インフラ整備を進め地方にもビジネス

インフラ整備を進め地方にもビジネス

島根県知事
溝口 善兵衛 氏



聞き手 編集局長 島田一

――島根県の実質公債費比率は…。

溝口 実質公債費比率は、平成22年度決算で約17%、全国都道府県ランキングで39位。将来負担比率は200%弱で12位となっている。島根県の財政が悪化したのは、平成10年頃からだ。平成の初め頃、日本のバブルが崩壊し、国が財政出動で景気対策を行ったが、そのうち国の財政が悪化し、地方が財政出動を行うこととなり、地方は色々な事業を行うために積極的に投資をして行った。その過程で島根も県債の残高が増加し収支が悪化し始めた。そうしたところに、いわゆる三位一体改革が行われ、地方への補助金を減らして地方税を増やすという策がとられた。この改革は、地方税収の少ない島根のような財政力の弱い県には、大きな打撃となった。私が島根県知事に就任した平成19年4月時点では年間の財政収支が250億円の赤字という状態だった。

――経済力の弱いところに地方税を増やしても収入は得難い…。

溝口 そこで、私が知事に就任した年の10月に、財政健全化のための基本方針を策定し、20年度から23年度の4年間を集中改革期間として改革を進める計画を作った。それは、順調に進めば10年後には特別なことを行わなくても財政が均衡するような計画だ。今年はその集中改革期間の最終年度だが、約250億円あった年間赤字は50億円程度にまで減少し、今のところ計画通り進んでいる。

――今後の取り組みは…。

溝口 まだかなりの赤字があり、財政健全化を進めていく必要がある。実は島根県では財政健全化へ向けた取り組みの一環として「職員の給与の特例に関する条例」を制定し、職員給与を減額しているが、先般10月の人事委員会勧告では、職員給与の特例減額の終了を前提に、来年度からいわゆる地域給の導入などが勧告された。基本的にこの勧告を尊重して実施したいと思っているが、今後の県財政の中期的な見通しは、国全体の経済動向や国の地方財政政策にも依存し、不透明であり、目下、勧告をどうするか検討中だ。

――島根県にも原発があるが、運転停止により県の財政にも影響してくる…。

溝口 原発の運転が停止すると、核燃料税は入ってこない。しかし、核燃料税に限らず、例えば、他の税収や国の補助金などの歳入や歳出は毎年度変動するものだ。これらの変動は予算編成全体の中で吸収してきており、核燃料税の変動も、同様に全体の中で対応していくことになると考えている。

――地方の人口減少や公共事業の削減などで、収入に対する下方圧力は強まっているようだが、国に対する要望などは…。

溝口 財政力の弱い地方自治体に対する地方財政対策については、やはり国の温かい配慮を求めたい。交付税の配分などについても、財政力などに応じてメリハリの利いたものにしてもらいたい。島根のように発展の遅れたところでも、道路網など社会インフラ整備が進めば、大都市でなくても、地方でもいろいろなビジネスが成り立つような時代になった。島根県には「真面目に粘り強く働く人がいる」という大きな強みがある。実際に、そういう人材を求めて島根県に進出しようとする企業も増えてきている。産業振興により雇用を確保することが、最も有効な対策となろう。

――島根県が特に力を入れている産業とは…。

溝口 最近では産業振興の一つとしてプログラミング言語「Ruby」を利用したソフトウエアビジネスの推進に力を入れている。「Ruby」は松江市在住のまつもとゆきひろ氏により開発されたものだが、プログラム作成の効率性がよく、世界的にも高い評価を受けている。そして、最先端の世界であるソフトビジネスだけでなく、出雲大社など古代世界からの文化歴史をバックにした観光産業や、漁業、林業など豊かな自然を活用した産業を振興することで地域力をつけていく。それが島根県の課題だ。そうした発展のための変化の芽が少しずつ開いてきているように感じる。

――公募地方債については…。

溝口 公募地方債は平成18年から20年までは100億円、21年と22年はそれぞれ200億円、そして今年は借換債200億円を含む合計400億円を発行する計画だ。公募債は中長期的に安定して資金を調達するために発行しているが、有難いことに銀行窓口などで購入してくださる方々もたくさんおられる。今後も調達方法の多様化を図る観点から今までと同様に発行していきたいと考えている。

――国の財政運営をどのように見ておられるのか…。

溝口 当面は民間の資金需要も弱く、長期金利も低い状況が続くと思うが、このまま毎年の国債発行量が増えていくと、果たして国内できちんと消化出来るかどうかという問題も出てくる。それは日本経済全体がどの程度強いかという先行き見通しにも左右されるものだが、そういう大変な時期がいつ訪れるのか誰にも分からない。中期的な財政の健全化は必須であろう。しかし、物の見方は人によって違い、多くの人々にとって経済全体の話を理解するのは難しい。だからこそ、政府は整合性のある中長期的な財政の展望を持って税制改革などに取り組んでいく必要がある。

――地方分権の見直しも行われているようだが、なかなか前に進まない…。

溝口 財政は目に見えないため、それを分かりやすく口で説明することは非常に難しい。政府や政治全体が国民から信頼されるよう地道に粘り強く、真摯に対応していくことが大事だと思う。そうしなければ、大きな改革を成し遂げることは出来ない。今、日本が転換しようとしている中で、与野党がどのように協調し、どのように信頼される政治を築くかということが問われている。国全体としてこの難局にどう取り組むか、ということが政治の課題だ。(了)