嘉悦大学教授 政策研究博士 高橋 洋一 氏

嘉悦大学教授 政策研究博士 高橋 洋一 氏

日銀資産の劣化は『So What?』



聞き手 編集局長 島田一

――デフレ下で大幅な税収不足に陥っている…。

高橋 日銀の金融政策が硬直的だから、そういうことになる。GDPの名目成長率を1%上げれば、1兆円分の増収は確保できる。菅総理は社会保障費が年間1兆円ずつ増えていることから、「このまま赤字国債を発行するような状態は、2年先は無理だ」という認識を示しているようだが、名目成長率を2%上げればお釣りも来る。実質成長率を上げるのは大変だが、名目成長率を上げるには日銀が紙幣を増刷して、何でも良いから購入すれば良い。買わないからお金が少なくなって円高になっているという話なのに、日銀としては過去から正しいことをやっているという認識を変えることが出来ずに、こういった行動を起こせないでいる。

――どうすればその認識が変わり、現在のデフレから日本は脱却できるのか…。

高橋 こういった時には、日銀も人を変えなければ無理だ。各国は大体、消費者物価上昇率を1〜3%に設定して毎月その達成率を計っているが、普通の国であれば8割、低い国でも6割は目標を達成している。一方で、日銀は上昇率を0〜2%に設定しても、福井前総裁の時に25%、白川現総裁に於いては、達成率は2割を切っている。こんなひどい国はない。しかも、0〜−1%に収まった確率が80%で、これは完璧にデフレターゲットだ。こういった流れは早く止めて、国会議決で日銀が国債30兆円を直接引き受ければ市中にもマネーが大量に出回りインフレとなる。デフレを脱却するにはこれが一番簡単な方法だ。

――マネーを増やすと日銀の資産が劣化するという意見が日銀には根強いが…。

高橋 日銀は政府の子会社であるため、そういったことは全く問題ない。もしも劣化したのであれば、そのお金で増資をすれば良いだけの話だ。もう10年以上前になるが、日銀幹部が米国のサマーズ元財務長官に「日銀のバランスシートが劣化するのでマネーは出せない」と言った時、サマーズ氏が「So What?(それがどうかしたの?)」と言い、その日銀幹部は黙ってしまったという話がある。また、バーナンキFRB議長は「そんなに大変ならば政府が保証をつけてあげればいいじゃないか」と言った。それは、日銀に国債を渡してお金を取り、そのお金で穴埋めすることの何が不都合なのかという、全く意味の無い議論だ。こういった10年前の議論が未だに行われているということは、その意味やセオリーを、実はまだよくわかっていない人が多いということだ。

――国には700兆円超の資産があるということだが、その中身は…。

高橋 半分以上が天下り先の貸付金と出資金に使われている。つまり、天下り先を排除してしまえば、借金も直ちに300兆円程度減るということだ。その中には郵貯の出資金も10兆円ほど含まれており、300兆円は民営化すれば入ってくる。それは現金化して国債償還に充てれば良いだろう。残りの資産のうち約200兆円は土地建物、あとの200兆円は外為特会と年金だ。外為に関しては、変動相場制の国でここまで介入して外為を持っている国は無い。借金で財テクをしているのと同じ意味を持つ外為100兆円は直ちにやめて、借金を返すべきだ。年金に関しては両建てで負債も100兆円あるため、両方ともそのままにしておいて問題ない。ただ、年金をファンドなどで財テクする必要はないだろう。今の運用方法は改善すべきだと思うが、資産として積立金という形で保有しておくことは悪い話ではないと思う。民主党政権になってから、郵政のように民営化すると言ったものを国営企業に戻しているものがたくさんあるが、結局それが増税につながっている。こういうことを行っている民主党は、次の統一選挙でしっぺ返しを受けるだろう。

――円高も定着してしまい、このままでは企業も一段と国外逃避し、失業率も高止まりしてしまう…。

高橋 為替の動きはマネタリーアプローチといってお金の量で決まってくる。学問的に為替要因の9割方はこれで説明できるというものだ。実はマネタリーアプローチは日銀の白川総裁がシカゴ大学に留学していた時に学び、それを日本に持ってきた考え方なのだが、日本銀行はその説を否定している。白川総裁も自分が若い時に書いたその論文の説を否定しながら、現在の日銀総裁という地位まで上り詰めた。それをいまさら覆すことは考えられない。また、民主党では藤井元財務大臣が円高容認発言をしたり、仙谷由人代表代行も昨年9月の為替介入に際して「82円が防衛ライン」と発言したりと、本当に滅茶苦茶で話にならない。野田財務大臣も昨年9月に行った2兆円の為替介入に関して「しびれた」と発言していたようだが、変動相場制をとる日本が、介入して為替を動かすということを世界はどう見ていると思っているのか。介入するということは変動相場をやめるということだ。普通の国は金融政策としてマネーの量を増減させて調節するのに、なぜそれをやらないのか。例えば米国などでは国内対策という名の下で金融緩和しドル安にして輸出振興しているように、その限りにおいて国内のデフレ対策でしたと言えば誰も何も文句は言わない。それが自国で出来ない中国やブラジルなどが腹立たしくて文句を言ったとしても平然と対応すればよいだけの話だ。「介入しました。すみません」と言っている日本は、国際感覚からして理解できない。

――日銀がもっと市中にお金をばら撒くことで円安にしろと…。

高橋 介入は理論的にも効果が無いことは明らかで、結局、財テクに失敗して2兆円の借金が増えたということになる。そもそも、これまで100兆円程度を介入に使っても意味を成さなかったのだから、財務省は事業仕訳で「外為の介入は効果がありませんでした」と宣言して止めるのが一番だ。昭和時代の金融恐慌の時、高橋是清が国債の日銀引き受けをしたことで日本は一番早く不況から脱出した。日銀引受けを行うことはマネーが少ない時は当たり前のことであり、法律改正も無く出来るのにそれをやらないのが今の日本だ。こういった事実を広く認識してもらうために、私は外部の圧力にひるむことなく、今後も自分のセオリーに自信を持って発言していく。(了)