株主重視の経営で経済発展を

株主重視の経営で経済発展を

日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク
代表理事
田村 達也 氏



聞き手 編集局長 島田一

――今年1月、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)が発足した…。

田村 もともと私が代表を務めていた全国社外取締役ネットワークと財界リーダーや学者などで立ち上げた日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム、そして日本コーポレート・ガバナンス研究所の3団体が合併してCGネットをスタートさせた。統合後の会員数は、それまで各々の団体に所属していた個人会員、法人会員を加えると500名に到達する勢いで、この種の団体では日本一の規模となった。我々は経済システム全体の観点から、日本企業は株主を重視しなければいけないと主張しているが、最近では監査役など独立役員の中にも我々の意見に賛同して入会する方が増えている。日本のコーポレート・ガバナンスがどこまでグローバルレベルのガバナンスに近づいていくのかにもよるが、この団体はさらに拡大していくと考えている。

――昨年は大企業の不祥事が相次いだこともあり、今後のCGネットの活動にはますます期待が寄せられている…。

田村 現在のような環境では、ガバナンスを強化する必要があることについては何人も否定出来ないだろう。社外取締役の必要性と、その役割に対する理解がもっと高まれば、日本でも社外取締役が機能する筈だ。もともとコーポレート・ガバナンスを実現するために必要な社外取締役や独立取締役を育てるために全国社外取締役ネットワークを作ったのだが、日本では未だにガバナンスの理念自体が定着していない。そうした中でオリンパスのような事件が起き、我々としても社外取締役が何のために必要なのかを含めて、もう一度きちんとガバナンスについての理解を深めていくことが大切だと感じた。そこで、他の2団体と協力して原点に回帰した活動をしていこうと考えた訳だ。上場会社における取締役会とはどういう役割を担うのか、社外取締役や監査役がどういう役割を担うのかということを、この団体からしっかりと広めていきたい。

――ガバナンスに対する会社法改正中間試案も法務省から上がってきている……。

田村 ガバナンスは株主重視の経営を行い、企業価値を高めるために存在するものだが、日本では不祥事が起こる度にガバナンスがおかしいと指摘され、不祥事対応のガバナンスだけが発達してきている。しかしそれは、法律を作って違反を取り締まるような後ろ向きのガバナンスだ。さらに法務省の法制審議会会社法制部会に参加するメンバーも大半が法律家で、これに参考程度に呼ばれているのは経団連関係者となっている。そこには株主代表や市場代表はいない。ガバナンスについて議論する場に、ガバナンスにおいて監督される経営者や市場を理解していない法律家ばかりが揃っていて、ガバナンスを行う側がいないのはおかしな話だ。

――世界の中でも日本のガバナンスは非常に遅れている…。

田村 ガバナンスについてはほとんどの国が法律化せずに、関係諸団体間の申し合わせなどでルールを決めているのだが、日本では法律をどう変えるかということばかり議論していて、いつまで経っても先に進まない。社外取締役が必要か不必要かという議論を未だに行っている国は世界の先進資本主義の中でも日本だけだ。ACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の調査では、米国や欧州各国では独立取締役を義務付け、さらにアジアでも独立取締役の必要性をルールとしているのに、日本だけがその必要性を感じていない。そもそも日本は社長の力が強すぎるという問題もある。そういった社長らの集まりが経団連であり、政府の審議会に参加するのも経営者団体が主流だ。さらに企業は広告という強みを持っているため、マスコミは企業にガバナンスが必要だということをはっきり言わない。まずは社外取締役を義務付ける意味をもう少し理解してもらう必要がある。残念ながら日本はまだそういう次元だ。

――投資家や株式市場の意見を反映させて、コーポレート・ガバナンスを徹底させていく…。

田村 我々は取締役の過半数を独立取締役にすべきだと主張している。社外取締役・独立取締役が一番気をつけて監視すべきところは、経営者の人事と報酬だ。会社は株主から預ったものであり、株主を見ずに経営しているような人物は経営者にさせないような力を持たなくてはならない。株主が満足する経営をするということは世界でも最低限のルールだ。そうすることで経営が上手くいけば、会社は利益を出し、日本経済も良くなっていく。しかし、今の企業の多くは自分の安全保持のために内部留保を抱え、配当を減らし、新しい事業は行わずに株価収益率も低いまま、株式の価値をすっかり無くしてしまっている。買収防衛策にしても社内の取締役だけの承認で発動可能となっており、海外からは「会社は株主のものなのに日本の経営者は何をやっているんだ」という目で見られている。自分の会社を守ることばかり考えた安全経営では世界の競争に負けてしまう。もっと株主の視線で経営すれば、利益の出ない事業はやめて、その分の資源を違う事業にまわすはずだ。

――日本のガバナンスの仕組みにはお金が掛かりすぎる…。

田村 J−SOXや四半期開示などは我々が必要と考えている前向きのガバナンスではない。例えば監査法人の仕事をどんなに細かくしたところで、監査法人を指名するのを経営者にしていればいつまでたっても不祥事はなくならないだろう。独立取締役という社外の目で監査法人や監査役を選ぶ。そういう人事は経営者から独立した判断で行わなくてはならない。だからこそ過半数の独立取締役が必要だと考えている。根幹を直さずに細かいルールばかり直しているからコストが高くなり、オリンパスのような事件も起こる。そういうシステムを放置していた日本の法体系や取引所にも責任があるのではないか。

――最後に…。

田村 本来、ガバナンスというのは法律の話ではなく、経営を如何に上手くやっていくかという経済学、経営理論の話だ。経営者は儲けるためにどこに資源を配分するのか、どこに増資するのか、どの会社を買収するのかといったことに必死にならなければならない。そのインセンティブをどうつけるかに力を注ぐのが取締役会だ。しかし、大王製紙やオリンパス事件を見ると、ルールを守らなければ罰金というディフェンシブな話ばかりで、今やルールを侵さないように弁護士に守られている経営者ばかりだ。そういった内向きの流れは日本の組織全体にあり、競争力のあるものを残していくという資本主義の大原則が尊重されなくなっている。競争を抑えてきたことで民間経済は縮小し、GDPは20年経っても一向に成長していかない。そればかりか、今や韓国などの企業の後塵を拝している有様だ。(了)