年金運用の抜本的見直しが必要

年金運用の抜本的見直しが必要

参議院議員 民主党
大久保 勉 氏



聞き手 編集局長 島田一

――厚生年金基金の運用も問題点が指摘されてきている…。

大久保 全国の厚生年金基金608のうち、積立・運用の実態についてレッドカードをつきつけられている指定基金は48ある。今年はその数が倍増するとも言われている。厚生年金基金を解散した場合、国に代行返上することが義務付けられているが、その積立金が足りず、基金によっては加入者一人当たり200〜300万円の支払い負担が課されるという状況にもなっている。05年に解散した兵庫の乗用自動車年金基金を例に挙げると、当時50社がその基金に加盟しており、解散するには積立不足金約86億円を各企業で分担負担する必要があった。しかし、すぐには資金を用意出来ない会社も多く、約半分の加盟企業が10年分割で支払うことが認められた。ところが、10年の間に廃業する企業もあり、それらの企業の納付金分は、存続している会社で負担しなければならなかった。基金の支払い負担は企業に重くのしかかり、それが原因で倒産に追い込まれた企業が相次いだ。今後も同じようなケースが出てくる可能性があるということだ。

――年金の支払金額に対して、掛金収入が足りないという構造的な問題もある…。

大久保 年金の支払金額を掛金収入で割ると、従業員が多いところは掛金も多く、この数字が1以下になる。これを成熟度というが、会社によっては、この成熟度が13となっているところもある。そこまで極端ではなくとも、成熟度が2や4といった会社は多い。加えて、そういった年金基金の500基金以上が予定利率を5.5%としており、それがハイリスク・ハイリターン型の運用を強いることになっている。その一例には九州石油業厚生年金基金があるが、年金の成熟化や積立金不足に加えて、5.5%という予定利率の中で損をしないためにハイリスク・ハイリターンになり、例えばリーマンショックなどでそのリスクが顕在化してしまったのであれば、このような構造的な問題に対して、政府としても、しっかりと対応しなくてはならない。

――年金基金がこういった構造になっていることを、加入者は知っているのか…。

大久保 加盟企業がこういった状況を知ったとしても、すぐに年金から抜け出すことは出来ない。企業で働く従業員たちは、こういう状況すら知らないだろう。少なくとも先述のように成熟度が13という企業の年金基金は、すでに年金としての機能が破綻しており、数年後にはなくなっているだろう。結局、その従業員は、自分自身は将来貰えない年金をずっと支払っているということになる。年金制度は昭和30年から40年代にかけて厚生労働省や各事業団体が福利厚生のために作ったものだが、すでに制度疲労を起こしており、年金基金があることが各企業の足を引っ張っている。そして、状況を放置していたことで、事態はますます悪化してきている。

――この10年程、ゼロ金利が続いている中で、予定利率5.5%というのもおかしな話だ…。

大久保 公的年金について言えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用トラックレコードを見ると、平成13年から21年までの過去9年間の運用実績は平均1.4%となっており、民間の企業年金の集合体である企業年金連合会の9年間の平均2.4%と比べて、1%も低いことがわかる。今後、運用委託やINDEXの採用などを検討するように議論しているところだ。そもそも公的年金のデュレーション年数、つまり債務の年限を53年としているのであれば、資産サイドのポジションもそれに合わせて長期化させるべきなのだが、GPIFでは、短期で、とりわけ債券に関してはNOMURA−BPIの7年程度のもので運用している。インデックスの選び方自体が間違っている。一方、民間の厚生年金の予定利率5.5%を現在の1.5%金利に直して再計算すると大幅な積立不足になる。その不足金を事業者が支払うことが出来なければ、結局、残される選択肢は、国からの税金投入か、厚生年金基金との合併だ。合併するということは、その損失を厚生年金基金の加盟者であるサラリーマンやOLの皆で負担するということだ。

――年金の運用方法をもっときちんと考える必要がある。

大久保 GPIFの運用開始は06年からだが、1年目がプラス3.7%、2年目がマイナス4.6%、3年目がマイナス7.6%、4年目がプラス7.9%で、発足後の平均利回りはマイナス0.33%だ。20年や30年の国債ですべてを運用していればもっとましな運用になっていただろうに、人と費用を使うだけ使って、運用もまともに出来ずに大きなリスクだけを抱えているのが今のGPIFの姿だ。国は、消費税を引き上げて年金財源にしようと考えているが、その前にGPIFの運用を改善することを考えるべきだろう。まずはデュレーションを合わせること、そして、リスクをとりに行くのであれば株式や外株・外債などに分散するのも良いだろう。とにかくきちんとした投資のポリシーを固めるべきだ。カルパース(米カリフォリニア州職員退職年金基金)のような運用を求めるつもりはないが、もう少しまともな人を使って、まともな運用をしていかなければならない。

――年金基金には、社会保険庁の人たちが天下っている…。

大久保 彼らは年金のプロとしてそのポストについているが、実際の運用経験はほとんど無い人たちばかりだ。大きいところでは兆円単位もの資産をもつ年金基金は、規模的に信用金庫や信用組合と変わらない。それを何も分らない人が運用しているのは非常に恐ろしいことだ。昔は信託銀行に任せていれば大丈夫だと思われていたが、今では信託銀行が分散運用をしていなかったり、資産の7割以上を不動産ファンドにつぎ込んでしまって資産をゼロにしてしまったりというようなケースもある。これは一義的には年金基金の理事会に問題があるが、同時に受託者である信託銀行にも問題がある。日本人が一番信頼を置き、資本市場の中核を担うべき信託業務の運用において、利益相反やチャイニーズウォール(情報障壁)に対する管理体制が徹底していないという問題だ。私は金融庁や厚生労働省に絶えずこういった問題提起を行い、行政を通じて金融市場の活性化に貢献していく。

――年金の運用はその道のプロが行うべきだ…。

大久保 運用の方針を決めるトップが、本当に金融市場での投資経験があるのか、ガバナンスが出来るのかということは非常に大きな問題だ。GPIFでは、旧年金福祉事業団時代から歴代理事長は、ほとんどが厚生事務次官出身だ。年金問題や天下り問題が話題になった平成17年以降は日本銀行出身者を理事長に据えているが、運用経験は2〜3年程度だという。120兆円を運用している機関のトップたる人物がこういう状況で果たして良いのか。もちろん、すべてをヘッジファンドや政府系ファンドで運用するのが良いとは言わないが、少なくともプロが見て納得するような運用をすべきだ。債務サイドが53年のデュレーションであれば、もっと長期のアセットを積んだり、場合によっては財務省と話をして、非市場性国債として50年債を発行したりすればよい。こういったことは、米国の年金では普通に行われていることだ。また、現在、市場環境が大変厳しいインフレ連動債を安い値段で買い取って、年金の資産運用をするという方法もあるだろう。これは、年金の持つインフレ部分をヘッジするための運用方法であり、このような合理的な方法は考えればいくらでもある。 他にも、少子高齢化で成長力の乏しい日本の債券や株に集中投資するのではなく、BRICsなど新興国の株式に投資して、その成長を享受するというような発想も必要だと思う。年金の運用を本当に考えているのであれば、今までの慣習から脱却しなければならない。それをやろうとしない役人の天下りはすぐにでも止めて、民間の会社で投資顧問として活躍した人や運用経験のある人など、豊富な知識をしっかりと持った人たちに来てもらえばよい。何も、カルパースやピムコからヘッドハンティングしろとは言わない。少しはまともなことをやってくれと言いたい。

――年俸を億単位でヘッドハンティングして、結果として国が10兆円儲かるのであれば、それで良いという発想も必要だ…。

大久保 4年間、平均利回りがマイナスという運用をしていながら、GPIFでは誰も責任を取らない。少なくとも2〜3年という期間で区切って、その間のパフォーマンスが悪ければ理事長は辞めさせられるような、民間であれば当たり前のことを行うべきではないか。そもそも、日銀が金利を下げていることで一番影響を受けているのは年金のはずだ。金利が上がればパフォーマンスは改善する。もし、日本の金利が上がらなければ外債などで運用すればよいはずだ。そういった駆け引きの中で金利も形成されていくはずなのだが、そうならないのは、日銀出身の理事長がGPIFに天下っているからに他ならない。過去数年間のトラックレコードを見て、ボラティリティや平均利回り、あるいはシャープレシオなどを精査しながら、民間の運用と比較して、GPIFの運用力が確かなのかどうかを、もっとしっかり議論していく必要があると感じている。(了)