えると、今まで国債を発行して補ってきた不足分を、もっと国民が負担するのは当然のことだ。今の仕組みでは、国民が支払った保険料は、殆ど高齢者に向けられ、若者は苦しんでいる状態だ。特に、不安定雇用になった人たちなどは厳しい生活を強いられている。そういった人たちのバックアップをきちんとしないことには、結婚も出来ず、子どもも生まれない。つまり、こういった国民生活の問題点を直さない限り、経済の持続的成長は出来ないということだ。

――北欧などでは、税金を上げる方針を掲げる政治家が支持されている…。

峰崎 確かに、北欧などでは日本のように税金を上げることに対する拒否反応は少ない。それは、国民が税金を「預けている」という意識があるからだ。そこにはもちろん、政府に対する強い信頼がある。日本では、教育費と住居費に一番お金がかかり、特に子どもを良い大学に行かせるためには塾や予備校に通わせたりして多大なお金がかかっている。お金持ちしか良い教育を受けられないとなれば、当然ながら格差が生まれてくる。サービス化産業が進む今、知識が世の中を変えていく。その知識の部分が教育機会の不平等で劣化することになれば、日本経済の将来に期待は出来ないだろう。誰もが機会平等にきちんと学校を卒業できるようなシステムに早く変えなければならない。

――大学を出ても職が無い今の時代では、一般の大学を減らして専門学校をもっと多くするなど、学校のあり方についても、もう少し考えるべきなのではないか…。

峰崎 それは新しい需要をどのように作り出していくのかという問題にもつながる。それと同時に、現在のデフレを脱却するため所得を増やす必要がある。政府が出来ることは、最低保障を上げることと、不安定雇用者といわれる人たちへの教育訓練を充実させることだ。この十数年間賃金が下がり続けていることが、デフレ問題にもつながっている。その人達の底上げこそ急務ではないか。

――日本企業は海外展開を進めているが、低賃金の海外に対抗するには生産性の向上しかない。そうであれば、企業も労働者も、もっと仕事の適合性を重視し、労働の流動性を高める必要がある…。

峰崎 同一労働量、同一賃金の下では正社員も契約社員もなんら変わりは無い。企業によっては長期雇用が難しかったり、むしろ短期では困るといったような意見がそれぞれあるだろう。そういったことを考えると、私は雇用の柔軟性については賛成だが、その大前提にあるのは、日本国民としての最低賃金が生活保護の水準以下になるようではおかしいということだ。中小企業の中には「それではうちの企業はやっていけない」という経営者もいるかもしれないが、それは産業構造の変化に柔軟に対応しながら、時間をかけて新しい分野に転換していく以外にない。その間、政府の支援は当然だ。同じ仕事内容で、同じ時間だけ働いているのに、雇用形態の違いによって賃金が違うというのは間違っている。

――医療については、30兆円の医療費のうち、終末医療に9割使われているという説もある…。

峰崎 確かに無駄なところはカットすべきだが、基本的には日本の医療制度が良かったからこそ長寿社会が生まれ、今日の高齢化の問題につながっている。医療費の半分以上を65歳以上の人が使っていて、とりわけ終末治療に一番費用がかかっているというのも事実だが、だからといって終末医療の是非など生死の価値観は、個々の人間がその状況に置かれた時に判断すべきことだ。いずれにしても、日本では国民が支払う医療費は非常に安くてGDP比で8%弱。これは米国の半分だ。この安いコストでこれだけの長寿国ということは、世界でも驚くべきことだ。もっとも低すぎるがゆえに、さまざまなひずみが生まれているのも大問題のひとつだ。

――介護の問題については…。

峰崎 私は介護についてはそれほど詳しくないが、介護現場で働く人たちの中には、結婚して子どもを育てていくだけの生活費が得られないから辞めていくという人たちが多いと聞く。さらに施設の不足も含めて、今の介護保険制度には問題がある。もちろん、生産性を高める努力をすることは大事だが、それ以前に、若い人たちが介護現場に将来を感じられないような世界では駄目だと思う。

――社会保障を充実させるために、お金の流れを変えていかなければならない…。

峰崎 「コンクリートから人へ」というスローガンもあるが、現在、日本のコンクリートへの投資や支出は相当減っている。むしろ公共事業はある程度維持することが必要であり、これ以上下げるとむしろメンテナンスに響いてくる。結局、足りないものは、国民の皆さんからいただく保険料や税だ。しかし、増税をお願いすれば選挙に負けてしまうと思う政治家が、減税はしても、国民に負担してもらうような努力をしてこなかった。同時に、国民は、税負担をお願いしようとする政党を、選挙で敗北させてしまった。その結果として、国民が「なぜこのようなひどい財政状況にしたのか。なぜ、こんなに社会保障のレベルが低いのか」と思っている。そこにはマスコミが与える影響も多分にあると思う。

――徴税の民主化も必要ではないか…。

峰崎 現在、民主党政権では、納税者の権利を高めるための改革を進めている。大部分のサラリーマンは、源泉徴収をして年末調整をするだけなので、税務署との関わりは余り無い。民間企業や自営業の方々は税理士に任せているのが現状だ。そこで起きてくる問題は、税に対する手続きへの不満だ。例えば、税金の修正申告の中でも、減額更正は有効期限が一年しかない。つまり、税金を収めすぎた場合、一年過ぎればもう取り返すことは出来ない。ところが税務署が税金を取り損ねた分に関しては、5年間遡って徴収することが認められている。この点、3〜5年間程度遡って修正申告できるよう検討が進められている。また、異議申し立ては国税不服審判所を経由しなければ裁判所にあげることが出来ないという前置主義も改めるべきだ。そもそも、国税不服審判所で働く人たちは、ほとんど国税庁出身であり、国税側に反旗を翻すような結論はなかなか出てこないという、やっかいな問題がある。

――国税不服審判所も天下りを撤廃すべきという意見もある…。

峰崎 給与水準の問題などもあり、国税不服審判所に弁護士や税理士などの民間人を雇うということは現実的にはなかなか難しい。国税不服審判所を国税庁から内閣府に移すことも考えられていいのではないか。

――税金をもっとシンプルにすべきという意見もある…。

峰崎 全くその通りだ。現在の税の仕組みは複雑すぎる。それは、様々な優遇措置や特別措置があるからだ。国民が普通に読んでわからない仕組みとは如何なものか。とにかく、政府に信頼があれば、国民もきちんと安心して税金を払ってくれる。国民からそういった信頼を持ってもらうために、政府は信頼に足る、国民にとって切実な分野にお金を使うことが、今、まさに求められている。(了)