減税により市役所を二つ設置

減税により市役所を二つ設置

名古屋市長
河村 たかし 氏



聞き手 編集局長 島田一

――名古屋市が掲げる市民税減税の政策効果について…。

河村 大事なことは、名古屋市の市民税10%減税は国策だということだ。平成11年に公布された地方分権一括法の中で、国は自治体の競争を推進した。その法律改正に則って、名古屋市は全国の自治体に先駆けて減税を実現させている訳だ。景気対策であると同時に行政改革減税といっても過言ではない。これまで標準税率未満課税にすると認められていなかった自治体の起債が、地方分権一括法により平成18年から可能になり、建設地方債の起債も許可制から協議制に変わった。減税している自治体に関しては許可制を維持するとしているが、この法改正は自治体の経営競争につながるものだ。

――より良い企業や住民を呼び込むために減税などの魅力的な政策を行うことは、どこの国でも行っている…。

河村 企業が無駄遣いしないように努力をするのは、そこに価格競争があり、それに勝てなければ潰れてしまうからだ。一方で、行政においては価格競争がない分、それに変わるプライスキャップとしての減税競争が必要だ。だからこそ、日本でもそのような競争を自治体に促すために法律を変えたはずなのに、実際にそれを実行したのは全国で名古屋市だけだ。私は、日本の公的機関における競争心の欠如や、その原理を抑え込もうとする役人の凄まじいまでの抵抗、そしてそれに迎合するような一般のマスコミの報道には恐ろしさや危機感を覚える。名古屋市の減税総額は、平成22年度は161億円であるが、我々はそれを超えた行政改革を実現した。それが総務大臣から評価されて起債の許可もいただいている。こういった事実を知らずに、私の取り組みに対して「ポピュリズムだ」というような批判の声をあげる人に対しては、勘違いもはなはだしいと言いたい。

――公会計に複式簿記を導入して、もっとガラス張りにすべきという意見もあるが…。

河村 私は商学部出身であるため複式簿記について考えたこともあるが、例えば、名古屋市の総売上を表すものが税金となれば、租税収入が売上げとなり、増税することが良いという考えになってしまう。それは大きな間違いだ。仮に公会計に複式簿記を導入して企業会計のように能動的に捉える必要があるのならば、大枠は名古屋市の全GDP15兆円にしなくてはならない。名古屋市役所はその中で総務部の役割を果たしており、そこは決してお金を生み出すところではない。その部署だけの収支を見れば赤字になるのは当然だ。役所という総務部だけで会計を表そうとして、国債や地方債を借金だと騒ぎたてているのが日本の不幸の大源泉なのではないか。そういう観点から、公会計に複式簿記を取り入れるという理論は根本的に間違っていると思う。

――パブリックセクターだけで収支を均衡させようとすること自体に無理があると…。

河村 消費税が1%上がると国全体のGDPが0.4%下がるという試算もあるように、増税をすれば国民の可処分所得が下がり、全体の税収は下がってくる。税収は国民全体の経済活動があってこそ出てくるものだ。その経済活動を元気付ける政策をとらない限り、増税で帳尻を合わそうとしても無理だ。また、現在は外国での経済活動による収入活動が国内に入ってきているため、プライマリーバランスも意味がない。貿易黒字は最近均衡しているが、例えば200兆円の外貨預金があるとして、その金利が3%だとすれば、それだけで年6兆円の利息収入が生じる。これは外国での経済活動で得られた収入であり、その資金はもう一度外貨投資するか、政府に国債・地方債として買ってもらうという大きな流れにある。このようにして国や地方のプライマリーバランスで政府の一般債券が増えていくのは当たり前のことであり、その収支を無理やり合わせることなど絶対に無理だ。

――市の予算を作る過程で、透明性を確保するための工夫は…。

河村 名古屋市では各局長が予算を要求した段階からすべてをインターネット上で公開しており、そういう意味での公会計改革には賛成だ。また、国が行った事業仕分けのようなものを名古屋市でも行うようなアイデアもある。しかし、事業仕分けで100億円削ったところで、減税しない限りその100億円は役所の中で行き場所が変わるだけだ。それを福祉部分に有効活用させるといっても、社会保険庁問題で明らかになったように、そういうところが一番危ない。そう考えると、やはり一番インパクトを発揮するのは減税することに尽きる。

――減税した分の財源を生み出すためにはコストを下げるしかない。その具体策は…。

河村 人件費に尽きる。名古屋市では人件費カット分を含め既に過去2年間に200億円近い恒久財源を捻出した。名古屋市の職員が皆泣いているのは私も十分承知している。だからこそ私も自らの給料を下げ、前市長と私の給料の間に4年間で1億2000万円という差額を生み出し、この金額が実際に出てくるということを証明した。そもそも、税金のほとんどはソフトウェア、つまり人件費に使われているのだが、例えば日本の成長過程においてGDPが増え、税収が増えたとしても、その分だけ公務員の人数や人件費を増やす必要はない。その部分の費用を増やす必要がなければ税金は余るはずだ。医療費や介護費が増えるという意見もあるが、それは別の会計基準を立ててきちんと運営しているため心配ない。

――人件費の他に、今後、行財政改革として絞っていく部分は…。

河村 まずは外郭団体に関する見直しを進めていく。団体を減らして、ほぼ100%であった随意契約も1割程度に減らしていくつもりだ。たとえ職員が嫌がったとしても、市民のためにやらなくてはならない。その他にも、内部事務の見直しや、施策・事務事業の見直し、公の施設等の見直しといった行財政改革により、人件費を除いた部分で平成22年度は総額134億円の歳出削減を盛り込んでいる。私のやっていることをポピュリズム市政だと批判する人もいるが、減税政策というのはポピュリズムの全く逆であり、現実はとても厳しいものだ。そして、本格的な行政改革は、減税しない限り決して成し遂げられない。

――サッチャー元首相もレーガン元大統領も、小さな政府に成功した…。

河村 私はこれまでの人生の中で32年間商売を営んできたという経験があり、そのため競争論者だ。競争の原点は、競争主体を二つ以上作ることにある。そこで、名古屋市役所を二つ作りたいと思っている。一つは全会計2兆5000億円を議会が運営する伝統的な市役所。もう一つは、その中から行財政改革で捻出したお金を運営する市民市役所だ。現段階で226億円捻出したこの税金を名古屋市民の皆さんに戻し、願わくは、文化や防災、そして児童虐待や高齢者の孤立死を防ぐために使える社会的資金として寄付していただくような仕組みを整えたいと考えている。米レーガン元大統領も、減税し、いろいろな特別措置をやめて、多額の寄付金に誘導した。それは小さな税金と大きな寄付金で大きな公共サービスを実現させる手法だ。その大前提として日本では寄付金控除なども整え、減税していくことが非常に重要だと考えている。(了)