金融商品の販売訴訟増加でADR活用

金融商品の販売訴訟増加でADR活用

西村あさひ法律事務所
弁護士
滝本 豊水 氏



聞き手 編集局長 島田一

――金融派生商品にまつわるトラブルが増えている…。
滝本 昔からEB債やワラント債、変額保険などのトラブルが多かったが、最近仕組債やデリバティブ(金融派生商品)を巡る紛争が増えてきている。日本版ビッグバンの実施で複雑な金融商品が自由に組成、販売されるようになり、銀行も投資信託や保険商品など様々な商品を取り扱うようになったのだが、リーマンショック後に、急激な円高・株安という状況になって損失が拡大したことが最近のトラブル増加の要因だ。特にデリバティブは、為替や株価にリンクしている商品が非常に多く、仕組みが複雑な上、市場性のリスクを組み込んでいる。そのため、相場が悪くなった時のリスクは非常に大きい。例えば、日経平均リンク債(デジタルクーポン債とも言われ、日経平均とリンクしている仕組債)の中には、一年後の日経平均が想定価格を下回らなければ高金利のクーポンが支払われて償還されるが、ノックイン価格を下回った場合には投資金額が半分近くになるものがある。ノックインする確率は少ないが、ノックインした時のリスクは非常に大きく、上がったときのメリットは少ない、大体の商品はほとんどそういったものだ。金融商品の仕組みとリスクをきちんと認識しないまま投資をし、大きな損失を抱えている投資家が最近非常に目立ってきている。

――具体的にどのような人たちがそういう商品を購入し、どのような訴訟があるのか…。

滝本 デリバティブについては、大企業にそういった話はあまり聞かず、中小の事業法人や時価会計に依らない学校法人や宗教法人、地方公共団体、そして、独立性の高い財団法人や資金に余裕のある高齢者などにトラブルが多い。訴訟を起こす時の法律的論点は様々だが、通常は説明義務違反や適合性原則違反を主張するケースが多い。しかし、賭博性が強いデリバティブがあったとしても、金融商品取引法に基づき発行し、販売しているものだ。その商品自体に賭博性が強いからといって直ちに無効と判断されるかどうかは難しい。デリバティブは国債などと違ってリスクが高いのは当然だ。そして、金融庁が事後規制を原則としている以上、その商品が危ないかどうかを最終的に判断するのは、結局、投資家自身だ。

――そもそも、賭博性の高い商品を銀行が販売するという行為を認めてよいのか…。

滝本 銀証分離だった頃はリスクのある金融商品は証券会社が扱い、銀行では取り扱えなかったが、時代は変わり、今では銀行でも金利や為替のデリバティブを取り入れた仕組債などを販売することが可能だ。背景には、銀行が国際競争力を強化し、自己資本を厚くするために本来の業務である融資だけでなく、手数料ビジネスに参入することが是とされた。もちろん、銀行によってその取り組みには濃淡があり、デリバティブ商品を積極的に取り扱っているところと、まったく取り扱っていない銀行様々だが、法律的にリスク商品を取り扱ってはいけないということはない。ただ、銀行がそういったリスク商品を販売する際には、優越的地位の乱用にならないよう、また販売管理態勢を十分整備しなければならない。事業会社に為替や金利リスクをヘッジする目的で商品を販売するのであれば、リスクヘッジの合理的な説明が必要だ。実際に、そういう合理性があったかどうかが論点となって争われている。銀行が投機目的のためにデリバティブを販売するなどは好ましいことではない。

――適合性を争点にして消費者側が勝訴した例もある…。

滝本 例えば、それまで預金経験しかなかった年金生活の高齢者に対して初めて聞くような高リスク商品を販売した場合に、適合性原則違反を認めた裁判例はある。また、仕組債について事業会社に適合性原則を当てはめた裁判もあるが、会社はそれなりに財務の知識・経験もあるはずで、そもそもその事業会社が元本割れの可能性が大きいデリバティブに手を出すこと自体が妥当なのかという考えもあり、その議論は非常に難しい。こういった金融商品に関する裁判への取り組みが始まったのもここ最近のことだ。事業会社の場合、投資家の知識や経験などで投資目的に沿った商品を販売しなくてはならないという「適合性原則」違反を問うのは苦労すると思う。

――説明義務違反も多いようだ…。

滝本 確かに多い。契約締結に際しては、書面でも商品内容を説明するよう金商法で定められているのだが、例えばデリバティブを購入して市況が最悪になった時の最大リスクや、或いは解約不可能という説明をしていなかったという場合に銀行や証券会社が敗訴する場合もある。訴訟に上るのは、商品が多い分だけ証券会社の方が多いが、銀行も少ないとは言えない。最近よく耳にするのは為替系ストラクチャーのFXターン債だ。これは、円安方向に振れれば高クーポンで償還されるが、円高が進みノックインになると自動的にゼロクーポン30年債へと変化する商品だ。「30年経てば元本が戻るのだから損はしないのではないか」と考える人もいるかもしれないが、金融商品時価会計の考えで言えばゼロクーポンの30年債はほとんど価値は無く、さらに流動性もない。そういった認識でいる人たちに販売するということ自体どうなのか、議論は非常に難しい。しかし、当局も徐々にそういった商品の実情に気付き始めてきており、規制も厳しくなってきている。

――ADR(裁判外紛争解決手続き)の活用状況は…。

滝本 証券紛争で裁判を起こすと、コストは高く時間もかかる。一方で損失補てんが認められないため和解は難しい。そこで、金融庁は手続が簡易な金融ADR制度を推奨している。証券紛争は、NPO法人証券・金融商品あっせん相談センター(略称:FINMACフィンマック)が行っている。ADRでは基本的には話し合って和解することが原則となっているが、ADRで和解すれば損失補てんの適用除外となる。ただ、当初ADRで想定していたのは、証券外務員の一任勘定や無断売買、数量稼ぎの過当な勧誘といった、論点もシンプルで賠償金額も小額のものだった。それが今ではデリバティブのような紛争が多く、「リスクが説明されていない」、「適合性原則違反」、或いは「優越的地位の乱用」と問題が難しくなってきているなど、論点が複雑で、場合によっては金額も大きくなってきている。このように複雑な案件は当初のADRでは想定していなかったと思う。ADRは双方話し合い解決が原則で、そういった複雑な問題に対応することが可能かどうかという議論があると思う。一方で、投資家の希望があればADRで話し合いをしてもよいではないかという考え方もあろう。

――個人投資家がトラブルを抱えてADRに相談した場合、費用はどのくらいかかるのか…。

滝本 ADRサービスを提供する機関によって手数料は異なるが、FINMACの場合は、上限は5万円となっており、金額が大きい規模の案件でも費用は5万円ということになっている。通常裁判で10億円程度の案件を扱えば、それにかかる訴訟費用は300万円近くに及ぶことになる。上限を5万円と設定したのはもともと安価かつ簡易な手続による紛争解決という趣旨からであり、現在持ち込まれているデリバティブのように複雑な案件を処理するに当たっては、金融機関側の負担、訴訟費用とのバランスから、応分の負担をお願いしてもいいではないかという議論もあるだろう。金融ADRは金融商品取引法で位置づけられて間もないが、通常の裁判では莫大な手間と費用がかかり、必ずしも裁判官に証券紛争、デリバティブについての専門知識があるとは限らないので、より専門知識を持つ紛争解決委員が簡易な手続で解決を図るADRの意義はあると思う。(了)