1億3000万人の将来ビジョンを

1億3000万人の将来ビジョンを

衆議院議員
みんなの党 幹事長
江田 憲司 氏



聞き手 編集局長 島田一

――TPP参加には反対の声も多いが、みんなの党では積極参加を唱えておられる…。

江田 反対派には、「国際大競争の荒波」に日々さらされている日本企業、経済への危機意識が全く無い。また、外交や通商交渉の基礎知識もなさすぎるし、ましてや「国際政治のダイナミズム」も知らない。あまりにも内向きで閉鎖的な議論ばかりで、これでは、世界の大きな潮流に乗り遅れるのは当たり前だろう。また、TPPの交渉に参加するかしないかで騒いでいるのもおかしい。米韓FTAが韓国内で大騒ぎになったのは事実だが、それは、政府が交渉し妥結した協定を、国会が批准するか否かをめぐってのものだ。そもそも、こんな段階で、ここまで国論を二分するほど大問題にした、民主党政権の責任も重大だ。

――国際政治のダイナミズムとは…。

江田 日本が今回参加表明したことで、カナダやメキシコも参加を表明し、さらには、中国ですらTPPを支持すると言い出した。韓国やタイも重大な関心を払い始めた。まさに、こうした動きが「国際政治のダイナミズム」であり、反対派のいう「TPPの参加国は、米国以外は小さな国ばかりでメリットがない」といった主張が、いかに近視眼的な見方かがわかっただろう。中国の参加にはまだ時間がかかると思うが、TPPが拡大し、アジア太平洋地域の貿易・経済ルールを主導していけば、いずれは中国もTPPに入らざるをえなくなる。外交や通商交渉は、こうした戦略、戦術をもって行うべきものだ。今の野田政権に、国益を守る交渉ができるのかという不安はたしかにあるが、過去、私が通産大臣秘書官として携わった日米自動車交渉では、日本は米国から市場経済のルールに反するような理不尽な数値目標を突きつけられたが、毅然としてはねつけた。それが我々政治家の仕事であり責任だ。反対派のように、交渉をする前から「敗北主義」では情けなさすぎる。

――今後、日本が生き残っていくためには…。

江田 国を開いて、モノやサービス、人材、技術などを自由に往き来させ、それで付加価値を高めて稼いでいくしかない。要は、1億3000万人の日本人が将来にわたり何で飯を喰っていくかの問題だ。反対派にはそのビジョンがないし、さすがに「農業で飯を喰っていける」とは言わないだろう。農業については、TPP参加で壊滅するのではなく、今の保護政策を続けていれば自滅するというのが正しい。農業従事者の平均年齢は66歳で、35歳未満は3%。このままでは十年後には担い手はいなくなる。大規模集約化して生産性を上げるとともに、株式会社や若い層が農業に参入出来るように障壁を撤廃していくしか生き残る道は無い。そして、需給調整のための減反や関税を廃止すれば米価は下がる。そうすれば、すでに高品質で美味しいと定評を持つ日本米は、国際市場でも十分に太刀打ちできるだろう。ただし、農家の所得は価格の下落で一時的には下がるから、そこを戸別所得補償で支える。「価格支持」から、このような「直接支払い」への転換が世界の流れだ。そうすれば、輸出、成長産業として農業は変身できる。そういう改革を行わない限り農業は絶対に再生しない。

――国会答弁を見ていても、交渉の準備がきちんとなされているとは思えない…。

江田 TPP反対派のプロパガンダが国民の不安を助長しているのは、曖昧で腰の定まらないような物言いをしている野田政権に問題がある。私が見るところ、TPP反対派は3つに分けられる。1つ目はナショナリズム派の反対で、米国流スタンダードを押し付けられるといったイデオロギー的拒否だ。これは論外だ。2つ目は目先の農協や医師会などノイジー・マイノリティの票ほしさに反対している議員達だ。農家の実情をみればTPP反対派ばかりではないのだが、議員達の魂胆は、1994年にウルグアイ・ラウンドで約6兆円の農業対策費を予算化した時のように、またぞろ、バラマキの金を分捕り、自分の選挙区で農協票を得ようというものだ。そうした覚悟も信念もない反対だから、彼らは絶対離党などしない。そして3つ目が消費者の不安による反対だ。これには真摯に対応する必要があり、たとえば、遺伝子組み換え食品が入ってくるのではないか、米国並みの緩い残留農薬基準が押し付けられるのではないかという不安に対して、野田政権はもっと丁寧に説明する必要がある。しかし、この点も、WTOのSPS(動植物の検疫)協定が適用されるので、原則、食品安全にはその国の主権が認められ、上乗せの厳しい基準も、その科学的根拠さえ示せれば許される。米国並みの緩い安全基準が一方的に日本に押しつけられることはない。

――マニフェストとはまるで逆のことばかりを行っており、かつTPPでも説明不足という民主党に国民が不安を抱くのは当然だ…。

江田 野田総理はTPP反対派に配慮して曖昧なことばかり言っている。そもそも民主党マニフェストでは貿易自由化を大前提としており、農業の戸別所得補償も自由化する際の当面の農家のダメージを抑えるためのものだった。それなのに、結局政権を取ってしまえば色々なノイジー・マイノリティの声に揺らいでしまい、貿易自由化はなくしてバラマキだけを行うという状況になり、今や自民党政権以上に予算が肥大化している。ギリシャの問題は対岸の火事ではない。ただし、その意味は、政府が言うような「財政赤字がひどいから増税不可避」という教訓ではなく、公務員天国でありながらその改革も行わず、観光業以外ろくな成長産業もつくらず、今の日本の財務省の言うように、単に消費税率を18%から23%に引き上げただけでは財政は破たんする、そうした教訓としてとらえるべきだ。日本も、まずは公務員制度改革等の「わが身を切る改革」と「デフレ経済からの脱却」が最優先課題だ。財政再建はそのあとで良い。

――日本が成長していくために必要なことは…。

江田 まずは景気を回復させて、経済を成長路線に乗せていくことが重要だ。1000兆円もの借金は、成長なくして持続的に返していくことはできない。増税では無理だ。それは、97年4月に景気が悪いのに消費税を3%から5%にあげ、その結果、一切、税収が増えていないことからもわかる。いや、97年には53兆円もあった国税収入が最近は40兆円にまで落ち込んでいる。これが歴史的事実だ。財務省の言いなりになって野田政権は「大増税路線」をひた走っているが、やればこの二の舞になる。経済を成長させるためには、投資、労働、技術革新の方程式をきちんと組み立てる必要がある。医療や福祉、教育、農業、新エネルギーが成長分野であれば、その資本ストックを増強するために色々な規制緩和や改革を行い、新規参入を促進させる。加えて「選択と集中」による重点投資や金融政策も必要だ。この点、我々は日銀に対してもっと大胆な金融政策を求めているが、金融政策だけで成長が伸びると言っているわけではない。財政と金融、規制改革等を組み合わせた一体政策が必要だ。

――法人税も電気料金も高く、貿易の自由化も遅れている。これでは、まるで日本では仕事をするなと言っているようなものだ…。

江田 そのとおりだ。みんなの党では、法人税を20%前半にすることを掲げている。また、電気料金も、発送電分離等の再編自由化で新規参入を促し、その競争原理や「総括原価方式」の見直しで下げていく。円高そのものも大胆な金融緩和で抜本的に是正していく。これらはすべて一丸で取り組むべき問題だ。貿易自由化を含め、すべてに力を尽くしても日本企業は生き残れるかどうかという瀬戸際に立っている。それにもかかわらず、国会ではそういった危機意識が全く無いまま議論が行われている。

――参入障壁を減らして経済成長を図る…。

江田 医療には医療法人、福祉には福祉法人、教育には学校法人、農業には農業生産法人とあるが、これらはすべて役所の縦割規制で、やっていることは既得権益の保護だ。そのため、成長分野であるこれらの産業で、資本主義社会において当たり前のメカニズムである、資金を集めて投資し、利益が上がった分を再投資し、再生産して成長していくという機能が全く働いていない。例えば農業においては農業生産法人の役員には必ず専業農家が一人いなくてはならないとか、農家の関係の人が半分以上出資しなくてはならないという規制をすべて取り払い、株式会社やNPO法人の参入を促す必要がある。そうすることで資本投資や設備ストックが循環し、経済は伸びていくだろう。そして、予算がない中でも科学技術に集中投資をしていくことが技術革新や将来の日本のためには大切だ。今後の経済政策は、「規制大改革」と「選択と集中」がキーワードになっていくだろう。(了)