安全性に決定的に優れた新型原子炉の開発推進

安全性に決定的に優れた新型原子炉の開発推進

トリウムテックソリューション
代表取締役社長 理学博士
古川 和男 氏



聞き手 編集局長 島田一

――原子力の安全性が問われる中で、トリウム熔融塩による原子炉の開発を唱えておられる…。

古川 熔融塩炉という原子炉開発が本格化したのは1960年頃だ。起源は第二次大戦末期に人類最初の実用炉(プルトニウム生産)を完成させたユゥゲン・ウィグナーの予言に依る。私もこの炉型を知った約半世紀前から、軍事用には向いていないため、エネルギー資源のない日本では、この技術が必ずや日本の救い手となると確信して研究することを決めた。その後十数年間で米国が僅かの資金と人材でその基礎技術を固めたが、それは、その本質が「単純明確」だったからだ。しかし、当時の東西冷戦の激化によって核エネルギーへの関心は軍事用に最適とされるプルトニウムに向けられ、平和利用に最適と認められつつあった米国でのトリウム熔融塩炉研究は1980年以前にストップさせられてしまった。その為、原子炉に関与している現代の核エネルギー技術専門家は、ウラン系で「固体燃料炉」領域の知識に特定され、トリウムや液体核燃料に対する知識はほとんど持たないという状況になってしまった。

――トリウム、そして液体核燃料の特徴は…。

古川 まず、トリウムは資源が豊富で偏在していないという点でウランとは大きく異なる。また、トリウム元素からプルトニウムはほとんど生産されないため、核拡散の恐れがほとんどなく、廃棄物処理面でも優れている。さらに、液体であるということは、固体燃料体製造が不要なため経済面でも極めて有利である。この熔融塩燃料は核反応・熱輸送・化学処理の三機能全てを1液相で対処するものだ。その詳細は文末の参考資料(※)を参照願いたいが、構造は単純になり、しかも中性子などによる照射損傷を全く受けない理想的な原発ができる。私はもともと液体の研究を専門にしており、トリウム熔融塩炉が安全性・核拡散・核廃棄物・経済性などの点で、今の原子炉と比べ決定的に優れたものになり得ると信じている。

――既に小型熔融塩炉『FUJI』の実用化計画を進めておられる…。

古川 『FUJI』の基本設計概念は既に1985年に確立されているが、技術は実用されて初めて認められる。小型化を提案するのは、投下資本の節約と電力コストの低減化を計る必要があると考えるからだ。小型モジュール化することで世界展開も容易になる。炉本体の構造は開閉しない単純な常圧タンクであるため、工場で生産でき運転や管理作業にも手間がかからず、核廃棄物も大幅に減少する。さらに重要なポイントは、この基礎技術は40年前に米国が整えたが、その実験炉は作って4年間何の事故も起こさず運転できたという実績が既にあるということだ。その目指したものをさらに単純化したのが『FUJI』であり、本格的な開発研究を終え理論的にも優れていると証明できるこの小型熔融塩炉が、一刻も早く世に出て広まることを願っている。

――そのように優れた技術に対して、日本政府や、他の各国の反応は…。

古川 福島原発の事故が起こってから、各党それぞれようやく勉強をし始めているようだ。古くは、学界の他に自民党や公明党が支持してくれたが、日本より海外が遥かに熱心で、米の他、仏、旧ソ連(露)、べラルーシ、チェコ、インド、トルコ、ブラジル、ベネズエラなどが協力してくれた。また、シンガポールやオーストラリア政府が国としてこの研究を進めたいという話もあった。さらに中国でもこの研究に興味を示し接触してきたが、本年の初めに開発開始を宣言している。中国の場合はやや投機的な意味合いもあるのかもしれないが、私は基本的に、そのように興味を持ってくれる人たちに対しては、この技術に対する知識をオープンにしていくつもりだ。

――日本政府としても、もっと協力すべき事業だ…。

古川 私はこの研究のために国から直接的にもらったお金は無いが、だからこそ良い研究が出来たと思っている。研究をするに当たってどこかからお金をもらえば、その圧力で道を歪めなくてはならない場面に遭遇することもあるかもしれない。多くの人は、このような仕事は国家のお金でなければ駄目だと言うが、そういうことを言っているから、人類はこの60年間を失ってしまったのではないか。これまでの世界の原子力発電事業は国家の仕事である軍事兼用で、その隠れ蓑として少しだけ平和利用をしていた。そういう虚業を行っていたからこそ、福島の事故が起きたのだと思う。そもそも保険をかけられない商品など、商品ではない。現在の原発のように5重もの安全装置をつけなければいけない商品など、それだけ危険性が高いということを表しているようなものだ。

――原発政策のあり方を、根本から見直すべきだと…。

古川 将来、太陽エネルギーなど別の基幹エネルギーにシフトして行くにしても、それまでの過渡期には、どうしても原子力、つまり核分裂エネルギーに頼らざるを得ない。人類が核エネルギーの平和利用を考え始めて60年、現在の主力原発は安全性や核燃料サイクルの不備など多くの問題を抱えて一向に信頼感を得ないまま、遂に福島原発事故という悲劇を起こしてしまった。今こそ、原子力の革命期ではないか。これまで固執し続けてきた「ウラン‐プルトニウムサイクル」という観念を捨て、約20億年前にアフリカの鉱山で起こっていたとされる自然核分裂のように、自然の原理に基づいた単純構造の「トリウム熔融塩炉」を利用すべきだ。そうすれば、プルトニウムを有効利用し消滅させつつ、円滑経済的に現原発産業から次第に移行させることが出来る。また、機器開発では、同じ高温常圧液体であるナトリウム高速炉技術開発成果が十分に活用できる。その日本の技術基盤は、40年以上前に私が原子力研究所で整えたものだ。これらを利用して、一刻も早く世界の平和や地球の救済に向かってほしい。

――今後の取り組みは…。

古川 今年6月にジャパン‐チェコ共同事業を開始し、今は最初の超小型熔融塩炉「mini FUJI」の開発実験計画を作っているところだ。チェコには、ロシアが旧ソ連だった時代に共同で原子炉開発を行った技術集団が存在し、この集団と共同で開発を進めている。今年10月25日には日本でその第一ラウンドとなる状況報告を行い、年末前後をメドに世界の企業集団に呼びかけて実用化への協力を求めていく予定だ。技術の基礎があるとはいえ、色々な社会条件が変化すればその製造過程も違ってくる。そういったことに対応していくための事業支援を、民間企業に、世界に呼びかけていく。なお、核であるので国家の支援も必要なことは自明だが、すでに米国企業からは強力な支援の申し出をいただいている。原子力に関して世界のルールを決めており、かつ新しい物事を起こすための色々な土壌が整っている米国が有力なパートナーになるのであれば、政治的、国際法的に考えても不足は無い。

――最後に…。

古川 人間は真理を知ることが出来るわけではない。我々科学者も、正しいと信じたいことを、仮説をもとに考えを述べているだけであり、神とは違って真理を知ることは出来ない。しかしそれは、「より良いもの」を求める人間の行動にほかならない。思想や価値観の違いによって、肝心の「良い」と考えるものは違い、今回の福島原発の問題にしても、原発推進派からの謝罪がないのは、しない、出来ないのではなく、何を詫びたらよいのか分からないからなのだろうが、そこで四苦八苦して生きていくことが人間のすばらしさだと思う。新しい世の中をどう生み出すかは皆の努力だ。苦労しているものには幸せが訪れる。そして、サイエンスは決して科学者のためのものではなく、人類のためのものだという考えの下に、我々はこれまで多数の国内外の協力者と努力して築いてきた研究成果を後世に伝えていく。それが今の我々に与えられた義務だと思っている。(了)
※『原発安全革命』古川和男著/2011年文芸春秋、文春新書より発行