大航海時代からの近代が終焉へ

大航海時代からの近代が終焉へ

埼玉大学
大学院経済科学研究科 客員教授
水野 和夫 氏



聞き手 編集局長 島田一

――日本の金利は14年前に2%を割り込んで以来、超低位での推移が続いている…。

水野 国債の利回りが2%を割るのは約400年前のイタリア・ジェノバ以来のことだが、日本ではそれが14年間も続いている。そして、今年になって米国やドイツでも金利2%を割り込んだ。金利が2%を割るということは、企業からみれば10年の設備投資期間をとうに超えているので、その国に優良な投資機会が残っていないことを意味している。このようなデフレが長期化している理由は、もはや近代の仕組みでは利潤が極大化できないということを意味しており、近代が終わっているからに他ならない。しかし、今の日本の経済組織のトップの考えは古いままで、時代の変化に対応できていない。もちろん、時代の変化に対応すればすぐに金利が上がってデフレから脱却出来るかと言えば、そうではないと思うが、とにかく、デフレが定常化している現在の状態に対応するような仕組みを一刻も早く作らなくてはいけない。

――著書(※)に書かれていたように、近代の仕組みが終焉を迎えていると…。

水野 近代社会は大航海時代から始まり、欧州、米国、そして21世紀に入りアジアが飛躍し、世界は無限と思われていた。それが今では、ついに世界を覆いつくすまでグローバリゼーションが広がった。グローバリゼーションの定義は様々にあるが、私は『中心と周辺をつなぐイデオロギー』だと思っている。そのイデオロギーは自由貿易主義であったり、或いは植民地主義であったりと変化してきており、これまで日本は、そのグローバリゼーションに乗り遅れないように必死になってきた。しかし、結局その動きは中心に引き寄せられているものであり、領域は広がったとしても、本当の発展を遂げるのはその中心にある帝国だ。そして、その帝国は一定の境界線に辿り着くと衰退していく。今、アジアの次に注目されているのはアフリカだが、その先には何もない。大航海時代から続いてきた近代化は、アフリカで終焉を迎えることになるだろう。終焉までの期間は残り約30年とみてよい。

――近代社会の仕組みが終焉を迎えるまでの30年間で、日本は何をすべきか…。

水野 グローバリゼーションという時代の流れが無くなった時に日本が茫然自失状態に陥らないためには、現在のアジアの近代化にどう対応するかを考えつつ、同時に、今から30年後を見据えた仕組みを作っておく必要がある。私は、もはや国内に成長を求めることはせず、外交と成長戦略を結び付けていくことが大事だと思っている。だだし、それで再び日本が成長を取り戻せるとは考えないほうがいい。もちろん、それを国民に理解してもらうことは大変かもしれない。世論として「もっと成長を」という声が大きければ手の打ちようもなく、国民の期待に反するような政策は出来ないからだ。しかし、今の日本にはある程度の物がすべて揃っており、既に国民は相当満たされた状態にある。そうであれば、今後、アジアとどう付き合うかが成長戦略となるのは当然のことだ。TPPや東アジア共同体など政治と絡んだ問題は別として、哲学的に考えればその流れは自然なことだと言えよう。国内ではもはや成長が見込めない日本が、30年後、すべてのグローバリゼーションという成長が終わったときにどうするのか、そして、その間にどのようにアジアと付き合い、最後の成長の果実を日本に戻すのかを考えなくてはならない。

――日本はこれまでに国として1000兆円の借金をして財政政策を行ってきたが、結局現在生み出されている税収は年間わずか40兆円で、担税力が養われていない…。

水野 現在の年間歳出は90兆円超で、税収は40兆円台。その90兆円が使いすぎなのか、40兆円が少なすぎるのか難しいところだが、やはり、それは節約と増税の両方から取り組むべき問題だろう。この合意形成をどこで得られるのかについては政治の出番だ。企業が海外へと進出していくことについては、地産地消という考えもあり、ある程度仕方のないことだと割り切るべきだろう。残った人たちが本籍日本、現住所アジアとして頑張っていくしかない。海外へ出て行くことを止めれば、本籍が日本の企業も外国で活躍できないという事態になりかねない。例えば法人税をもっと引き下げて、海外へ出て行った日本企業を呼び戻すべきだというような意見もあるが、法人税を減税した場合には、代わりに消費税を上げたり、無駄なコスト削減に力を入れたりと、さらに様々な議論が必要となってくるだろう。

――国債買い切りやヘリコプターマネーというような金融政策は…。

水野 賛成できない。それは米国で実証済みだ。仮に中央銀行が資金をばら撒いて上手くいくのであれば、この14年間、常にばら撒き続けていれば良かった事だ。結局、無から所得は生まれない。流動性のために資金をばら撒いたとしても、金や原油など資源価格がいたずらに高騰するだけで、それは資源インフレとなって跳ね返ってくる。バーナンキFRB理事長がさらに量的緩和を行いヘリコプターマネーをばら撒いてみても、資源高で低所得者の生存を脅かすことになるだろう。

――QE3を実施すれば資産価格が回復してくる…。

水野 資産価格はQE2でも上がったため、それ以上のことを行えば当然資産価格も上がるだろう。しかし、それでは米国で株式を集中保有している富裕層の約2割の人たちが喜ぶだけだ。低所得層2割の人たちは、インフレにより所得に占める基礎的な割合が上がることで逆に生活が苦しくなる。つまりQE3をやればやるほど、オバマ大統領とティーパーティとの対立はますます強くなり、ねじれ現象が拡大していく。そして結局、政治的に何も出来なくなるという事態を招いてしまう。実際にQE2を行ったことで、オバマ大統領を支持してきた約4割の米国民の生活は苦しくなっている。現在は来年の大統領選挙にむけて、もう一度、低所得者層の支持を得るために富裕者層に増税を強いているようだが、それはますますねじれという現象を強めているだけだ。結局どの国も同じであり、金融緩和や減税を行えば、それは所得上位層へ恩恵が行き、下位の人たちはそれに不満を持って暴動を起こす。ノルウェーでの事件やイギリスでの暴動が良い例だ。そう考えれば、弥縫策ではあるが、日本はまだ上手くやっている方なのではないか。

※『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』
(2011年、日本経済新聞出版社)