財務省 財務官 玉木 林太郎 氏

財務省 財務官 玉木 林太郎 氏

日本、不均衡是正の措置は必要なし



聞き手 編集局長 島田一

――2008年からG20サミットが開催されているが、これだけ多数の国が集まって、話はまとまるのか…。

玉木 G20サミットの第1回会合がワシントンで開かれたのは08年11月で、リーマン・ショック直後の緊急対応が必要な時期だった。当時は、インドや中国など新興国を含んで世界のGDPの85%を占める国々が集まるG20が、これまでのG7あるいはG8の役割に取って代わるという論調が(特に日本で)強かった。そして、09年の秋のピッツバーグ・サミットでG20を「premier forum」と定義したことで、さらに国際経済調整の中心となるフォーラムとしての地位を確立した。しかし、四半世紀の歴史を持ち同質なメンバーで構成されたG7とは違って、経済構造も意思決定プロセスもさまざまであるG20を運営していくことには別の難しさがある。IMFや世銀の改革、金融規制のあり方など、世界的なガバナンスのあり方については新興国を含むG20が機能しているが、特定国の金融危機へのすばやい対応が求められるような場合は、G7が依然として重要な役割を果たしていくだろう。

――G20で作った経済目標は実際に機能してくるのか…。

玉木 G20サミットは危機の中で生まれたフォーラムであり、再び世界的な危機を起こさないことはG20の大きな使命だ。危機の後、世界的に対外不均衡がいったん縮小していたが、再び拡大する兆しがある。『力強く、持続可能でバランスのとれた成長のためのフレームワーク』というピッツバーグ・サミットで開始したイニシアティブの中で、持続不可能な対外不均衡が生じるのを防ぎ、その是正のためにどのような政策を採るべきかをG20自体のプロセスとして議論しようとしている。昨年2月のパリのG20財務大臣・中銀総裁会合で、二段階のプロセスを経て、政策対応を必要とするような継続した大規模な不均衡に焦点を当てることを可能にするような一連の項目(インディケーター)に合意した。4月の大臣会合までに、これらの項目を評価するための参考となるガイドラインに合意する必要がある。こうしたメンバーによる相互評価プロセスの経験を重ねてきたG7と違い、G20の中には自国のことについて他国と一緒に議論するという経験が初めてという国も多く、今後のプロセスがスムースに進むかどうかは確実ではない。

――日本では、この円高で企業が海外へ脱出するという動きが加速しているようだ…。

玉木 このところ円高だから日本企業が生産拠点を海外に移しているというのは、単純過ぎる議論だと思う。例えば2002年から2007年まで円安が続いた時期も、日本企業の海外移転は進んだ。海外進出を決定する一つの要素として為替も勘案されるだろうが、むしろ、グローバリゼーションの進展に対応して日本の企業が国際化していく中で、需要の多い場所で製造・販売することを考えたり、各国が持っているFTAのネットワークを利用したりと、海外展開するための理由は他にも色々あるはずだ。このようにグローバリゼーションが進展していくと、国際的な貿易財の生産において、同じ労働に対して賃金水準が各国間で大きく違うという状態がいつまでも続くわけではないということだ。日本が国内に生産拠点・雇用を維持していくためには、為替だけでなく多面的な政策が必要だと思う。

――円高も悪くはないが、変動のスピードが早すぎる。為替については、中国と同じように管理相場制にしたほうが良いという声もあるが…。

玉木 固定相場制と、資本移動の自由化と、独立した金融政策の3つは両立しないというのが経済学の教えるところだ。中国の場合は資本の移動を制限しているため、残りの2つが実現できるが、日本が仮に自由な為替制度を放棄すれば、自由な金融政策を放棄するか、資本移動を制限しなくてはならない。これは日本の選択肢ではないだろう。為替相場は、各国の金融緩和の姿勢や、金利差・インフレ・国際収支・マクロ経済見通しなどさまざまな要因で変動する。日本のような自由で大きな経済が、中国と同じ仕組みで為替制度を運営していける、いくべきだという意見には賛成できない。

――マーケットで行き過ぎた部分に対して介入を行うのは当然のことだと思うが、国際的なコンセンサスは…。

玉木 確かにマーケットはしばしば行き過ぎることがあるが、だからと言って、マーケットのメカニズムを損なって良いと言う議論にはならない。これまでG7で積み上げてきた考え方は、為替は基本的にマーケットが決めるものということだ。ただし、何らかの理由で市場のボラティリティが高まり、市場の安定が大きく損なわれるような場合には、政府が市場に介入する可能性を排除してはいない。そうした考え方で我々は行動しており、昨年9月の介入もこの考え方に沿ったもの。その時点でボラティリティが大きくなり過ぎ、市場を安定させる必要が生じたから行動した。その際、特定の水準を想定したり、長期かつ大規模な介入を行う考えを持っているわけではないことは、繰り返し説明しているところだ。

――G20で不均衡是正が論じられる中で、日本は巨額の財政赤字を抱えているにも拘らず、すでに大国となっている中国を助けるために重い課題を負わされるのではないか…。

玉木 日本の場合、対外経常黒字はGDPの2〜3%だが、その大半は所得収支といわれる、過去の海外投資の結果である対外純資産の利子や配当という受身の資金の流れだ。このため、日本の経常黒字がやや大きく見えたとしても、そこでこれを是正するための政策措置が必要という議論はないだろう。また、この不均衡是正は、あくまでも対外バランスの不均衡を問題にしており、対外バランスの不均衡の原因が何で、継続する性格のものであるかどうかを判断するために、国内の民間部門や公的部門のバランスを参照しようというものだ。例えば、長期間大きな財政赤字を出していて、それが原因となって大きな経常赤字が生じているのであれば、これはかなり継続的な対外不均衡ではないか、という議論になる。

――通貨制度見直しの方向感は…。

玉木 現在国際通貨制度改革の名の下にG20が取り上げようとしているのは、新興国などへの流入が問題となっている資本移動が一つのテーマであり、また国際的な流動性というくくり方でその他の問題を扱おうというものだ。国際的な流動性の問題として、例えば危機が起こって急激にドルが不足した場合のセーフティネットをどう作るか、また、チェンマイ・イニシアティブなどといった地域協力とIMFがさらに連携を強化するにはどうしたら良いか、といった点が議論されると考えられている。

――最近の原油高で、円高の居心地が良くなってきている部分もある…。

玉木 中東の動きで最も気になるのは、これが世界の政治・経済構造にどのようなインパクトを持つのかが見通せないことだ。石油の値段が上がることは大きな問題だが、それ以上の構造的な影響があるのかを注視しなくてはならない。(了)