観光と金融特区で国際的に飛躍

観光と金融特区で国際的に飛躍

沖縄県知事
仲井眞 弘多 氏



聞き手 編集局長 島田一

――沖縄県に金融特区をつくろうとした契機は…。

仲井眞 沖縄県の北部地域にある名護市では開明的な市長が続き、その下で世界に繋がるような経済を作りたいという強い思いから、金融特区を作るに至った。そもそも日本という国で特区を作ることは相当難しいことだったが、当時の沖縄開発事務次官だった若林勝三氏が懸命に当局と議論を重ねてくれて、ようやく平成14年に金融特区として指定された。もちろん若林氏だけの力ではなく、この特区は皆のシンパシーによって作り上げられている。そして現在、世界中にある金融特区を参考にしながら試行錯誤しながら進んでいる状態だ。

――金融特区の現状は…。

仲井眞 現在までに証券会社や金融系のコールセンターなど10社が進出しており、500名超の雇用を創出している。今、私が率直に感じていることは、日本は「特区」が本当に作りにくい国だということだ。名護市の金融特区内では、税の優遇措置や、県や名護市からの各種支援を受けられるような魅力的な措置を掲げているのだが、例えば、所得控除を受けるためには、金融特区内に新設法人を設ける必要があったり、常時使用する従業員が10人以上だったり、主務大臣の認定が必要というような要件がある。また、投資税額控除については、リース物件は対象とならないことや、建物付属設備については建物と同時に取得することなど、様々な要件が付いている。このように、入り口からあまりに面倒な要件を掲げられてしまうと、企業は集まらず、特区は発展しない。私は金融庁に対して、法人税率をもう少し圧縮して、実効税率を下げるような提案をしているのだが、反応は薄い。霞ヶ関には優秀な役人がたくさん揃っているのだろうが、何故だが世界的な展開に関しては後ずさりしているように見える。もっと開放していかなければ、日本は危ない事態となっていくと心配している。

――2000年に導入された国家公務員倫理法で接待が禁止されたことで、役所には民間から市場の声が入り難くなった。そのため、財務省や金融庁はよく世界が見えていない…。

仲井眞 県も全く同じだ。役人も、自分のお金で行くなり奢り合うなどして、皆と外で食事をするような機会は大切だと思う。それがなければ行政サービスの意味もわからないだろう。とにかく、アジア各国が税率の大幅引き下げによって日本企業の誘致合戦をしている中では、税率をもっと下げないことには競争できない。そして、国の借金を減らして身の丈で生活しなくてはならない。沖縄の金融特区を使い勝手の良いものにしていくためには、全体を開放していく必要がある。

――その財務省も、ようやく担税力を養う取り組みを始める必要性を感じてきている…。

仲井眞 担税力をつけるためにも、やはり金融特区は必要だ。しかし、今の特区には色々な条件が付き過ぎていて、我々も企業も身動き出来ない状態にある。それでも、なんとか10社に来ていただいているのだが、実際には特区のメリットを全く活用できていない。こんなことでは、今いる企業が逃げていくのも時間の問題だ。世の中には、条件をつけることによって既得権益を維持しようというメカニズムがあるのかもしれないが、全体として目減りしていくような仕組みを維持するのは好ましいことではない。あれだけの頭脳と権限を持っている霞ヶ関の組織が、その力を存分に発揮できていないことは、非常にもったいないことだと思う。当局はもっと全体を大きくしていくことを考えるべきだ。

――沖縄は地理的にも金融特区として恵まれている…。

仲井眞 沖縄はアジアを代表する金融市場である香港やシンガポールなどからも近く、香港からの直行便も毎日出ている。観光地と金融地という両方で沖縄が国際的に活躍できれば、沖縄経済も発展していくだろうし、日本経済にとってもプラスだ。沖縄県は米軍基地で潤っているというイメージを持っている人も多いと思うが、それは違う。基地には土地代や光熱費などの実費がかかる。また、基地での雇用は1万人ほどだが、沖縄に住んでいる人数が約140万人、全体の雇用人数が約62万人と考えれば、基地で生まれる雇用は大したウェイトではない。何よりも重要なことは、基地は、何も生み出さないということだ。射撃用の弾一つにしても米国製であり、約5万人の駐留米軍たちの飲食や買い物なども値段の違いから、ほとんど基地内で消費されているため、経済面での相乗効果が望めない。米軍基地については、日本国内でもう少し再配分すべき問題だと思う。

――金融特区活用の具体策は…。

仲井眞 今後、さらに企業立地を促進し、金融関連企業の集積を図るため、沖縄振興特別措置法に代わって来年4月から始まる新法について検討する中では、金融特区以外での事業所の設置を認めるなど、企業のニーズに合わせた制度の拡充を図っていきたい。例えば、業種指定や事業認定の権限を県知事に移譲することや、所得控除率を現行の35%から55%にしてアジア諸外国と競争できる法人実行税率とするような案もある。さらに、所得控除の上限規制を撤廃すること、新設でなくても所得控除の対象とすること、リース物件も投資税額控除の対象とすることなど、 改善すべき点はたくさんある。こういったことを国に対して要望していくつもりだ。

――TOKYO AIMも名護市の金融特区へ移転を考えているようだが…。

仲井眞 その前提条件として、株式や債券の売却益を非課税にするような優遇制度の拡充が求められている。また、プロ投資家限定の市場に個人投資家の参加を認める規制緩和や、ベンチャー企業へ投資した際の投資額の所得控除がTOKYO AIM側から提案されているが、私は、これらの提案を全面的に受け入れて、次期沖縄振興特別措置法に特例措置を盛り込むよう国と交渉していくつもりだ。

――TOKYO AIMが、沖縄の金融特区発展の新たな突破口になるだろう…。

仲井眞 現行制度の拡充とTOKYO AIMの移転によって、TOKYO AIMの銘柄を扱う証券会社が沖縄の金融特区へ進出してきたり、或いはアジアの企業や資金を取り込むようなことも期待される。さらに、証券会社などの金融関連産業が集積することで、資産管理会社や会計事務所、弁護士事務所、コンサルタント会社などの関連産業が特区に集まり、国内ベンチャーへの資金供給が円滑に行われ、新産業が創出されるというような可能性も広がってくる。このように、金融業務を集約することで、地域の活性化や沖縄県の自立型経済の構築、さらには、わが国経済の活性化やアジア地域の発展に貢献できるだろう。それを一刻も早く実現させるように、この金融特区をもっともっと発展させていきたいと考えている。(了)