友好的なM&Aでグローバル企業に

友好的なM&Aでグローバル企業に

JT
代表取締役社長
木村 宏 氏



聞き手 編集局長 島田一

――昨年の大震災の影響はあったものの、御社の業績は好調のようだ…。

木村 国内・海外、それぞれのたばこ事業が牽引し、中期経営計画「JT−11」の目標である全社EBITDA年平均5%成長を上回る見込みだ。国内たばこ事業はサプライチェーンが被災し、昨年の春に一時出荷を制限せざるを得なかったことから販売シェアを失ったが、新製品の投入やキャンペーン等の販売促進策を強力に推し進めることにより、着実に回復してきている。海外たばこ事業では、注力しているグローバル・フラグシップ・ブランド(Winston、Camelなど8つの戦略ブランド)が好調で、主要マーケットでのシェア伸長に貢献している。加えて単価上昇効果もあり2011年度のEBITDAは17.3%成長し、JT(2914)グループの利益成長をこれまで通り牽引している。過去の2度にわたる大型M&A(RJRI社、ギャラハー社)により、海外に本格的なビジネス・プラットフォームとブランド・ポートフォリオを獲得できたことが、厳しい事業環境の中での成長の実現に大きく寄与している。例えばロシア市場では、RJRI社が保有していたWinstonが成長エンジンだが、買収以降、Winstonの品質向上にしっかりと投資したことにより、ロシアの経済発展に伴い価格の安いローカル・ブランドからインターナショナル・ブランドへと売れ筋が変化する流れをうまく捉えることができた。またWinstonは、成熟した先進国のマーケットにおいては、ロシアなどの新興国とは逆の形で強みを見せている。増税実施などによりたばこの価格が上昇する中で、高価格帯から中価格帯への需要シフトをうまく取り込んでおり、現在Winstonは、販売数量世界第2位の強力なブランドだ。不景気による所得減少や失業率の高まりは、喫煙者が安いたばこにシフトするか、喫煙自体を止めるかという流れを生んだが、そんな中でも利益成長ができているのは、M&Aで獲得したブランド・ポートフォリオが良かったためだ。ギャラハーの買収では、RJRI買収で獲得したものも含めJTとギャラハー社のそれぞれの強いマーケット、強いブランドを組み合わせることで大きなシナジー効果を生んでいる。

――買収が成功して真のグローバル企業になった数少ない例だ…。

木村 世界的にたばこの広告戦略が出来なくなるという時代にあって、我々が時間をかけずに海外の大手企業に追いつくためには、もともとある企業とその企業の持つブランドを買収する方法がベストだった。ノウハウやインテリジェンスをもった人材に加え、魅力ある市場も手に入れられた。買収するうえでこだわったのは、100%の株式取得で経営権を完全に取得することだった。少数派による色々な株主間調整にエネルギーをとられていては、施策展開に時間がかかり、スピーディな行動ができなくなるからだ。そして、契約した次の日から、皆が一丸となって一生懸命働けるよう、敵対的ではなく、極めて友好的な買収を心がけた。また、M&Aでは買収後の統合こそが重要で、具体的な人員や拠点の配置を考えた統合計画を早期に策定した。さらに、長期的な成長戦略をもとにたばこメーカーとして必要な投資を行ったからこそ、JTのM&Aは成功したと言われるのだろう。買収された側の社員も、やりたいことができるようになったと大変喜んでいた。現在、従業員の国籍は100カ国に亘り、経営陣の国籍も様々だ。そんな中で重要なのは、いかに論理言語で語れるかということ。論理的に話さなければ、コミュニケーションは成り立たない。

――人口が減少していく日本では販売も頭打ち状態だが、一方で海外は非常に元気だ…。

木村 今はブランドと市場、双方のポートフォリオに厚みがあるため、ある市場が落ち込んでも、別の市場でカバーする構造が出来上がっている。この3年、海外たばこ事業のトップには毎年10%の利益成長を求めてきたが、容易ではないこの要望をきちんと達成してくれている。もともと海外拠点の主要ポストに関しては、日本人を置いてすべてを日本でコントロールするようなことは考えておらず、任せるところはかなり任せてきた。そういったことも、良い結果を生み出している理由だと思う。世界120カ国以上で事業展開し、常に環境の変化に晒されている状況の中では、前提通りに進むことはない。08年のリーマンショックでは当初、たばこ事業への影響はそんなに大きなものではないだろうと思っていたが、財政難から各国でたばこへの増税が頻発したこともあって、約1年のタイムラグを経て事業にボディブローのように効いてきた。また、日本における一昨年の過去に例のない大幅なたばこ増税や、昨年の震災は誰にも想定できなかったことだ。この様な想定を超える変化や出来事に素早く柔軟に対応することが、企業の競争力の観点から極めて重要だと考えている。次期中期経営計画では、目標を3年間固定していたこれまでの方法を替え、毎年、3年分の計画を策定し、ローリングする方式を取り入れることにした。

――医薬事業、食品事業については…。

木村 医薬事業は、未だ収益に貢献するに至っていないというのが実情だ。ただ、これまでにわが社で創製した大型の新薬候補は3つあり、そのうち、昨年10月に米食品医薬品局に申請した抗HIV感染症治療薬候補に関しては、早ければ今年8月末にも結果が出てくる段階にある。世界レベルで見るとJTの研究開発費は200億円強で規模的には中堅以下だ。そういうところがこれだけ大型の新薬候補を出しているということに関しても高い評価を頂いている。我々の基本的な医薬のポリシーは世界に通用する画期的新薬を創出することであり、患者や医者のためになるような貢献をすることだ。それは技術的にハードルの高いものへの挑戦だが、このような長期タームによる取り組みも、たばこ事業での安定した収益が支えてくれているという構造があればこそ出来る。他業種からの参入であるだけに、そうした他社が出来ない創薬を手がけていきたい。食品事業は、加工食品事業においては冷凍米飯、冷凍麺、冷凍パンといったステープルや、酵母エキス等の調味料に戦力を集中し、飲料事業では基幹ブランド「ルーツ」の更なる強化を図ることで収益力の向上に努め、来期以降着実に利益率を伸ばしていきたいと考えている。

――株主還元についての考えは…。

木村 今年の配当性向は31.5%を見込んでおり、2011年度までの中期経営計画「JT−11」に掲げた目標値30%は達成できると考えている。次の中期経営計画では少なくとも10%以上向上させるべく検討している。世界のたばこ業界3番手であるJTとしては、まずは事業投資に力を入れ、中長期的にしっかり利益成長を成し遂げて行くことが最も重要なことだ。JTの想いを、ロングホルダーの方もきちんと理解してくださっている。

――最後に、将来に向けての抱負を…。

木村 あくまで私の想いとしてだが、できれば、毎年最高益を更新するぐらいの企業になりたいと考えている。「世界一のたばこ企業になる」ためには、最も高い利益成長率を達成しないと果たせない。この夢を実現するために、世界120カ国以上の社員が一丸となって頑張っていきたい。(了)