海外での地産・地消がテーマに

海外での地産・地消がテーマに

日本精工 特別顧問(事業企画本部)
松田 和雄 氏



聞き手 編集局長 島田一

――日本精工(6471)は古くから中国と良い関係を築いている…。
松田 中国との人的技術交流が始まったのは1960年代から。本格的に進出したのは90年代で、中央機械工業部(日本の経済産業省に相当)からベアリングの技術援助を求められ、当時、中国の貴州省にあった国営のベアリング会社にベアリングの製造技術などの技術援助を行う一方、江蘇省昆山にその国営ベアリング会社と我々とニチメン(現・双日)の共同で最初の工場を設立したのが始まりだ。21世紀に入ってからは我々の100%子会社となる工場を矢継ぎ早に設立。そして今年、これまでの沿岸部周辺から内陸部へと場所を移動し、上海から新幹線で3時間、約500Km西側にある安徽省合肥に設立する。これが中国で12番目の工場だ。合肥には日系の企業もよく見かけるが、ベアリング会社としては初めてで、総投資額300億円をかけて16万?の土地に設立する。

――現在、中国の事業規模は…。

松田 売上げベースで約900億円となっており、わが社の売上総額約7000億円の1割強を締める。これを、日本精工が100周年を迎える2016年までには2000億円を超える規模にしていきたい。ちなみに、日本での売上げは3000〜4000億円。欧・米がそれぞれ約1000億円で、ASEANと中国は、足して1500億円程度だ。売上比率を見れば海外売上げの方が日本での売上を上回っているが、生産比率に関しては日本が64%と高い。つまり、海外に輸出して利益を得ているという構造になっている。しかし、今後は中国やASEANにさらに工場を増やして、材料も現地で調達出来るようなスタイルにしていきたいと思っている。

――中国の政治リスクについては…。

松田 予め、そういったリスクを考えたうえで中国中央政府と30年来の関係を築いてきたと言っても良いだろう。中国は今年1月に発表した第12次5カ年計画で、「全業種において国産化率を上げること」を最大のテーマに掲げている。この計画は日本企業にとっても大きな変化点になるだろう。中国ではこの5〜10年間、成長経済という名の下に外資による技術を手中に収め、今、ようやく独自で物を作り出すことが可能になってきている。そんな中で、我々はこの20年間、グランドファーザリングとして中国で色々な実績を積み上げ、同時に中国からのメリットも享受してきたが、これから中国に進出しようと考える企業にとっては障壁が非常に高くなっている。例えば、日本から設備を輸入する際に高い税金を掛けられたり、我々がこれまで享受してきた免税優遇措置などのメリットも受けづらくなっている。

――技術を手に入れた中国が、今度は、巨大な中国の内需を国内企業で消化していきたいと考えていると…。

松田 中国政府が外国人就労者に対して社会保険の加入を義務付けたが、それも国産化率を上げるためのものだろう。要するに、中国では外国人ではなく中国国民を雇えといっている訳だ。現在日本では、米国と英国間で社会保険における相互保険契約を結び、その国で払った社会保険料分は年金という形で受け取れるようになっている。本来ならば同じように、日本の厚生労働省が中国政府と交渉をしなくてはならないのだが、その対応は遅く、結局、中国だけが儲かるような仕組みが作り上げられている。

――中国でバブルが崩壊する危険性は…。

松田 国が土地を保有する中国では、これまで土地を開発するために、国から運営を任された省や開発区がSPC(特別目的会社)を作って金融機関から資金調達し、開発した土地を高値で売ってさらに次ぎの開発に向けるという、日本のバブル時のような右肩上がりの経済の仕組みを作り上げてきた。しかし現在、中国ではインフレ抑制策として預金額を超えた貸出しを規制している。結果、中国でリテールを持たない欧米系や日系の金融機関のポジショニングが悪化し、海外金融機関のプレゼンスが苦戦するという流れになり、地元の金融機関すら融資できないどころか資金回収に向かっており、そのパイプは確実に細りだしている。まさに、日本のバブルがはじけた時と同じような形だ。SPCで集めたお金は150兆円程度で、GDPの約4分の1程度だが、こういったところから破綻が始まれば、中国は本当に大変なことになると心配する向きが増えている。

――日本のバブルでは、当時50兆円程度の不良債権があるといわれていた。150兆円の3割が不良債権となれば丁度50兆円となり、数字的にも同じような感じだ…。

松田 本当にそういうことになれば中国は大パニックになり、金融引き締めも打ち止めとなり、再び緩和し始めるだろう。しかし、そうなるとまたインフレになる。明日の食料にも困っているような農民達はインフレで食料品が買えなくなり、さらに、春に種をまき、秋に収穫するという時間的余裕さえなくなる。結果、作付けを放棄したり、農家をやめて沿岸部に仕事を求めるようになれば、食料生産量が減って、さらにインフレになってくるという訳だ。日本では考えられないことだが、エンゲル係数の高い中国ではそういったことになりかねず、このリスクを唱える人は多い。とはいえ、沿岸部でも仕事は少ないため、中国政府としては、5年前から農民対策や山間部対策に取り組み、さらに一昨年からは企業に対して最低賃金を上げるようにも指示してきた。現在の最低賃金は当初よりも平均約15%上がっており、アセアン各国の方が、かなり割安となっている。

――そうすると日本企業は、中国よりもASEANへのシフトを強めると…。

松田 問題は、どこで作って誰に売るのかということだ。日本精工の場合は中国内需にまだ多くを見込んでいるため、これまでの労働集約的なものづくりから先進国並みの機械を入れて出来るだけ省力化・自動化し、中国で従業員の数を減らして生産を続け、そのすべてを中国で売り切るということを考えている。震災後、日本企業は放射能問題や節電問題、さらに円高問題を抱え、色々な形でのリスク管理を考えなくてはならない状況にある。特に自動車業界では、これまでピラミッド型だと思っていたサプライチェーンの形が、実は、一番下の部分がすぼんでいたということが今回の震災で明らかになった。そこで、代替リソースが不可欠であり、かつ、それをグローバルに供給できるようにするためには日本以外の場所にも拠点が必要だということを学んだ。このため、今後は嫌でも日本企業のアジアへの進出が加速化するだろう。結果として、これからは海外市場における「地産・地消」といったことが、日本のメーカーのテーマとなると見ている。

――政治の仕組みなどを含めて色々な手を打たなくてはいけないのに、日本はグローバルな視点が不足している…。

松田 その辺りのことを、日本の政治家達がどれだけわかってくれているのだろうか。もし、政治家が分かっていないとなれば、それは自分たちで解決するしかない。例えば日本精工においては、日本で生産したものを、税金面でのメリットが大きい韓国子会社の主力工場から輸出しようというような考えもある。しかし、ものづくりは日本の原点だ。そういった大事な部分が海外に逃げていくことなく、日本でつくって日本で稼ぐという流れを大事にしていくためには、政府が、関税障壁や非関税障壁の枠組みをきちんと整えることが求められているのではないか。(了)