三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト 宅森 昭吉 氏

三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト 宅森 昭吉 氏

今年の日本経済は大丈夫



聞き手 編集局長 島田一

――直近のデータから見た日本経済の動きは…。

宅森 日銀発表の実質輸出入統計では12月の輸出が非常に良く、外需も復活したのかと思わせたが、1月は再び、昨年11月の数字に戻った。こういった動きに頭をひねった人も多いかと思うが、私はその原因を、昨年よりも春節(旧暦元旦)の時期が早かったためだと見ている。1月の下旬から休みに入ってしまうため、ほとんどの輸出が12月下旬から1月中旬に集中してしまったということなのだろう。2月以降輸出は戻るだろう。しかし、仮に2月になっても輸出の数字が回復していなければ、この説明はつかないことになる。

――1〜3月の個人消費の動きは…。

宅森 1月分の耐久消費財出荷は前月比マイナス6.5%で非常に悪かった。その裏面には、政策としてエコ関連家電などを駆け込み購入させた反動が出ている部分もある。一方で、非耐久消費財の1月の出荷指数は前月比プラス2.2%で好調に推移している。1〜3月はまだ政策の反動が現れている時期なので不確定な部分はあるが、非耐久消費財の動きを見る限りでは全体的に消費は順調と言えるのではないか。

――原油高の影響などは…。

宅森 一時期、WTI指数で1バレル147ドルまで上昇した原油価格が一気に30ドル台まで下落してしまったが、そういった動きは産油国であるサウジアラビアやUAEなどにとっても好ましいものではなく、前々から増産をして価格の上昇を食い止めようとしていた。既に2月のサウジの生産は上限を60万バレル/日ほど上回る増産をしており、今のところWTI指数は1バレル90ドル台〜100ドル前後という比較的安定的な価格に落ち着いているとも言える。円高局面でもあり、かつてのような急騰を心配することはないだろう。

――中国でのバブル崩壊懸念や景気減速懸念は…。

宅森 中国はインフレ気味なので、それを抑えるために引き締めを行っている。来年は大規模な政権交代も控えているため、政府が景気波乱を引き起こすようなことはしない筈だ。日本のエコノミストのコンセンサスとなるESPフォーキャスト調査でも、中国の11暦年の実質GDPは平均予測で9.4%、弱気派8人平均でも8.8%と見ている。このように世界経済全体が堅調な動きを示すに伴って、日本の外需も4〜6月以降には復活してくるだろう。内需においても、足元ではまだ心配される数字も出ているが、雇用や所得関連で数字が悪化している訳ではない。

――日本は、景気が回復しても失業率は依然5%前後でなかなか改善しない…。

宅森 CPIの前年比を縦軸に、完全失業率を横軸に表した最近のフィリップス曲線を見ると、物価がプラスになってこないと失業率が4%を下回ってこないということが分かる。逆に言えば、デフレ脱却などの成長戦略が効を奏さなければ失業率も改善しないということだ。また、物価がプラスになっていない理由には需給バランスがある。10年10〜12月期のGDPギャップはマイナス3.8%となっていて、20兆円ほど需要が足りない状況だ。一時期に比べてその幅は縮小してきてはいるが、プラスになるのはまだ先だ。

――需給ギャップの改善や、デフレ脱却のためにやるべきことは…。

宅森 まずは、しっかりとした成長戦略が必要だ。政府は成長する産業に対して計画的にサポートをし、農業でも付加価値を高めてきちんと輸出出来るような枠組みを作るべきだ。単に農家戸別補償を行っても、それだけではバラまきに過ぎず、成長戦略になっていない。国際競争で勝てるような産業の育成を考えなくてはならない。また、為替の問題も、日米の金利差が一時より拡大している現在において本来ならば80円台後半程度まで戻しても良いはずなのに動かず、少し円高になり過ぎていると言えるのではないか。

――円高の問題は、日本人の実質賃金が、日本人が知らないところで世界一になっているということだ。企業は海外に雇用を求めて日本から脱出し、結果ますます失業率が高くなる…。

宅森 大学生の就職内定率は昨年12月1日段階でも7割を割っていた。これは円高で企業が雇用に対して慎重になっていたという部分もあり、もしかしたら今年の4月1日段階の就職率では株や為替の落ち着きを反映して回復しているかもしれない。実際に、為替が70円台に突入していないという事実は企業にとって安心材料となっている。問題は、雇用のミスマッチだ。中小企業での雇用は拡大しているのに、就職先を探す学生は大企業ばかりに目が向いている面もある。大企業で駄目なら中小企業でもいいじゃないかと思うようになれば、就職内定率も少しは改善してくるだろう。

――その他の社会現象で目立つものは…。

宅森 ESPフォーキャスト調査の完全失業率の11年度・12年度の予測を見ると、大体4%台となっている。物価と失業率の関係から、物価がプラスになってくれば失業率を3%台と予測する声も聞こえてくると思うのだが、12年度の消費者物価予測は新基準(2010年基準)でみると前年比平均マイナス0.22と、なかなかプラスに転換しない。ただ、色々なことが少しずつ良くはなってきている。例えば、ホームレスの数は過去最低で、現金給与総額も昨年3月以降は全て前年比プラスになっている。また、08年9月から急増していた放火火災件数も09年後半から落ち着いてきており、自殺者数や金融機関店舗強盗事件数も減少している。完全失業者の数自体も、1月段階で前年同月比14万人減となり、勤め先都合による失業も20万人減っている。とはいえ、大学は出たものの就職していないという学卒未就職者が1万人プラスとなっていて14万人もいるということが大きな問題となっている。

――今後の日本経済の展望は…。

宅森 今年は強気に見て良いと思う。中東の問題も、原油価格が安定していれば目先はそれで良い訳だ。例えば、騒動が北朝鮮などに飛び火した場合はまた状況も変わってくると思うが、そこまでのシナリオは描きづらく、危機的状況があったとしてもそれが顕在化することはないだろう。また、天候のデータを見ると、日本では厳冬や猛暑になりやすく、旱魃などの異常気象の発生確率も高いとみられるラニーニャ現象が昨年見られ、その気象の影響で需給バランスが崩れて食品の値上がりなどにつながったと考えられるが、今春にはそれも収まりそうで、食料値上げの問題などにも変化が出てくるのではないか。いずれにしても、今年は卯年で、卯年の年末というのは、過去すべて景気拡張局面にある。ESPフォーキャスト調査の総合景気判断DIでも11年2月調査では本年末の景気判断で100というめったに出ない強気の数字が出ていたり、大統領選挙やオリンピックの前の年であったりと、今後の景気を強気に見る要素は沢山ある。きっと、今後の日本経済は大丈夫だ。(了)