損害賠償の安定的継続が一番の課題

損害賠償の安定的継続が一番の課題

経済産業大臣 民主党 海江田 万里 氏



聞き手 編集局長 島田一

――原発関係の損害賠償金額が膨らめば、東電の上場廃止も避けられないのでは…。

海江田 現在国会に提出している賠償スキームがきちんと法律としてまとまれば、東電の資金繰りの心配は無くなる。国は支援組織である新機構に交付国債を付与し、機構では資金調達を行って、東電が損害賠償するための必要資金を上限無く提供するというものだ。また、今回の原発事故では、政府補償契約保険として1200億円が支払われ、現在、東電はその1200億円の中で仮払いなどを行っている。具体的には、避難した1世帯につき100万円の補償で、最終的な被災世帯を5万世帯として約500億円の賠償金、そして農林漁業の人たちへの支払い、さらに中小企業の人たちへの仮払いを見積もってそれを実施したとしても、この1〜2カ月間で賠償額が1200億円を超えることは無いだろう。東電は事故後、銀行から1兆9000億円の借入れも行っており、足元で資金繰りに困るということは無い。

――しかし、賠償は長期にわたる…。

海江田 7月に入ると原子力損害賠償紛争審査会という第三者機関が中間的な賠償基準を制定するが、ここでは風評被害なども入ってくるため、賠償金額が急激に膨らみ、政府から支払われる1200億円をオーバーすることが十分に考えられる。そして、1200億円を超える額については、新たなスキーム案を法律として提出し、成立させなくてはならない。もし、それが出来なければ東電のバランスシートに負債を計上することになり、債務超過に陥る可能性も大いに出てくる。このため、非常に難しい問題だが、紛争審査会が中間の取りまとめを行い、賠償額を出す前に、法律にめどをつけておく必要がある。これは、今の内閣で責任を持ってやらなくてはならないことだ。

――送電と発電の分離については…。

海江田 これは今すぐにできる問題ではないが、今回の賠償スキームは電力会社の在り方や、エネルギー政策を縛るものではない。この問題は、世論の動向や電力の安定供給などをよく見ながら進めていく必要があると思っている。ただ単に東電が送配電網という資産を高く売れば賠償金がそれで賄えるのではないかというような考えは非現実的だ。ある程度、電力の需給関係がはっきりしてきたうえでこの問題について考えることはあっても、今この段階で結論を出すというのは少し早すぎる。まずは東電がしっかりと安定的な経営をして、きちんと収益を出して、その分で賠償を完全にやり終えた後、配当も戻していく展開が求められている。

――当面は東電の上場廃止もなく、社債の元本も守られているということか…。

海江田 社債については、電気事業法に定められているように、基本的に守られる優先度が高いものだ。しかし、これは決して社債を買った人たちを守るためということではなく、我々はどうやって損害賠償を安定的に続けさせていくのかを一番に考えている。それには、東電以外の各電力会社も安定的に市場から資金を調達して、その資金を元に電力会社を継続させていくことが大事だということだ。そうした市場からの資金調達が出来なければ、結果として利用者が不利益を被るということも十分に考えられる。そういうことをきちんと考え、長い目で見た時の賠償や電力の安定供給を保証するのが政府の役割だろう。

――枝野官房長官は、金融機関に対して東電向け融資の一部債権放棄に言及したが…。

海江田 特に今のような段階で、民間金融機関と東電という民間同士の話に政府が割って入り、指示・命令することは出来ない。例えば、政府に東電の優先株があって途中でそれを普通株に転換したりしていれば、政府は株主として色々と意見を出すのは当然かもしれないし、交付国債を利用して東電に資金が流れていれば、デューデリジェンスの問題も出てくるだろう。しかし、今は賠償額自体もかなり不透明であり、まだその手前の段階であるため、債権放棄を強いる訳にはいかず、その辺りは民間同士で話し合いをして、政府にはその結果を報告してほしいと伝えている。ただ、銀行融資に関する金利減免や株主が無配という形で不利益を被ることは、マーケットでもある程度は考えられているという見方もある。

――海外に進出している企業では日本でのサプライチェーン比率を引き下げる動きも表面化しつつある。その対策は…。

海江田 電気料金が値上げされると、特に日本が世界に誇る物づくりという面での競争力において、大きな影響が出てくる。すでに色々な形での自家発電が各々に取り入れられているが、そういった設備投資に関しては早期の償却を認めるといった後押しも必要だろう。また、今年度予算に盛り込まれている法人税の5%減税については、期間を決めて一時的に停止するというような案もある。それは、いわゆる「燃油サーチャージ」的なものだ。それから、東北地方の税負担を軽くするといった案も復興会議での議題に上っており、こういったことはできるだけ早く取り組む必要がある。もちろん、家を流されてしまっている今、固定資産税などは実際に免税となっている。東北地方はこれまで、日本の物づくりのサプライチェーン地域として非常に重要な役割を果たしてきた。今後も再び新しいサプライチェーン地域となるべく、新しいエネルギーや技術の供給源となるような特区にしていくことも一つの方法だ。化石燃料がそうであったように、原子力エネルギーも未来永劫という訳ではなく過渡期のものだ。ただ、新しいエネルギーにシフトしていくには時間がかかるため、その間は、化石エネルギーと原子力エネルギーと、新たに期待される自然エネルギー、再生可能エネルギーのベストミックスで進めていけばよいのではないか。浜岡原発の停止要請は、この辺りのことを熟慮したうえでの苦渋の決断だった。

――最後に…。

海江田 世界一安全だと思っていた日本の原子力発電所でこのような事故が起きたことで、そうではないことが明らかになった。外国などでは常に新しい技術を開発しながら原子力エネルギーの安全性を高めていたのに、日本では数年前から安全神話に胡坐をかいていたような所があったということだ。今回のことが東電に責任があることはもちろんのことだが、私は、保安院や原子力安全委員会などの原子力の規制に関る機関の在り方についても改めて検討する必要があると思っている。それら、行政や国の責任の所在や問題点については、これから十分に検証していくべき課題だ。(了)