タブー視せず防衛の抜本的見直しを

タブー視せず防衛の抜本的見直しを

産経新聞
取締役論説委員長
中静 敬一郎 氏



聞き手 編集局長 島田一

――実は私は5年程前、御紙の連載記事に「年間予算5兆円の防衛費は無駄だ」と書いた事がある。福島原発事故でも分かったように、テポドンが一発でも日本の原子力発電所に打ち込まれたら防ぎようがない。経済面から見れば、むしろミサイルを打ち落とす研究や、原子力潜水艦の開発などに力を入れたほうが良いと思う…。

中静 海上自衛隊のイージス艦によるミサイル防衛で、ある程度の対応は可能だ。さらに、航空自衛隊もミサイルを保有し、弾道弾迎撃ミサイルもすでに日米で共同研究しており、イザという時の一定の備えはある。しかし、日本の防衛に関する大きな問題点は、専守防衛方針を掲げ、第一撃の攻撃を甘受していることにある。つまり、万が一北朝鮮が日本に向けて核ミサイルを発射したとしても、それが日本の地上に落ちて爆発しなければ対抗しないということだ。また、北朝鮮が相当量の中距離弾道弾を一度に発射した場合にどう対処するのか、イージス艦はどの程度対応可能なのかといったことも、当然考えておく必要があるが、日本ではそうした検討自体がタブー視されている。そこに問題がある。

――日本の防衛、日米安全保障条約の在り方についてのお考えは…。

中静 戦後日本の防衛は、1952年に発効された旧日米安全保障条約が出発点だ。条約締結により、米国は日本に防衛義務を負い、日本は米国に対して防衛義務を負わない代わりに基地施設を提供するという「非対称の双務性」の状態を続けてきた。このような「人と物の協力」という構図は、旧安保条約が1960年に改定され「新安保条約」となった今でも変わっていない。このアンバランスをどうしていくかが大きなポイントだ。そこで、我々は先月「日米安保条約の再改定案」を提言した。この案は日米間がきちんとした相互防衛義務を負うことを目指すものだ。アジア太平洋において、日本が米国を守るという意思と行動を明示したことに象徴されている。

――「非対称の双務性」では問題があると…。

中静 同盟とは、基本的にお互いが命をかけて守り合うことだ。もちろん、日本が基地施設を提供することで、地理的に米国にとって非常に大きな貢献をしているという部分もあるが、「お互いに命をかけて守りあう」という点では、現在の形は非常にいびつだ。確かに、旧安保条約が作成された1950〜51年頃の日本は未だ警察予備隊が出来たばかりで、また、新安保条約が作成された60年頃も日本の防衛力は弱かった。しかし、日本は世界トップレベルの経済大国に成長し、一方で米国の力はだんだん弱まっている。さらに、周囲には米国を敵視し、攻撃を仕掛けてきそうな国も存在している。そのような状況下にあって、本当にこのままの条約でよいのか。日米同盟関係をきちんと維持していくために、この「非対称の双務性」を直すことが今回の再改定案のポイントとなっている。

――日米がお互いに守り合わなくてはならない必要性があると…。

中静 血の絆だ。もしかしたら日本人の一般的な感情とは少し違うかもしれない。例え米国側が「日本が米国を守る義務を負わなくても米国は日本を守る」と言っていたとしても、そこは対等にしておくべきだ。仮に、北朝鮮が米国に対してミサイルなどで攻撃をかけてきた場合でも、同盟国として北朝鮮のミサイルを打ち落とすなどして、その責任を果たすべきだ。だが、現在このことは集団的自衛権の行使とされ、憲法解釈上認められていない。しかし、この解釈については安倍内閣の時にも議論されており、集団的自衛権は国連憲章の中でも固有の権利として認められているものだ。今回の再改定案では「集団的自衛権を行使して共通の危険に対処する」と明示している。実際問題として、日本がアメリカを守れるかどうかは不明だが、あくまでも条約の構造上、対等にすべきだと思う。

――今の日本のイメージは「米国に守られている国」だ…。

中静 現在の日米安保条約が日本にとって楽という部分があるのも事実だ。血も汗も流す必要が無く、後方支援でよいという状態がこれまで続いている。しかし、日本が本当に独立国として自立していくためには、米国が攻撃されている時には同盟国としてきちんと守り、防衛義務を果たす必要がある。防衛費がそのために莫大に膨れ上がることはない。日本は専守防衛で報復的な防衛力は築かないとしているが、その部分は現在の日本の財政状況を見ながら上手く整理して、本当に必要な防衛力に投資していくべきだ。小泉政権以降、日本は9年間連続で防衛費を減らし続け、今でも最小限に抑えているが、一方で周辺の他の国々は、ここ数年、防衛費を非常に増やしている。

――日本企業はアジア各国に進出している。日本国民の富を築いている企業を守るために、航空母艦といった発想も必要なのではないか…。

中静 重要なことは「必要な防衛力は何か」ということだ。例えば、核抑止力を自前で持つことや、原子力潜水艦を所有するということについて、大事なのは「日本がそういった選択肢を持っている」ということだ。製造能力の有無ではない。航空母艦にしても、日本が「攻撃型空母は持たない」と決めているのは、過去の戦争経験から「日本が大人しくさえしていればアジア太平洋は安全だ」という一つの考えから、たががはめられているわけだ。今はそのような時代ではない。日本にとって本当に自立出来る防衛力を備えるためには、この国を守るためには何をどの程度必要とするのかをきちんと考えるべきだ。

――世界各国で戦争を勃発させている米国とはむしろ同盟を解除して、中国や他の国と同盟を結んだ方が良いという考えも、最近では国民の中にあるようだ…。

中静 やはり、今の最強の国はアメリカだ。自由や民主主義、それに価値観も共有しており政治的なパワーも強い。他方、中国は共産圏で価値観の違いなどもあり、本当に共同体が組めるかどうかは疑問だ。さらに言えば、最強の米国と真っ向から戦争しようと考える国などない。そうであれば米国との同盟関係を保ち、日本としての必要な義務を果たし、自存自衛の防衛力を保持していくことが今後の日本にとってベストな方法だろう。

――このまま無手勝流の方が良いという考えもある…。

中静 今の日本は単なる傍観者であり、それでは駄目だ。独立した一つの国として、きちんとした義務を果たさなくてはならない。また、今となっては無手勝流が本当に安全かどうかも分からない。尖閣諸島の問題にしても、中国が自国の領土だと主張している。きちんとした抑止力を持たなければ、中国に付け入る隙を与えてしまうことになる。戦後の日本では軍事問題などを話題にすることはタブー視されていたため、ほとんど論議がなされていない。だが、日本が本当の意味で自立し、米国と良い関係を続けていくためには、日米安保条約の根本部分を直す必要性がある。日米間できちんとした関係を作り、イザという時に備えておくことが、国際社会の平和と安定にも繋がる。

――日米安保条約の改定同様に、日本での情報管理強化も必要だ…。

中静 確かに、日本には「スパイ防止法」も作られておらず、そこに付け込まれて北朝鮮による拉致問題なども起きている。不法に進入することに対する厳正なる処罰が無いことによるデメリットをもっときちんと考える必要がある。情報管理がきちんとしていない国に対して、米国は果たして同盟国だからといって重要な情報を流すだろうか。今回の再改定案を、日本の防衛を考える上での一つの議論のきっかけとしてもらいたい。(了)