証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏

証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏

意志決定の仕組み変えスピードアップを



聞き手 編集局長 島田一

――国債取引は来年の4月23日から決済期間が短縮され、これまでのT+3からT+2となる…。

竹内 国債の決済(振替)は日銀が行うが、ほふりでは、約定後の一連の事務処理のスタートに当たる照合機能を提供しており、国債の決済期間短縮についても、照合面での準備は順調に進んでいる。こうした照合技術は資本市場における各種取引に幅広く活用できるものであり、国債等の決済においてもこれまでのノウハウを活かすことができる。また、こうした照合システム及び証券の電子化は、我々が進めてきた一連の決済制度改革の柱であり、今後も証券決済の効率化を進めていく際に重要な役割を果たしていくものと考えている。

――ほふりのテーマの進捗状況は…。

竹内 我が国における証券決済制度改革の総仕上げとなる株券の電子化を達成してから2年が経過し、新しい制度も浸透してきたと感じている。ただ、金融資本市場における清算、決済の効率化とリスク管理には、これからも取り組んでいく必要がある。特に、これだけクロスボーダー取引が拡大し、取引所における非居住者の売買シェアが5割を超える中で、日本市場の使い勝手をよくしていくことは、国際競争力の強化にもつながると思う。我々としても、クロスボーダー決済に関わっている人たちが、海外と日本の仕組みについて、どこがどのように違うと感じているのかなど、ユーザーニーズをよくフォローしていきたい。

――ほふりの業務範囲については…。

竹内 我々は海外の証券保管振替機関に比べて活動範囲が狭い。例えば、担保取引において、欧州ではその際の担保管理サービスを我々と同じ証券決済機関であるユーロクリアやクリアストリームなどにアウトソーシングしているが、我々はそうしたサービスを提供していない。確かに、独占的に業務を行うことで弊害が起こる可能性もないわけではないが、それはリスク管理をしっかりしていれば解決できるのではないか。きちんとしたガバナンスの下で、金融資本市場を効率的でもっと実のあるものにしていくことが大事だと考えている。いずれにしても業務範囲の問題は、利用者ニーズをベースとし、関係者との意見交換を踏まえ、ガバナンスの過程で検討していく課題である。

――ほふりでお金の流れも同時に扱えるようになると…。

竹内 証券決済の場面で、証券と資金の決済が別々に行われるとなると、例えば、証券の決済は終了したのに資金の決済が未了の段階で当事者が倒産した場合、つまり、証券は相手側に渡ったが現金が手元に来ない場合には、その未回収の代金は破産管財人の下で処理することになる。しかし、これでは取引の安全性が確保できているとは言えない。そのため、日本でもこうしたリスクを削減するため、DVP決済という基本的なルールを作り、証券と資金を紐付けて決済することを可能とした。しかし、欧州のユーロクリア、クリアストリームと違って、我々は銀行免許を持っておらず、資金の扱いに直接的に関与しているわけではない。より利便性・効率性の高いサービスの提供を目指すにあたって、どのような枠組みが望ましいのか、あるいはこうした資金の扱いにほふりが関与していくことで決済の効率化が進むのかについて、業界関係者の中にも色々と意見があると思うので、常時研究をしていく積りでいる。

――日本の金融資本市場強化に向けてほふりには何ができるのか…。

竹内 金融資本市場のプレーヤーが新しいことに挑戦するには多額の資金が必要であり、今の経済環境はあまり良いとはいえない。しかしながら、我々が手がけた電子化を幅広い分野に利用することで、証券業務が効率化し、証券ビジネスの多様化も可能になる。例えば、増資や株式分割といったコーポレートアクションなどによる投資家の権利処理も電子化されている。大切なことは、権利処理に係る一連の作業が正確かつ迅速に行われることであり、そのためには発行体から投資家までコーポレートアクション情報が正確に伝わる仕組みが重要となる。実は、海外では、コーポレートアクション情報の伝達ミスにより相当な損失が発生していると言われている。きめ細かいサービスを得意とする日本では比較的そういったところでの弊害は少なく、そうした信頼のうえに立ったサービスを強みとしてアピールできれば、自ら日本市場の存在も見直されよう。

――コーポレートアクション情報の授受に係る効率化に向けて…。

竹内 我々の業務処理に必要なコーポレートアクション情報は発行体から送られてくるが、発行体は同時に、東証を通してディスクロージャーを行っている。こうした内容はオーバーラップしている部分が多いため、ルートを合理化した方がよいとの意見がある。今、コーポレートアクション情報を効率的に集配信できるインフラの構築を取引所と検討している。ゆくゆくは、例えば、チャネルを一本化し、発行体が入力すれば、必要各所に内容が伝わり、それが最終的には仲介者を通じて投資家にきちんと伝わるという流れを作りたいと考えている。大量、且つ画一的な処理において、ITを活用する余地はまだまだ沢山ある。これが上手くいけば、必ずコストとリスクは減少する。

――日本では、色々な事に対するスピード感が欠けている…。

竹内 今の日本の意思決定の仕組みではスピーディな変化に仲々対応しきれない。トップダウン型の中国、米国、シンガポール等ではスピーディな時代の流れに素早く対応しているのに、今や日本が世界の話題になることはなく、あったとしても反面教師としてだと言われている。しかし、日本経済の実態がそこまで悪い訳ではない。確かに長い目で見れば、少子高齢化による労働人口の減少が今後のGDPにも影響を及ぼすことはあるだろう。しかし、今、海外から日本を見る目が冷たいのは、少子化による成長率の低下だけが理由ではないと思う。

――日本はいつまでも過去の成功体験に浸るのではなく、どこかのタイミングで大きく変わらなくてはならない…。

竹内 皆がそう感じているはずだ。成功体験に倣って目標に突き進む時代は終わった。これからは物事を自分たちで考えて作り出す能力が必要だ。この点について、私は日本の教育についても、もっと考え直すべきだと思う。「教育」という言葉は、ドイツ語では「人間の中に潜在的にある素質を表に引き出す」という意味を持つ。フランス語では「躾」と「知ること」を意味する。日本も、これから新しいものを作っていかなくてはならない段階にきているのに、子供の教育が「教える」だけのものでは如何か。答えを覚えさせる授業ではなく、自分で考える子供を育てる授業に変えていくべきだ。
戦後、平和な時代が長く続き、欧米に追いつく段階では欧米のやり方を見習うことで成功したが、フロントに位置する様になってからは、逆に中国、韓国等から追い上げられ、日本は自ら開拓する段階になっている。経済・社会各分野で革新が必要であり、確かに難問は沢山あるが、難問に正面から取り組む勇気と強靭な意思が必要であり、各界のリーダーの責任が重いと思う。様々に変化する内外の動きに対して、国内の制度は果たしてマッチしているのだろうか。新しい制度はそうした矛盾が生じたことを契機として作られてきたが、時が進み、その制度にはさらに矛盾が起きているということを正面から見据えて、新たな改革に取り組んでいく覚悟がなければ、この巨大な社会は維持できない。国債の大量発行に関しても、最終的に返済の義務を負うことになる未来の子供たちの意思は反映されることなく、将来に責任を持てない人たちの間で議論して物事を決定している。これでは公正とはいえない。我々国民も、こうした社会のあり方について、今、しっかりと見つめなおす時期にきているのではないか。(了)