新聞はまだ若いメディア

新聞はまだ若いメディア

産経新聞社 代表取締役社長
熊坂 隆光 氏



聞き手 編集局長 島田一

――新聞業界は大変な時代に突入している…。

熊坂 私が社長に就任してすぐ、友人から「グーテンベルクが活版印刷術を発明して以来の大変な状況のようだね」と、お祝いならぬ、お見舞いの手紙をもらったくらいだ。しかし、私は楽観視している。厳しいとはいっても、新聞自体は若いメディアであり、まだまだ可能性もある。厳しく神経を尖らせておく必要はあるが、必ず活路は開けると信じている。

――「若いメディア」ということは、これからも色々と工夫の余地があると…。

熊坂 新聞社の経営という面では、我々は活字とウェブの渾然一体となった情報産業を目指している。一方で、活字メディアとしての新聞の規模は縮小するかもしれないが、完全に無くなる訳ではない。特に、今回の東日本大震災では、避難所に届けられた新聞に多くの被災された人々が地元とのつながりを求めて集まってこられた光景を見て、新聞の持つ力を実感した。地元に密着した情報を知る上で、新聞の強みや活字メディアの存在価値が改めて見直されたのではないか。

――様々な新聞社でインターネットでの情報提供を試みているが、その収益性は…。

熊坂 大きな利益が得られるようになるには、やはり時間がかかると思う。我々の場合は子会社の産経デジタルがその事業を請け負っており、同社は関連会社の中で一番収益力があり、連結に貢献してくれているが、他の新聞各社についてはわからない。ただ、インターネットでの情報提供に、旧来の新聞作りと同じように沢山の人を集めていては、収益は上がらないと思う。

――フジテレビジョンとのかかわりは…。

熊坂 すでに色々なところでコラボレーションしてイベントなどを行っており、今後もフジサンケイグループとして、多くの活動に力を入れていきたいと考えている。基本的にテレビと新聞は持ち味が違うため、それぞれの強みを生かしながら、お互いのプラスになるように、さらなる関係強化に努めるつもりだ。

――昔と今を比べて、新聞社の経営を支えているものは変わったのか…。

熊坂 私が当社に入社したのは40年前だが、新入社員研修で「新聞はいずれテレビで見られるようになり、そのテレビ画面が印刷されるようになるだろう。その結果、日本独特の宅配制度もなくなり、そうなると日本の新聞社はつぶれてしまう。可哀想に、君たちは最後の新入社員になるかもしれない」 と、幹部から脅されたことを鮮明に覚えている。当時はパソコンという概念も、プリントアウトという概念も一切なかった時代だ。ただ、なんとなく鉄腕アトムの未来社会を見るような感じで、「そんな日が来るのかな」 というくらいに思っていた。しかし、当時も今も、新聞社の経営を支えているのは購読料であり、宅配制度だ。基本的なことは何も変わっていない。インターネットが主力となる時代が来ることに否定はしないが、それまでに新聞社としてやるべきことや出来ることは、まだまだ沢山ある。また、仮にインターネットが主力の時代になっても、やはり紙面の方が良いと考える人もいるだろう。その辺りをきちんと考慮し、時代の変化に対応していく必要がある。

――今後のコンテンツの方向性について…。

熊坂 我々は現在『産経新聞』をはじめとして、『サンケイスポーツ』や『夕刊フジ』、『SANKEI EXPRESS』など、また、雑誌では硬派な『正論』から音楽専門誌『モーストリー・クラシック』まで、様々なものを提供している。一つの商品だけで勝負するのではなく、複数を提供することで、活字メディアのあらゆる可能性を引き出している訳だ。産経新聞の基本路線は、正確かつ公正を基本として、すべてにタブーを設けず、何にでも挑戦する報道姿勢にある。これが変わることはない。そして、それらコンテンツは人間が集めてくるものだ。どんなにデジタル化が進み、インターネットの時代と言われるようになっても、我々が足を使って情報を集めない限り、良いネタを世に出すことは出来ない。警察署や役所などに毎日顔を出して信頼関係を築き、ようやく得た情報は、インターネットを検索してすぐに出てくるものとは全く違う。

――新聞販売や広告営業も、すべて人間関係で成り立っている…。

熊坂 結局、我々はデジタルの最新機器を駆使しながらも、徹底してアナログで生きている。それが新聞社の仕事の基本であり、それが出来なければよい新聞はつくれないからだ。特に、コンテンツを大事にすればするほど、昔ながらのアナログ的なやり方が重要になり、そういった、コンピューターが絶対に侵食出来ない部分がある限り、新聞はまだまだやっていけると思っている。仮に、情報を伝達する手段として、紙がなくなり電子媒体だけになったとしても、ニュースを持ってくるのは、人だ。

――今後の経営について、コスト削減などは…。

熊坂 コスト削減はほぼ終わっており、現在のわが社の財務体質は、以前に比べて非常にスリムで筋肉質になっている。これ以上行うと、社員のやる気の問題とも係わってくるため慎重に考えたい。手をつけるとすれば、例えば、人員配置の変更や部署間の合併ということになるが、そういった新聞作りの基本的な構造は、長い時間をかけてベストな状態となるべく作り上げられたものであるため、すぐに変えていくのは難しい。また、新聞社は鉄道会社や電力会社と同じく海外進出が難しい分野だ。人件費が安いからといって海外で新聞を作るわけにはいかない。不動産など昔ながらの資産を持っている他の新聞社とは違って、我々にはそういった資産もないが、ヒューマンリソースは十分にある。これをフル活用し、生き残りをかけて頑張っていきたい。

――最後に…。

熊坂 平成25年6月20日で産経新聞は創刊80周年を迎える。今年はそれに向けて社員から色々なアイデアを募り、新たな連載企画やイベントなども考えたい。社内ベンチャーのようなことも募集していきたいと考えている。丁度、5年前に発行した150億円の社債が今年9月に償還を迎える。その資金手当てはすべて整えた。再来年の大きなイベントに力を注ぐためにも、色々な経営上の問題を収束させておく必要がある。そして再来年、また我々の新たな出発が始まる。これを力強いものにしていきたいと考えている。(了)