中国、アフリカに史上最大の関係構築

中国、アフリカに史上最大の関係構築

ジェトロ
アジア経済研究所 地域研究センター長
平野 克己 氏



聞き手 編集局長 島田一

――中国のアフリカ政策について…。

平野 アフリカに脚光が当たり始めたのはイラク戦争時に資源価格が高騰してからだ。以後、アフリカに眠る資源を掘り起こしながら中国は高成長を続けている。私は2007年頃までアフリカに駐在していたが、現地ではすでに中国から投資が盛んに行われ、あちらこちらで開発工事をしている状態を目の当たりにしていた。しかし、日本になかなか中国がアフリカに進出しているという実態が伝わっておらず、やきもきしていたものだ。ようやく一部の日本企業が鉱山開発をアフリカにシフトするという動きが出始め、中国がアフリカに本格進出した7年後の2007年頃に日本のビジネス紙でアフリカ特集を行うなど、日本でもアフリカに対する注目度が高まってきた。私は丁度その頃に帰国し、08年に横浜で開催されたTICAD(アフリカ開発会議)の準備に携わったのだが、その時の取材のおよそ半分が、中国に関係することだったと記憶している。つまり、中国がアフリカで何を行っているのかということに対する関心が高まっていたということだ。中国のアフリカ政策が本格的に始動したのは2000年で、その頃アフリカ経済はまだ底の底にあり、世界中でも注目している国はなかった。

――2000年といえば国連ミレニアム・サミットが行われ、アフリカへの債務棒引きなどが行われた時代だ…。

平野 既にその頃から中国ではアフリカで資源を採掘するという政策を決め、2000年に中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)の一回目を開催している。その出発点は江沢民の時代に遡る。もともとは産油国だった中国が1993年以後、国内需要の拡大を受けて石油の純輸入国に転じた。そこで、1996年、当時の国家主席だった江沢民がアフリカ諸国を訪問し、21世紀に向けた中国・アフリカ間での長期的かつ安定的な全面的協力関係を構築すると演説した。そして、1999年には中国国家安全部が中心となって中国・アフリカ間における経済協定におけるマスタープランを作成し、それをもとに商務部と外交部が専門家を交えて会議を行った。その成果がでるとすぐにアフリカの高官や企業の代表を中国に招き、北京でFOCACを開催した。

――中国の動きは非常にスピーディーだ…。

平野 世界中がアフリカの資源発掘に取り組むのは2004年からだ。つまり、中国は世界より4年も早く、さらに日本より7年も早くアフリカ政策に取り組んでいたことになる。こういった事実を見ても、現在そして将来の世界のあり方を考えるうえで最大のファクターとなるのは中国だといってよいだろう。アフリカ経済の動きは資源価格に連動しているという意味で非常にロシアに似ており自立的には動けない経済だが、55もの国が集まって形成されるアフリカにはナショナリズムという網がかかっていないためグローバリゼーションの形がダイレクトに出てくる。そんな中で中国が行っているアフリカ政策を見れば、軍事や安全保障問題などすべてに関して、中国がいったどういう形で世界に出て行こうとしているのか、何を望んでいるのか、彼らの方法論がどういったものなのかを知るよい鏡になる。

――中国のアフリカ政策に対して、世界の目は…。

平野 アフリカは80年〜90年代の20年間、全く成長していなかった。その為、国際援助といえば世界中がアフリカに目を向けており、現地には支援関係の人たちもたくさんいた。その中で中国のアフリカ政策は、一時期「新植民地主義」とまで言われるほど周りから非難されていた。だからこそ中国はアフリカ諸国に対して、汚職、賄賂といった面で細心の気を配ってきた。そして現在、アフリカ大陸には100万人の中国人がいると言われている。英も仏もアフリカを植民地にしたが、これだけ広範に外国人が入り込んだのは中国が初めてのことだ。さらに重要なことは、アフリカ住民は別としても、アフリカ連合が中国を非難していることはなく、むしろ歓迎している状況にあるということだ。今や中国とアフリカの間では史上最大のネットワークが築き上げられており、アフリカが今後どうなっていくのか、最大のファクターとなるのは中国だといえよう。

――アフリカ内戦の影響は…。

平野 中国が一番痛い目にあったのはリビア内戦だ。当時、リビアには3万5千人もの中国人が住み、援助を含めた色々な建設を行って労務提供していた。しかし、今年のリビア内戦で最初に攻撃されたのは、中国が作った施設だった。そこで、中国は史上最大の脱出作戦を実施し、一週間で3万5千人の中国人をすべて中国に戻した。そういうことがあったため、中国では今、これまでのアフリカ政策を少し見直す必要があると考えているようだ。中国がアフリカ政策において蜜に連絡を取り合っている米国でも「中国とわが国はアフリカにおいて国益を共有している」と宣言するなど、お互いに相当調整を行っているとみており、少なくとも敵対関係にはなっていない。

――日本のアフリカ政策は大丈夫なのか…。

平野 日本がアフリカで何をしたいのかは中国とほぼ同じだ。また、中国が成長することで日本もその恩恵を受けて凌いできたという部分もある。物づくりで生活している国にとっては今後も資源は必要不可欠であるため、中国がアフリカから安定的に資源をとって来てくれる事は、日本の国益でもあるといえる。しかし、世界第二の経済大国とはいえ未だ発展途上にある中国では資源効率が悪く、日本の4分の1程度の効率の悪さだ。そこで、日本が中国に環境技術を提供し、中国のアフリカ支援をコーディネートするようなことは、日本にとっての国益になると私は思っている。もはや中国と日本が資源を巡り競争したり、バラバラにアフリカ政策を考えたりすることは無理があるだろう。

――アフリカ政策に関しては、日本と中国で相乗りしていくべきだと…。

平野 日本にとって重要な外交の一つである日中関係の中にアフリカがあると考えれば、これまでとは違う問題設定の中で、日本がとるべきアフリカ政策が生まれてくるだろう。21世紀のグローバリゼーションとは、国境や政府に依存しない経済だ。はっきりいえば、日本企業が生き残るためには日本を脱出しなければならないと私は思っている。日本社会が今後大きくなる見込みがないのであれば、内需産業は団塊の世代に合わせて高齢化産業に組み替え、さらに余裕のある元気な企業は外に出て行くことを考えなければならない。日本を捨てることで日本企業が生き残るという形をとりながら、少ない若年層が、増加の一途を辿る老齢層を養えるだけの経済にしていかなくてはならない。そこで、今後はレアメタルなどを利用した高付加価値商品が求められるわけだが、その資源をどこからとってくるのかということこそ、近々の日本の課題だ。国益的な観点で物事を考えている企業は、既にこれまでの資源輸入国であるアメリカやオーストラリアに加えて、官民一緒になってアフリカやモンゴルなどへ資源を求めて進出している。

――日本がとるべきアフリカ政策は…。

平野 「日本の役に立つ、国益となる政策」だ。例えば中国ではアフリカの土地を購入する動きもあるが、それはアフリカの穀物輸入量が増える一方にあることを意識したうえでの行動だ。世界の穀物市場では基本的に人口密度が少ないところが作って売るというのが自然な姿となっており、この点、土地が狭い日本の穀物輸入量は年間2700万トンで圧倒的に世界一となっているが、実は広い国土を持つ中国でも穀物輸入量が多い。それは、中国大陸の中央がほとんど砂漠状態にあり耕作面積が少ないからだ。豚を多食する中国人が今後豊かになり一人当たりの肉の消費量が増えていけば、豚の飼料とされるとうもろこしの輸入は爆発的に増えていくだろう。中国はそれも視野に入れている。また、問題はアフリカでも穀物を大量に輸入しているということだ。アフリカは労働力の60%が農民で人口密度も少なく、地球全体の有効利用を考えればむしろ穀物を売る側にいなければならないのに、アフリカが都市化すればするほど穀物輸入量が増えているという構図になっている。このような経済成長を続けていくと、世界の穀物市場は破裂するだろう。そういったことからも、中国はアフリカ援助の柱を農業支援にしており、アフリカの土地で中国に必要なものを作り逆輸入するためだけではなく、アフリカの穀物輸入量を減らすことで穀物市況の安定に努めているという訳だ。一方、日本では、そういった農業支援を「アフリカの貧困層を助けるため」と言っている。そうではなく、国益をきちんと認識した政策を議論すべきだ。そうでなければ、震災に見舞われた東北を差し置いてまで貧しいアフリカの人たち援助するといっても国民は納得せず、結果として長続きしない。やはり、政治は国益を考えた政策の議論を行うべきだ。(了)