経済的な人工島で海と共生

経済的な人工島で海と共生

SAKO建築設計工社
建築家
迫 慶一郎 氏



聞き手 編集局長 島田一

――東北スカイビレッジ構想について…。

 東日本大震災の津波でダメージを受けた沿岸部地域では、住民の安全のために高台へ住居移転を促している自治体は多い。確かに津波被害を免れるために高いところに住むという発想は正しいのだが、農業や漁業といった第一次産業の方々は、働く場と住居が近い距離にあることが必要で、そのため津波以前の東北の集落は平地に点在していた訳だ。そういった人たちが山の上の高台に移転すると、農地や漁港までの距離は今までよりも遥かに遠くなり、さらに標高の低い沿岸部には誰も住まないという状態になってしまう。その範囲は広大だ。そこで、これまでの住居を平行移動させて高台に移すのではなく、今までどおりの場所で地盤を20m程度高くして居住するほうが合理的ではないかという発想から、この構想は始まった。これまでは高台の公園や学校施設に走っていた避難方法も、この構想が実現すれば津波が来たら自分の家に避難し、テレビを見ながら津波情報を確認するというふうになる。住み慣れた地元に戻って再建したいという住民の強い想いにも応えることが出来て、同時に避難の在り方も変わる。それが、東北スカイビレッジ構想だ。
――「海と共生する住まい方」を実現させる…。

 平野部に高さ20mの人工島「スカイビレッジ」をつくることで、高さ10数mの壁のようにそびえる防潮堤をつくる必要もなくなる。人工地盤については1968年に香川県坂出市で実現しており前例もある。土木と建築というのは今までは完全に分かれた領域だったのだが、今後津波に強い街をつくるには、土木と建築が手を結ばなくてはならない。東北スカイビレッジ構想はまさに土木と建築の融合だ。もちろん高台移転が容易なところは高台移転をすべきだが、宮城県などの平野が広がるところにおいてはこの構想がマッチしていると思う。ひとつのビレッジの大きさは東京ドーム程度。上層部には100〜500戸の住居をつくり、さらに幼稚園や老人ホームも人工地盤上に整備する。下層部の空間は駐車場や工場として利用出来る。外壁のコンクリートを緑で覆えば、まるでそこは天空の城ラピュタのようなイメージだ。飛行機から見てもその形状は目を引くため、これ自体が観光資源にもなるだろう。

――3月11日の大津波では、船も車も流されてしまった…。

 津波で流された車は凶器にも変貌した。さらに車が無くなり交通手段が断たれたことで、長い間、自力で食料を確保することも出来なくなった。そういったことが再び起こらないように、下層部には自動開閉式の出入口を一箇所つくり津波が来たら閉まるようにして車や財産をしっかりと守る構造にしている。普段の上層部と下層部の行き来は中央部にエレベーターを設置すれば何の問題も無い。さらに外側に非常階段をつくれば、すべてのビレッジが広域避難場所になる。こういったものが平野部に点在していることで安心して海辺に出ることが出来る。また、このような住宅が密集したコンパクトな街は欧州にはたくさん存在し、例えば、フランスの丘陵地帯やアドリア海に浮かぶドブロヴニクなどは、写真を見れば誰もが行きたくなるような素晴らしい街だ。そして、その街が出来た背景にはそれぞれの国の歴史がある。そんな中で今の日本は、海に囲まれた日本列島にすむ我々日本人が、今後どのように海と付き合っていくかという問題に直面している。21世紀という時代に生きている我々が、今、その答えを出さなくてはならない。

――建設コストは…。

 高台に移転するということは、今まで長い時間をかけて整備してきたインフラを捨てて、新たに一から高台につくり直すということだ。それまでの投資がすべて無駄になり、また建設費も莫大になる。随分前に宮城県が試算した高台移転のための建設費用は2.1兆円だったが、このスカイビレッジは1つのビレッジの土台にかかる費用が約200億円。2.1兆円の予算があれば100のビレッジの土台を作ることが出来る。さらに土台の周りには部分的に丘をつくるがその際に瓦礫も利用すれば、10万立方メートル程度の瓦礫はスカイビレッジ8個分で吸収される。そして、高台移転の対象とされている1万4000戸の住居は、1ビレッジに少なくとも140戸つくればすべての住居が遠い山の奥の高台に移ることなく、これまでと変わらない生活を送ることが出来る。海との断絶もなく、自然を破壊することもない。高台に移れば半永久的にかかるだろう時間とエネルギーのロスも防ぐことが出来る。さらに一つのビレッジの下層部約9万平方メートルの空間、100個のビレッジで約900万平方メートルの産業用空間は、高台移転ではついてこない「おまけ」の空間だ。

――商業用空間の具体的な利用法は…。

 駐車場や工場といった案は先述のとおりだが、例えばコンクリートは放射線も通しにくいという利点もあるため、LEDを利用した無農薬の植物工場などにも適している。あるいは、クリーンルームが欠かせない半導体工場をつくるというアイデアもある。また、港に隣接するスカイビレッジの下層部には水産加工業の工場を入れ、そのビレッジには漁師が住むという案もある。港の傍には水産加工場や製氷場が不可欠だが、再び津波が来てすべてが流されてしまうと考えるとなかなか再開に踏み切れないという漁業関係者も多いと思うが、スカイビレッジの強固なコンクリート内で工場がしっかりと守られていれば、安心して再開できるだろう。自治体の中には、復興案の中にこの構想を取り込んでくださっているところもあり、そういった方々と直接意見交換させていただく中で、本当に色々なアイデアが出てきている。

――魅力的な街づくりのためには…。

 基本的にはそれぞれのビレッジでコミュニティをつくる構想だが、仮にその数が多くなれば、中心的な役割をするビレッジとして、オフィスやショッピングセンター、小学校や役所、総合病院など公的施設を集めた「中心島」をつくる必要もある。中心島に関しては採光を十分に取り入れるようにガラス張りにする。津波が来ればガラスは壊れてしまうが、何時来るかわからない津波のために、毎日、窓もない閉めきられたオフィスの中で働くよりも、津波が来た時にはガラスを破って津波の勢いを逃がしてしまったほうがよいと考えるからだ。骨組みさえ頑丈につくっておけばガラスを嵌めなおすだけでオフィス空間は再生する。その他にも、DFSとアウトレットモールを組み合わせて大型商業施設をつくったり、あるいは下層部をカジノにして、上層部にはオーシャンビューを楽しめる高級高層ホテルをつくったりと、魅力ある街づくりを考える人たちと議論を交わす中で、このスカイビレッジ構想はどんどん進化してきている。

――東北地域は3.11の大震災が起こる前から独居老人などといった問題もあった…。

 「東北スカイビレッジ」では、一つのビレッジでコミュニティを再生することによって、様々な世代が一緒になるコンパクトシティが出来上がる。私は、高齢化が進む日本全体としても、このような街づくりに向かうべきなのではないかと考えている。実際に、コンパクトシティの再生は様々な点において都市計画の定石となっているが、実現化はされていない。今回大津波ですべてを失った街だからこそ、新たに一から目指すべき方向に進むことが出来る。この構想は3年で竣工させる計画だ。さらに、コンパクトシティと同時にスマートシティも実現出来ないものかと考えている。スマートシティというネットワークを生活の中に組み入れることで、災害時に孤立したとしても、最低限の電源は太陽光やバイオマスで供給して自活できるようなシステムをつくっていきたい。目指すのは災害に強い街だ。

――この構想を実現させるために必要なことは…。

 実現させるためには4つの関門をクリアする必要がある。1つ目は、現地自治体の同意だ。2つ目は、住民の方々の合意。3つ目は、各省所管の官僚の方々がその枠組みを超えて協力してくれること。そして最後は、やはり政治判断でこの計画が認められることだ。この中で特に2つ目の住民の方々の合意というのは非常に重要で、たとえ行政や経済界が乗り気になったとしても、住民の方々が無理やり移動させられるような気持ちになってしまっては駄目だと思っている。私は建築家として、「こんな新しい街になるのなら是非住んでみたい。ここで自分たちの未来を再建したい」という気持ちになって欲しい。今、着々とこれらの関門をクリアしている最中だが、有難いことに、これまで直接話をさせていただいた方々は、ほぼ皆さん賛同してくださっている。実現の日は近づいている。(了)