種々の発想で次世代の住居を

種々の発想で次世代の住居を

住宅金融支援機構
理事長
宍戸 信哉 氏



聞き手 編集局長 島田一

――住宅金融支援機構の理事長となられて…。

宍戸 私は当機構がまだ住宅金融公庫だった昭和46年に入社して以来、ずっとこの業界にいる。平成19年から4年間は民間のサービサー会社で社長を務めていたが、理事長の公募に応じて本年4月から理事長に就いた。島田精一前理事長が民間から初めて当機構(当時は公庫)のトップに就任した時、私は総務担当の理事を務めており、1年8カ月、前理事長の間近で、公庫が独立行政法人住宅金融支援機構となるに当たっていかに経営改革や組織改革を進めていくかを学んでいた。改革では大胆な切込みが行われ、仕事のやり方一つにしても、生産性が低いと思えばすぐにやめさせるなど、前理事長の指揮は選択と集中が徹底していた。法制度で決められた仕事をこなすという公庫時代の考えとは全く違い、民間で多くの経験と実績を積まれていた島田前理事長の指導のもとで、改革は大きな成果をあげた。こういったマインドを私も引き継ぎ、経営の効率化を図っている。

――組織改革の進捗具合は…。

宍戸 組織のマインドは一気には変えられない。特に中間層職員の意識を変えるのは難しく、前理事長もこの部分は志半ばでの退任だったと思う。そこを私が引き継ぎ、改革を進めていくことで、進取の気性に富む島田イズムが徹底していくことになると信じている。独立行政法人となった現在、自ら課題を発見し、それを一つ一つ解決していくことで組織を強固なものにしていかなくてはならない。しかし、「課題を発見する」という作業は、公庫時代の「主務官庁から指示されたことを実施する」という考えのままではなかなか難しい。そのため、私は今、中間層職員と対話する時間を重視し、課題発見の前段階として、「何をやりたいのか」を見つけるためのアドバイスを心がけている。一方で若い層に関しては、証券化という最先端の業務に携われるという魅力からこの機構に入ったという者も多く、リスク管理も積極的にやりたがる。それはとてもよい流れだ。

――住宅ニーズの掘り起こしに成功している…。

宍戸 長期固定金利の住宅ローン「フラット35」のうち、省エネルギー性、耐震性等の一定の技術基準をクリアした住宅の取得に対して一定期間の金利を引き下げる制度である「フラット35S」が非常に上手く機能している。政府の経済対策による当初10年間金利1%引き下げの効果が大きいが、22年度で約17万戸の申し込みがあり、21年度比で約2.2倍となった。今年度に入っても9月末までに約9万戸の申し込みがあった。住宅エコポイントや税制と相まって、少なからず新設住宅着工戸数を押し上げたと思っている。今年9月末で金利1%引き下げは終了したが、先般成立した第3次補正予算により「フラット35Sエコ」という新商品が誕生した。これは省エネルギー性能に優れた住宅に対して当初5年間の金利を引き下げるもので、被災地に住宅を取得する場合は1.0%、その他地域に取得する場合は0.7%の金利引き下げとなる。また、私どもの利用者調査によると、「フラット35S」の効果により20、30歳代、年収600万円以下の方々の利用が増えている。このサービスが、世帯を形成して子どもを持つ20、30歳代の家庭に対して優良住宅取得を後押ししたことは間違いないと考えている。

――RMBS(住宅ローン担保証券)は完全に日本の市場に定着した…。

宍戸 私どもはファニーメイやフレディマックを参考にして証券化の仕組みを作ったが、米国とは異なりポートフォリオ投資事業などは行わず、非常に健全かつシンプルに運営をしている。さらに超過担保をきちんと積み、健全性を高める工夫もしている。この証券化の仕組みを活用した長期固定金利の住宅ローン「フラット35」という商品については、私どもが営業努力した結果、積極的に販売していただける銀行も増えた。銀行トップの方々が「社会的に見て、一番お客様にとって良い商品を提供する」という信念を持ち、自行のプロパー商品と並行して「フラット35」を取り扱ってくださることには心から感謝している。また、そういう金融機関ではプロパーローンの利用も伸ばしていると聞いている。いつでもお客さまのニーズに対応できるように変動金利、固定金利といった選択肢を用意することで、確実にプロパーローンも伸びているということだろう。

――S種は無くなったものの、月次型やSBは継続して発行している…。

宍戸 S種RMBSは財政投融資への返済のためのものであり、旧公庫勘定のALMや資金繰りの観点から、当面は発行する予定は無い。一方で月次型のRMBSやSBは継続的に発行している。今年3月、震災の影響でほとんどの起債がストップする中でも、機構は500億円まで減額した上で月次RMBSの発行を継続させたが、これは前理事長の「継続することに意味がある」という考えによるものだ。こうした継続発行の取組みが功を奏し、投資家の認知が進んで少しずつマーケットの厚みが出てきたように思う。今後も安定的に債券を発行していくために、IRをしっかりと行い投資家を増やすよう努めていく。加えて、セカンダリーマーケットを充実させるべく力を注げば、自ずと発行条件にも好影響が出てくるだろう。

――現在、SBは10年、15年、20年の3種類だが、年限についての考えは…。

宍戸 もう少し色々と考える必要があると思っている。というのも、機構は返済期間35年の住宅ローンを扱っているため、ALMの観点から言えば20年債でも難しいところがある。組み合わせで何とかヘッジはしているものの、9月に初めて発行した30年債が安定発行出来ればそれなりに余裕もでてくるため、この辺りはもう少しバラエティを持たせたいと考えている。ただ、投資家の方々からみて30年債に魅力を感じるかどうかだ。公庫時代は財政投融資から借り入れればよかったが、今はそういうわけにはいかない。しっかりと考えてベストな組み合わせで発行していきたい。

――今後、取り組むべきことは…。

宍戸 私は40年住宅金融業界に携わっており、次の世代にとっての住宅や住宅に関わる金融のあり方を考えてきている。民間ではなかなか手をつけられないような仕事でも、公的機関だからこそ取り組めることがある。例えば、機構には今もリバースモーゲージの考え方を取り入れた返済方法の商品があるが、資産である住宅を利用して生活費を得るという本当の意味でのリバースモーゲージも、できるとすれば私どものような公的機関だと考えている。資産劣化リスク、長生きリスク、金利変動リスクというリバースモーゲージに伴う三大リスクのうち、金利変動リスクに対しては証券化で培ったノウハウの蓄積で、そして資産劣化リスクに対しては「フラット35S」を通じて優良住宅を普及、促進することで寄与できる。こうしたことを一つ一つ積み上げていけば実現不可能ではないと考えている。ストックリッチにある現在の日本でリバースモーゲージが普及すれば、日本人が自分の資産を活用してもっと豊かな生活を送ることが出来る。日本もそういう時代に入ってきているのではないか。

――良質な住宅を建て、きちんとしたメンテナンスで長持ちさせて、市場に流通させる…。

宍戸 中古流通やリバースモーゲージの必要性はかなり前から言われていることだが、現状では日本の住宅は平均23年で取り壊されている。これではリバースモーゲージなどイメージできなくて当然だ。しかし、「フラット35S」で取り扱っている長期優良住宅のように、性能の良い住宅でしっかりメンテナンスをすれば、アメリカ並みの55年は大丈夫だろう。また、東日本大震災で津波の影響を受けた地域の住宅復興については、高齢化が極めて進んでいる中、持家が良いのか賃貸が良いのか、高台移転が良いのか、海や農地に近いところで良いのか、コンパクトシティが良いのかなど、色々な議論をすることが必要だ。住宅の復興も長期にわたると考えられる。機構としても、色々なアイデアを出しながら、次世代の住まい方を考え、より良いものにしていきたいと考えている。(了)