漢字で日本文化の発展に寄与

漢字で日本文化の発展に寄与

日本漢字能力検定協会
理事長
?坂 節三 氏



聞き手 編集局長 島田一

――漢字検定(以下、漢検)がブームになっている…。

高坂 平成23年度の志願者数は約230万人。一過性のブームとしてではなく、絶えず裾野を広げる活動をしたいと考えている。最近では大学の推薦入試やAO入試が増えたこともあり、中学校や高校が漢検の取得を勧めている流れもある。実際に、漢検を取得していると就職の際のPRになるとして受検する人も多い。また、TBSや大日本印刷、IBMなど、入社条件化したり、企業内で受検を推奨したりしているところもある。今後は、小学生から社会人まで幅広い年齢層の方に受検してもらえるようにしたいと考えているところだ。少しずつ、着実に、裾野を広げていきたい。

――国内外で日本文化に注目が集まっている…。

?坂 今のように将来が見通せない状況になってくると、人間は自分のルーツや歴史を振り返りたくなるものだ。日本は戦後から今に至るまで猛突進してきたが、それを一旦立ち止まり、自分のアイデンティティや価値観を見直すというムードが社会全体に広がってきている。日本漢字能力検定協会が毎年実施している「今年の漢字」でも、2011年は「絆」が選ばれたが、大震災後に様々な識者が唱えていたのは「成長」よりも「心の豊かさ」であり、「絆」を大切にすることだった。このように、漢字は表意文字であり、文字を見れば何を意味しているのかわかる。こういった漢字の重要性をもっともっと広めて、日本文化の普及に貢献していきたい。

――近年の漢字の歴史を振り返ってみると…。

?坂 漢字を使用することは非効率だという意見もあり、明治以降の日本にはなんと漢字廃止論があった。文豪志賀直哉も「日本語を排してフランス語を母国語にすべき」と提案していたくらいだ。そこで文部省は、日常生活に必要な共通性の高い漢字を選び、学習指導や報道機関が使用する漢字基準を作った。その後、戦後のGHQ占領政策下にあった1946年、内閣は当時使用頻度の高かった漢字を選んで「当用漢字表」を告示した。これは、最終的に漢字の全廃を目的としたものでもあった。しかし、結局は漢字の必要性が認識され、1981年には「当用漢字表」が廃止され、「常用漢字表」が告示されることになる。今ではパソコンを使えば見たこともないような漢字まで簡単に変換してくれる時代となった。「今年の漢字」として選ばれた「絆」という漢字も、実は常用漢字ではない。しかし、新聞社などはこの言葉を漢字で表すことに決定した。

――「漢字廃止論」の背景にあったものは…。

?坂 ワープロが普及する以前の活字文化においては、日本のように漢字と仮名とカタカナを扱う国では文字数が膨大になり、文章を活版印刷するのに大変な手間がかかっていた。また、敗戦国日本に来た進駐軍にとって、漢字は複雑怪奇で理解不可能なものであり、その勉強に費やす時間は無駄だと考えたのだろう。実際に、漢字が存在する事によって、日本の学校は他の国よりも国語の授業時間が長いというデータもある。確かに漢字はアルファベットや仮名と違い、ある程度勉強しなくては身につかないものだ。しかし、それを理解して身につければ色々なことに応用できる。そこに漢字を学ぶ楽しさがあるのではないか。そういう楽しさに目覚めている人たちが、今、増えている。我々はこの流れを維持し、漢字を日本文化の底流に育てていきたいと思っている。

――外国人に向けての発信は…。

?坂 BJTビジネス日本語能力テストがある。これは、主に外国人を対象としたビジネス場面における日本語コミュニケーション能力を測定するもので、もともと日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施していたのだが、行政改革の一環としてこの事業を民営化するよう勧告され、09年より我々が継承することになった。継承後しばらくは利益に結びつかない状況が続いていたが、昨年秋から本格的な取り組みを始め、昨年秋の受験者数は3000人になった。さらに来年度は春と秋に試験実施を予定しており、年間7500人の受験者数を見込んでいる。受験者の半分は中国人だ。日本語を勉強する外国人の約8割は企業に就職することを考えていると聞く。そのためにはビジネス日本語が必要だ。しかし、一般に行われている日本語能力試験でビジネス日本語の能力を判断するのは難しく、日本語能力試験N1(1級)レベルが日本企業が採用する最低ラインとされている。そういったこともあり、日系企業に就職するためのビジネス日本語のレベルを示すBJTは今後も重要視されてくるだろう。我々が今後グローバルな広報活動を行うことによって、外国人のBJTに対する認知度をもっともっと高めていきたい。

――漢字を世界中に普及させるために、海外拠点を作るという考えは…。

?坂 外国人を対象として考えるなら、実用性の高いビジネス日本語、つまりBJTが端緒となる。拠点に関しては、中国では一般企業と違って公益法人の事務所設立には手間がかかる。そのため、現在は中国教育部考試中心の協力のもと、中国国内14箇所でBJTを実施している。その他、タイでも既にテストを実施しており、次のターゲットとしてはベトナムでの普及に向けた取り組みを検討しているところだ。

――元理事長の不祥事により漢検協会に対するイメージは著しく低下したと思うが、その後の対策については…。

?坂 この問題はあくまでも経営者の問題だ。それを自戒して私がやらなければ良いだけの話だ。しかし、チェック機能として、毎月、理事会を開催するとともに、不明瞭なことを直接弁護士に相談できるような内部通報制度もしっかりと整えた。結局、内部を動かすのは人であり、不正を行わないような人材を育成することが最重要課題だと考えている。

――最後に、協会の存在価値について…。

?坂 当協会では漢検だけでなく、例えば朝日新聞社と共催で池上彰さんを呼んで国語に関する講演会を行ったり、読売新聞社と共催で活字文化フォーラムを開いたり、京都大学と第1回AEARU漢字文化シンポジウムという国際的な会議を実現させるなど、文化的な活動にも力を入れている。京都では漢検漢字資料館を運営しており、漢字文化の情報拠点として、漢字に関する情報の収集や発信、展示などを行っている。また、漢字に関わる優れた学術的研究や調査等を行った若手研究者に対して、その功績を称えて社会全体に広く公表する制度もある。その他にも、漢検の1級・準1級合格者の会員組織である漢検生涯学習ネットワークの活動や、漢字の好きな人たちが集まって交流を深める漢字同好会の支援も行っている。このように色々な活動に取り組みながら、漢字が広く日本文化の発展に寄与するような努力をしているところだ。(了)