SBIホールディングス 代表取締役 執行役員CEO 北尾 吉孝 氏

SBIホールディングス 代表取締役 執行役員CEO 北尾 吉孝 氏

日本のSBIから世界のSBIへ



聞き手 編集局長 島田一

――御社では海外送金ビジネスへの参入も果たし、金融コングロマリット化が着実に進んでいる…。

北尾 我々の国内金融におけるコングロマリット化は、現在再参入に向けて準備を進めている生命保険事業で完成する。住友信託と共同運営する住信SBIネット銀行は、ソニー銀行より6年以上遅れての進出だったが、すでに口座数ではソニー銀行を抜き、今期3月には預金量、住宅ローン貸出残高でも追い抜く見通しだ。オンライン損保を展開するSBI損害保険も堅調で、黒字化するのは時間の問題となっている。これらはすべてリーマンショックの時に立ち上げ時期が重なり、この2年間は非常に大変な思いをしたが、日本の株式市場が未だ低迷している中で、我々には明るい兆しが見えている。今後は、日本のSBIから世界のSBIとしてさらに躍進していく。すでに海外では、スリランカ最大の商業銀行(セイロン商業銀行)の9.9%の株式取得、ベトナムのティエン・ホン銀行は20%の株式取得、カンボジアのプノンペン商業銀行は我々が韓国の現代スイスグループと共同で設立し、株式40%を保有している。さらに、ロシアのオビ銀行は50%株式取得で基本合意している。また、投資事業では05年から海外ファンドを通して投資していた企業群が回収期を迎えている。先日、台湾で1社が株式公開し、次いでハンガリーやベトナムでも公開する予定だ。世界各国に成長の種を蒔いてきたことで、将来的な収益を期待できる状況にある。

――中国での展開については…。

北尾 私にとって中国は、非常にビジネスをやりやすい国だ。中国は政・官・学の3つが最も連携している国のひとつであり、中国3大名門校と言われる北京大学、清華大学、復旦大学がそれぞれ巨大企業グループ群を形成している。大学が研究シーズを提供し、大学傘下の企業グループが資金面でサポートし、さらに政府もこうした動きをバックアップする体制が整っている。我々も早期にこの3大名門校の企業グループと提携し、中国における投資事業を行っている。金融サービス事業では、7月に中国天安保険へ出資したが、中国では外国資本の金融業への参入に関する規制があるため、展開が難しい。あくまでも投資業務を主体に、今後の規制緩和のタイミングに合わせて金融サービス事業を拡大させていきたいと考えている。

――色々な規制があることから、中国でのビジネスは難しいと聞くが…。

北尾 そういった意味で、香港が今後ますます重要になってくる。今、中国政府は人民元の国際化を進めようとしているが、中国国内では短期資本の移動を認めていなかったり、為替も当局が管理しており金利も自由化されておらず、情報も統制されているような状況だ。このような状態では上海を国際金融センターにしたいと思っていても実際のところできない。そこで、中国当局は香港を当面利用していこうと考え、香港で人民元建ての債券を発行出来るようにしたり、貿易面でも人民元での調達が出来るようにしている。SBI証券ではすでに香港の証券会社と提携しているが、今後さらに有力なところと提携していくことを考えている。

――その他、今後の取り組みについて…。

北尾 来年は我々にとって「バイオ元年」になるだろう。すでに、コスモ石油とのジョイント・ベンチャーで研究を進めてきた5-ALA(5−アミノレブリン酸)が健康食品や肥料として注目を集めている。さらに、同物質は脳腫瘍の術中診断薬としてもフェーズ3の臨床試験段階にあり、将来的には数百億円規模の利益をもたらすビジネスになるだろう。その他にも、目の網膜が老化することでかかりやすくなる病気に効く薬を開発している創薬会社2社にも投資している。また、もうひとつ、来年は「PTS(私設取引システム)元年」として、私設取引市場での取引を本格化させたいと考えている。野村証券が7月にスタートさせた「チャイエックス」は、まだ我々の「ジャパンネクスト」の取扱量の2分の1に満たないが、参加者は急速に増えてきている。米国でアーキペラゴとNYSEが合併したという歴史が示すように、今後PTSは取引所にとっての脅威になってくるだろう。

――投資家保護の観点から考えれば、売買の執行を一番有利な市場で行うのは当たり前のことだ…。

北尾 欧米では最良執行の概念が普及しており、取引所取引に限らず投資家にとって最良の条件で執行することが義務付けられているが、日本はそういった面で非常に遅れている。こうしたことが、いつまでたっても東京が国際金融センターになれない理由だ。さらに、日本ほど多くの個人金融資産があれば、債券市場にもっと厚みが出てきて、ジャンク債市場も発達していて当然なのに、そういった債券市場の活性化を図らなかった政府の責任は非常に重い。年金なども最終的には個人が主体性をもって運用していかなければならない時代なのに、基本的な金融教育さえ義務教育の中で行われていない。これでは泳ぎ方を知らない人間を海の中に突き落とすようなものだ。金融後進国ともいえる日本には金融教育が必要であるということをしっかり認識し、国は個人を啓蒙していく方法を考えるべきだ。

――IPOも日本のマーケットでは高値がつかないという理由から、韓国KOSDAQなどでの新規公開を検討する日本企業もあるようだ…。

北尾 我々のところにもそういった相談が多く寄せられており、日本から出て行く会社は増えている。実は我々自身も、住宅ローンの代理店業を行うSBIモーゲージの海外市場での公開にむけて準備している。そもそも日本はJ-SOX法の為に上場するためのコストが高すぎる。ベンチャー企業など、はじめのうちはお金がないところが大半なのに、上場のための費用が高くてはそれだけで動けなくなってしまう。上場が難しい上に市場のパフォーマンスも悪く、さらに高い法人税や相続税を支払わなくてはならない。今回、色々な税制変更で多少法人税が減税されたとしても他国と比べればまだまだ高いレベルにあり、それが、ベンチャー企業が海外へ逃避する一因になっている。

――日本市場がもっと活性化していくためには…。

北尾 日本をもっと開放する必要がある。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも当然参加すべきで、参加の是非について議論する前に、まずは枠組みを決める輪の中に入ることが大事だ。そして、自分たちに有利なように枠組みを作っていけばよい。輪の中に入らなければ自分たちに有利な枠組みもできない。日本人にもっと発言力があったり、根回しが上手だったり、欧米的な発想があったならば、日本の技術優位性でグローバルスタンダードになり得たものはたくさんあったはずなのに、残念ながら今の日本の企業や政治家たちにはそういった知恵がない。日本が国を開くにあたっては、当然移民を受け入れるという話になるが、例えば、以前話題になったインドネシアやフィリピンから来日した看護師、介護福祉士の研修生が日本語の壁などで国家試験に苦戦している問題などは、私のアイデアで言えば、いきなり人材を受け入れるのではなく、日本政府がこうした国に学校を設立して、そこで専門知識と日本語を学んだ成績優秀者に対してはビザなど面倒な諸条件なく日本に来てもらって仕事をしてもらえば良いのではないか。こういった取り組みをせずに今後も日本の人口減少が続けば、生産力の縮小は避けられない。

――御社が日本から脱出する可能性は…。

北尾 時が来たと判断すれば、その可能性は当然ある。そもそも弊社の役員にも外国人をもっと増やしていかなければならないと考えている。世界のSBIになっていくのであれば、将来の弊社のCEOが外国人でもまったく構わない。グローバルにこの会社を経営出来ることが極めて大事だ。最近、若者が国内に引きこもりがちだという声も聞くが、当社の若者は皆、海外に出たがっている。私はその声に応えて積極的に海外へ送り出し、逆に海外で教育を受けた人材を日本に連れてくることも考えている。すでにベトナムの私立大学FPT大学と当社グループのSBI大学院大学を提携させ、その取り組みを始めている。また、証券取引所の開設に向けて準備が進められているカンボジアにおいては、日系企業で唯一、証券事業フルライセンスの認可を取得した。我々がカンボジアでの証券業を重視している理由は、国有企業をはじめとする優良企業が上場する際の株式引受が活発になることが予想されるためだ。我々はこういった企業のアンダーライティング業務を手がけ、さらにそれを日本で販売することによって、日本の証券業務も活性化させていきたいと考えている。(了)