年間4千億円削減し、景気対策にも寄与

年間4千億円削減し、景気対策にも寄与

日本ユニシス
特別顧問
前住宅金融支援機構理事長
島田 精一 氏



聞き手 編集局長 島田一

――5年8カ月前に住宅金融公庫総裁として就任し、機構を大改革して任期を終えられた…。

島田 官から民へという潮流の中で、米国ファニーメイをモデルに平成15年に立ち上げた民間住宅ローン債権の買取等を行う証券化支援事業を軸に、市場からの資金調達、補給金からの脱却といった住宅金融支援機構の改革を推し進めた。平成21年度決算では、証券化支援勘定(フラット35)等の新しい勘定で12億円の利益を計上するに至ったが、これは独立行政法人(独法)第一期末の平成23年度までに単年度黒字化するというミッションを2年前倒しで達成したことになる。同時に、改革に着手する前は、年間4000億円超もあった国からの補給金や交付金などの削減も着実に進み、中期目標期間の最終年度(平成23年度)までにはすべて廃止される見込みだ。

――機構が発行するRMBS(住宅ローン担保証券)は人気が高い…。

島田 現在の機構MBSの残高は約9兆円。毎年数千億円規模だった月次MBSの発行額は、昨年度は約1兆7700億円となり、今年度の発行額は2兆円を超すと見込んでいる。背景には、政府の経済対策で昨年2月から実施した「優良住宅取得支援制度(フラット35S)」の金利引下げ幅の拡大がある。これは、省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久性・可変性に優れた住宅に関しては、返済期間開始後10年間は長期固定金利住宅ローン「フラット35」の基準金利を1%引き下げるというもので、昨年度の買取申請件数は前年度比約2倍(買取金額で約3倍)に跳ね上がった。リーマン・ショック以降、投資家は証券を買うことに対して非常に慎重になり、民間のRMBSも含めてよほど信用のある債券しか買われなくなった。発行体は誰なのか、格付けはどうなのか、さらに流動性の高さも投資家が購入する際の重要なポイントとなっており、そのため、私は就任して以来、証券会社にセカンダリーマーケットの活性化を働きかけてきた。また、機構MBSについては、発行体である住宅金融支援機構の信用力に依拠しなくても最高位のAAAの格付けを取得できるように超過担保を設定している。このような工夫をしながら作り上げたAAA格の機構MBSは、投資家から高い評価を受けているのだろう。

――投資家に好まれる証券というのは、発行体にとってはコストが掛かる…。

島田 主に米国の投資銀行が手がけたサブプライム・ローン等の証券化は、発行体にとって非常に儲かるものだったが、投資家にとってはリスクの高いものだった。結局、金融工学は信用リスクを分散することはできても、消し去る魔法ではないということを、改めて、世界の金融界に知らしめることになったと思う。一方で、機構の財務については今後も順調に推移するだろう。今回の東日本大震災ではかなりの不良債権も出ると思うが、機構の経営に与える影響はそれほど大きくないのではないか。旧公庫融資等の既往債権勘定の財務改善も予定通り進んでいる。黒字化するためにはフラット35の残高を増やし、手数料を増やすことが重要なのだが、同時に組織をスリム化し、業務運営を効率化するということも必須だ。さらに、独法第二期末(平成28年度末)までの目標としている繰越損失金の解消も、目標年度を待たずに達成可能だとみている。

――日銀も、REITを買うよりRMBSを買った方が良い…。

島田 RMBSには期前返済リスクがあるが、米国のPSAモデルに倣ったPSJモデル等、簡便な分析ツールも提供されている。民間では発行が難しくなっているRMBSも、すでに機構では約9兆円の残高となっており、現在、約50先を超える機関投資家が投資してくれるまでになった。さらに外国の投資家も取り込むべく、アジアおよび欧州へのIR活動も行っているところだ。震災の影響が外国の投資家にどのように出てくるのかは心配だが、もはや「フラット35」の唯一の資金調達源は市場であり、財政融資資金に頼るわけにはいかない。市場と対話をしながら、市場の信認を受けて、如何に安定的・継続的に発行し続けられるかが機構の最大のテーマとなっている。

――住宅市場全体の環境は…。

島田 住宅市場を見るうえで重要な指標となる新設住宅着工件数は、昨年6月から前年比プラスが続き、22年度はさらに10%の増加が見込まれている。特に持家は15カ月連続で増加している。これは、住宅エコポイント、住宅取得等資金の贈与税非課税枠の拡大と、機構の「フラット35S」の金利引き下げ幅拡大という3つの政策パッケージによるところが大きい。しかしながら、失業率が高い水準にあることや、金融機関が貸家に対する融資に慎重なことなどから、貸家の着工件数は前年比マイナスが続いている。民間金融機関が、今のような状況下で不動産融資をためらうのはやむを得ないと思うが、実は機構の賃貸住宅融資も仕分けで事業見直しを迫られている。大震災の影響もあり今後どのような展開になるのかわからないが、仕分けのときに賃貸住宅融資の役割について必ずしも十分な理解を得られなかったことは残念に思う。

――東日本大震災の被災者に向けて行う復興住宅融資については…。

島田 機構では、災害復興住宅融資として、被災住宅の補修・再建資金として、最長35年、全期間固定金利で年1.87%(4月20日現在)という低金利の住宅ローンの提供を行っているが、政府においては、補正予算でこの金利の更なる引下げ措置などを検討していると聞いている。また、旧公庫融資や「フラット35」を含む機構融資を返済中の方に対しては、払込の猶予など返済方法の変更にも対応している。とにかく、このような大きな災害があった今、住宅を取得するには10年や20年では返せないお金が必要だと思うし、その間の金利のリスクを個人が負わないためにも固定金利が望ましいのではないか。また、「フラット35S」では、耐震性や省エネルギー性に優れた住宅を、長期固定・低金利の融資で建てることが可能だ。電力問題が長期化すると思われる今の日本においては、省エネルギー性に優れた良質の住宅は今後益々必要となってくるだろう。こうした環境に優しい、耐震性等に優れた住宅の取得に対して、長期固定の融資を比較的低利で安定的、継続的に提供することが機構の大きな役割だろう。

――最後に、住宅金融支援機構を民営化する可能性は…。

島田 機構はこのまま独立行政法人でよいのではないかと思っている。株式会社になると、結局、利益第一主義にならざるを得ない。それが行き過ぎると、ファニーメイのように多額の役員報酬をもらったり、株式配当をするために粉飾決算をしたりということにもなりかねない。独立行政法人の一番の問題点はガバナンスだといわれているが、機構では、独法通則法の枠組みを踏まえつつも、株式会社を参考にガバナンスの強化に取り組んでいる。また、組織を変えるには人の意識を変えることが重要であり、それが一番大変なことだと思う。この点、私の就任当時、機構で働く人々の多くが「国の組織が潰れるわけがない」と、リスク管理の意識など全く持っていなかったが、この5年8カ月の間の意識改革がかなり成功し、この組織を国の予算に依存しない組織に作り変えた。資金を市場から調達する仕組みにして、自分たちの運営経費はすべて自分たちの力で稼ぐというモデルに変えるという、就任してからずっと言い続けてきたことが現実のものとなりつつある。独法第一期期首の平成19年度、1000人超だった組織も、新規採用の抑制などにより毎年2%程度減らし、常勤職員数の10%削減という中期目標にほぼ辿り着いた。このように、例え政府系機関であっても、そこで働く人たちの意識改革を徹底して行い、ガバナンスをきちんと行えば、大幅なコスト削減や生産性の上昇も実現可能ということだ。(了)