過度の期待は金融機能が歪む恐れ

過度の期待は金融機能が歪む恐れ

東日本銀行 代表取締役頭取
石井 道遠 氏



聞き手 編集局長 島田一

――金融業はBIS規制で必要以上の多額資本を積まなければいけない状況になっている…。

石井 そもそも銀証分離となっている日本国内で欧米と同じような規制が強いられるのはおかしな話だ。今の日本の多くの銀行は、資本を必要以上に厚く積まなければならず、資本の収益力が低い状況にある。銀行の健全性は、むしろ分母の資産内容如何による。その管理が最も重要だ。一方では株主への配当を手厚くすることを求められ、他方ではBIS規制で内部留保を求められ、そして会社としては従業員や将来の投資のことも考えなくてはならない。この三つは相反する要素であるため、これらのバランスをどう取るかが非常に難しくなっている。当行では前期から8円配当とし、配当利回りも5%近くなっている。自己株式も取得したが、株価はほとんど反応しない。PBRも0.3台だ。結局、銀行業の株価が上がらない背景には、業績や個々の銀行が行う株主への還元努力を超えた、内外経済の動きや金融構造の問題があるように思う。

――株の値段は将来性で決まるというのが一般論だ…。

石井 銀行業の将来性とは一体何だろうか。米国の投資銀行のように、マネーゲームで利益を出し、経営者が何十億円ものインセンティブ報酬を受けるようなことが、金融業における成長というイメージを持つ人もいるかもしれないが、銀証分離の日本において、しかも、中小企業相手に地道な融資を行っている我々は、そのようなことで利益をあげることはなく、大きなリスクをとることもない。株価形成が成長性を重視するものであり、その成長性がこのような意味で大きなリスクをとらなければ得られないものだと考えるのであれば、確かに我々の今の状況は評価されにくいだろう。しかし、貸出主体の堅実な経営などを評価して欲しい。また、地銀の中には、将来に向けて海外に拠点を設けて進出を試みているところもある。しかし、それはお客様次第であり、我々の事業にそういったサービスを必要とする声が出てくれば、それはそれで対応する。しかし、今のところ、当行のお客様にはそうしたニーズが必ずしも多くない。海外絡みの業務は、提携しているメガバンクと役割分担しながら上手くやっている。

――中小企業の置かれている現状自体が、非常に厳しい…。

石井 いわゆる中小・零細企業がこれからどのように発展していくのかは、経済全体としての構造的な課題だろう。金融庁では、企業再生のためにフェーズに応じた取り組みを求めているが、我々としては、これまでも個々の相手の状況に応じて相談できる、息の長いお付き合いを行なってきており、これまで同様に続けていくことを標榜している。地域銀行として地域の企業を金融的な側面で支えるべく一生懸命努力することは当然だ。但し、企業の本質的な事業競争力の強化や自由化への対応などは、基本的な国家目標の設定と国の支援が不可欠だ。これは地域銀行だけの努力では解決できない。同時に、企業の自助努力も当然に必要で、それぞれが自らの役割を的確に果たす必要がある。そうしたお客様との関係を大切にしながら、我々も今まで頑張ってきたところであり、今年3月に公的資金200億円を完済した。

――銀行への過度な期待が、金融機能の歪みをつくり出している…。

石井 企業の再生や競争力強化を借り手保護の視点だけで銀行に強く求めるのは如何なものかと思う。全体の経済政策の一環として、様々な対策とセットで行っていく必要がある。企業再生にしても、金融的な条件変更や元本返済猶予といった一時的な対応は、つらい痛みを伴う企業自らの努力がセットとしてなければ、根本的な解決にはならない。金融的な支援はそのための側面支援だ。更に、中小企業を巡る構造問題が根底にある。政府全体の対応が不可欠だ。過度に銀行に期待を求めると、本来の金融機能が歪むおそれがある。行政には、むしろ金利を含めた金融機能が適正に働く環境整備を求めたい。

――今後、中小企業が着実に成長を続け、生き残っていくために必要なことは…。

石井 やはり、他が真似できない技術やサービスを提供するということが重要になると思う。これは、我々としても同じで、メガバンクで出来ないことや、信用金庫で出来ないこと、 他が真似できないサービスを提供すべく努力しているところだ。金融業は特に規模の利益が働く産業だが、そういった中でも他行との「差異性」を打ち出し、当行の存在感を高めていきたい。

――東日本銀行が打ち出す「差異性」とは…。

石井 それは、単なる金利競争ではなく、我々がこれまで築いてきたお客様とのお付き合いにある。これまでも首都圏1都5県に広がる76店舗で、支店長以下の行員がお客様のところへ足を運び、色々と声をかけながら親密な関係を築き上げてきた。その中から、様々な企画や提案も行なってきた。そういった「フェイス・トゥ・フェイスによる心の通うお取り引き」を、これまで以上に強固なものにしていきたい。地方では経済全体が停滞しているが、我々は首都圏に基盤があり、それが非常に大きな強みになっている。まだまだ活動を拡げていく余地はあると考えている。

――今後の課題は…。

石井 10年前、早期健全化法に基づき公的資金200億円が入ったことで、我々は人員や経費の削減など様々な合理化策を求められた。そういった努力の効果も現れ、前期のOHR(経費率)は65%まで改善したが、それにも限界がある。規模の大きな銀行が機械化を進めていけばOHRを40%台にすることは可能かもしれないが、我々のように対面営業を最重視する銀行では、そういう訳にはいかない。将来の成長を考えれば、今後、人的投資や設備投資も行わなくてはならない。また、これまでの「健全化計画」の下では、ひたすら中小企業への融資に注力してきたことで、前年度の中小企業向け貸出金比率は66.3%、預貸率は81.7%となったが、一方で、それに伴う若干の歪みも見え始めてきた。4月からは色々な縛りから開放され、経営の自由度が広がった。今後は、支店の状況に応じた預貸活動を行いたい。引き続き中小企業貸出に最大限努力することにかわりはない。しかし、預貸率80%台を維持しながら、これまでは貸出金利が低いとして取り組んでこなかった大企業・中堅企業などとのお付き合いや地域の再開発事業などにも力を入れる方針だ。8円配当を維持しつつ、公的資金の返済で一旦落ち込んだ自己資本比率を内部留保の蓄積で徐々に引き上げ、さらに、従業員に対する給与や将来への投資を計画的に行っていく必要がある。このためには40〜50億円程度の安定した利益水準を確保していかなくてはならない。それが今後の我々の課題だ。(了)