復興を進め、岩手の近代化を完結へ

復興を進め、岩手の近代化を完結へ

岩手県知事
達増 拓也 氏



聞き手 編集局長 島田一

――東日本大震災後の復興状況は…。

達増 復旧は着実に進んでおり、今は仮設住宅に移った後のフェーズとして、自立に向かっての第一歩を踏み出しているところだ。今後は住民の皆さんがきちんと働いて稼ぐことが出来るように、水産関係や商工観光関係の復興を進めていく。すでに県の復興計画は策定済みで、年内には沿岸被災地12市町村すべての計画が出揃う予定だ。そうなれば、住宅の移設先や、学校や病院の建設先も大体決まり、来年からは槌音が響いてくるだろう。復興の速度は、どれだけ丁寧に住民の皆さんと相談しながら進めるかに応じ変わるわけだが、今年一杯は失業手当が支給され、緊急雇用対策で瓦礫処理の仕事や、仮設住宅への配布物などの市町村からの委託業務といった短期雇用の機会が提供されるような措置も講じられる中、年内に計画が出揃うスケジュール感というのは、丁度良いくらいではないか。

――沿岸の振興は、もともと岩手県県政の一大課題だった…。

達増 産業雇用政策は、私が知事に就任してから必死で取り組んできた分野だった。特に沿岸部は交通機関が発達している内陸部に比べて経済産業が遅れぎみだったため、水産業の高度化や国際競争力のあるハイテク産業の工業誘致などに力を入れていた。その流れに戻すこと、震災で壊れたものを直すだけではなく、復興の「興」は地域振興、産業振興の「興」であるので、プロモーション・振興している状態にきちんと復活させ、雇用を伸ばしていくような復興を考えている。また、岩手県の沿岸を縦に貫く三陸沿岸道路を「復興道路」として早期整備することが国に認められ、先日、復興道路事業の着工式が行われた。この復興道路について国では7年以内の全線開通を目指している。また、内陸と沿岸を繋ぐ東北横断自動車道釜石秋田線、宮古盛岡横断道路についても同様に全線開通を目指しているが、県ではこれら3つの高規格道路について5年以内の全線開通を要望している。内陸と沿岸を繋ぐことと、沿岸を縦に繋ぐことは、明治維新以来百数十年の岩手県の悲願であり、そうなることで、企業の進出も促され、岩手の近代化が完結すると考えられる。

――国の対応は…。

達増 先日まとまった国の三次補正予算では、岩手県の復興実施計画に伴う134事業中、126事業が措置済みで、一部でも措置されたものを含めれば94%が対応済みだ。ただ、この要望書は4月頃に提出したものであり、もっと早くに予算化されていてもよかった。そういう意味では国の対応は遅いと言わざるを得ない。認可手続きにかかる時間などは行政上の様々な手段を駆使して迅速に対応していただいているが、そういうことをしなくても地方の判断で進めていくことの出来る特区制度のような工夫も必要だ。この点、岩手県は、10の特区を国に要望している。再生可能エネルギーの導入促進特区、保健・医療・福祉サービス提供体制特区、企業・個人再生(二重債務対策)特区、いわての森林再生・活用特区、漁業再生特区、まちづくり特区、教育振興特区、TOHOKU国際科学技術研究特区、岩手・三陸交通ネットワーク特区、ものづくり特区だ。これらには多くの予算が必要なだけでなく、例えば用地取得や保安林の規制、また埋蔵文化財との兼ね合いなど、国の制度的な問題が絡んでくる。また、現在の特区制度は、市町村ごとの申請を原則としているが、岩手県のように市町村が小規模な地域では、県としてまとめて動いた方が効率的であり、その辺りも含めて交渉中だ。

――経済産業省が行った都道府県の企業立地満足度調査で、岩手県は全都道府県中2位…。

達増 特に人材育成部門の項目では47都道府県でトップになったこともあるほど、岩手県は真面目に働く人が多いと評価されている。それは、高校の専攻科に力を入れるなど、自治体全体で良い人材を育成するための努力をしていることが背景にある。人口流出も、4年前の年間約7000人から、昨年は約4000人にまで減少している。今回、津波被害を受けた地域は高齢化で人口も減少している過疎地というイメージを持っておられる方も多いが、実は年齢による自然減以外の部分ではプラス方向のダイナミズムが生まれていたところだった。震災前のその勢いを復興させるために頑張っている。目下、岩手県が目標としていることは全国との格差を縮めることだ。小泉内閣による改革は地方に格差をもたらし、そのため、岩手県も全国に比べて県民所得が低い状態にある。そこで我々は、マクロ面で所得格差が拡大していかないように、ミクロ面で企業一社一社、労働者一人一人に対してきめ細かな政策を行い、産業振興に取り組んでいる。

――国も増税を唱える前に、きちんとした成長戦略を行うべきだ…。

達増 そう思う。日本のマクロ経済政策が欧米に比べて真面目すぎるから円高になってしまっていると言える。金融政策についてももう少し緩くしたほうが良いのではないか。復興という大義名分があり、使えば使うだけ為になるお金であれば、借金を積み増すことは問題無いはずだ。そもそも今は、世界全体で事業が不足して資金が余っているという状況にあり、日本が「復興」という旗印を掲げて事業を増やせば、世界経済にも貢献できる。また、国は地方自治体からあがってくる復興案に対応するだけでなく、国家的プロジェクトとして、主体性を持って、この東日本大震災復興に取り組んで欲しいと思う。例えば日本海側の国土軸の整備も必要とされている中で、山形−秋田間を結ぶ高速道路は未だないのだが、そういった案は国の復興対策本部にあがってこない。首都のバックアップ機能を大阪に置くという構想もあるようだが、国が「日本全体の復興計画」を主体的に考えれば、大きな経済効果をもたらすものはたくさんあるはずだ。そうして、西日本や日本海側も復興需要で成長していく中で、東北をしっかりと支えていくという形が望ましいのではないか。

――岩手県の実質公債費比率について…。

達増 平成22年度決算に基づく実質公債費比率は15.6%で、昨年度に比べて1.5ポイント上昇した。これは、過去の経済対策に呼応し借り入れた県債の償還が、ここ数年増加傾向にあるためで、公債費の償還ピークと見込んでいる平成27年度頃までは、上昇傾向が続くと推測している。しかしながら、早期健全化基準に数字は近づくものの、当該判断基準(25.0%)に該当することはないと見込んでいる。

――財政健全化に向けた取り組みは…。

達増 臨時財政対策債を除く新規発行債の額が、その年度の償還額を上回らない財政運営を行っている。これにより、実質公債費比率が上昇しても、確実に将来負担比率が減少する要因になる。また、東日本大震災に伴う復旧・復興にかかる負担分について多額の県債発行が懸念されるが、今年度の負担分については全額、特別交付税による措置がなされる予定であるため、今年度の負担に係る実質公債費比率への影響はほとんど無いと認識している。来年度以降については、地方財政計画に復旧・復興に要する経費を確実に反映させるとともに、地方交付税についても、通常の地方交付税を維持しつつ、復旧・復興に要する経費は別枠で確保して確実に配分し、実質的な地方負担を無くすよう今後も国に対して強く働きかけていくつもりだ。(了)