独立系の総合証券として基本に戻れ

独立系の総合証券として基本に戻れ

大和証券グループ本社
執行役社長 CEO
日比野 隆司 氏



聞き手 編集局長 島田一

――社長としての1年を振り返って…。

日比野 証券業界はリーマンショック以降、ホールセール中心にいわば構造不況業種で、昨年2月1日に私が社長就任会見を行った時も「逆風の中の船出」と言われていた。その後、3月11に東日本大震災が起こり、今度は「嵐の中の船出」と言われる中で4月1日の社長就任の日を迎えた。さらに、その後のユーロ危機は私の予想を超えて酷く、「嵐」は「大嵐」になったが、ようやく昨年末にはほぼボトムアウトしたのではないか。振り返ると、投資銀行不況の深さはグループ全体に大きなインパクトを与え、社長就任後最初の9カ月は、ホールセール部門を中心にひたすらリストラを進めざるをえなかった。しかし、あからさまにこれだけの業界不況の中だったからこそ、ここまでドラスティックな改革が出来たともいえる。一方で、リテール部門やアセットマネジメント部門は苦しいながらも黒字基調を保つことが出来て、これらが救いになった。結果として、就任初期段階に損益分岐点を大きく引き下げることが出来て良かった。この先も何が起こるかはわからないが、平均して今年程度の逆風であれば収支は大丈夫だと考えている。

――大幅なコストカットについて…。

日比野 昨年5月に腰だめで300億円のコストカットを見込み、一方で安定収益を増やすことで1000億円の収支改善を行う予定を立てたが、今年度期初予算ベースの販管費との水準比較では、すでに来年度に500億円という大幅なコストカットが実現可能で、期初予算で当初3800億円としていた販管費が3300億円になることがほぼ確定している。その他、IT面では減価償却が効いてくるため、すでにパッケージとして決めていることを実行するだけで年々コストが減少していく。そのため、第3四半期の決算発表段階では、この3年間で600億円を削減する計画に変更し、来年度500億円、そして、次期中期経営計画中にさらに約100億円のコストカットを目指している。

――証券とキャピタル・マーケッツ(CM)の統合で、さらに大きな削減も可能では…。

日比野 急激な変動は見込んでいないが、前述のコストカットは統合による削減効果は含んでいないため、実際にはもう少しコストカットが可能だろう。ただ、人件費は特に変わらない。これが海外と違うところで、ミドルやバックオフィスにいるコストセンター側の人材をレベニューサイドに変えて、その効果を暫く見てみないことには、実質コストがカットされたという形にはならない。投資銀行業務については、2000年代前半に主流だった自己資本投下ハイレバレッジ型の利潤追求が規制されるなど、グローバルベースでの規制の影響は大きく、収益が減少するのは当然だろう。しかし、顧客ベースのブローカレッジやアドバイザリー業務など、破格の収益を生むことは難しくとも、社会的ニーズのある基本的な業務はこれからも厳然と残っていく。そういった業務をしっかりと続けて、なおかつ営利企業として継続出来るだけの報酬水準を保っていかなければならない。証券業界全体がそういう流れになってきていると思う。あらゆる危機の度に「基本に戻れ」ということが言われているが、今回は規制の流れもあり、かなり基本に戻ることになる。

――今後、特に力を入れていくところは…。

日比野 M&A業務は増えていくだろう。昨年のIN−OUT案件は6兆円弱でかなり高水準だ。日本企業の海外進出は続き、海外企業の買収を中心とするクロスボーダーM&Aのニーズは今後も高まると見ている。我々も英クロース・ブラザーズ社の投資銀行部門を買収したことで、欧州全域をカバー出来るようになった。また、米国方面は30%弱を出資しているセージェント・アドバイザーズが、そしてアジアは自前でカバーし、M&A部分に関しては、リストラモードの中でも例外的に資本投下して、グローバルネットワークを強化させている。その他の業務については、欧州を中心に海外全体で約500人の人員削減を行ったが、アジアに関しては増強させている。一時期かなり急ピッチで拡大させた後に欧州危機があったために、ピーク時の人数から比べると大幅に減らしている印象があると思うが、香港を中心とするアジアでは、もともとの750名が950名となり、結果的に200人増やした形となっている。海外でリストラを行うと、周りは色々な憶測をするが、撤退するわけでも基本方針を変えるわけでもない。実態としてアジアの比重は高まっている。日本の企業自体も、今、最も業績に貢献しているのはアジア新興国での収益だ。つまり、アジア地域を押さえることが、我々が日本企業とのきずなを保つために不可欠であり、それが国内法人部門におけるブランドを高めるために必要ということだ。規模は小さくとも地理的なアドバンテージのあるアジア各国を、気長にきちんと押さえていくことが大切だと考えている。

――国債が乱発され、これ以上消化出来なくなれば、今後の資金の流れは株に行くしかない…。

日比野 商品ラインナップの中で収益性が最も低く、さらにインターネット売買が主流という中で、日本株には注力しないという証券会社も多いが、日本の資本市場の担い手である独立系の我々にとって日本株は特別なものであり、そこは銀行系証券会社とは違う。日本の総合証券会社として顧客にまず勧めるべきものは日本株だと考え、昨年11月には21年ぶりにキャラバンを組成してNY、ロンドン、東京を回った。国内では地銀株プラスαで高配当低PBRをリストアップしてご当地銘柄を進めるようにしている。さらに昨年12月には日本株投信を中心に据えた投信販売を行った。株式市場という畑をきちんと耕さないことには、日本の資本市場は機能不全に陥ってしまう。IPOにしても、優良類似会社の市場での評価が1株当り純資産割れでは新規公開出来る会社がSNS関連ばかりになってしまうのも必然だが、これでは幅広い新規産業は育たない。こういった認識を総合証券会社は持つべきだ。今の日本は株の配当利回りに比べて債券や預金の金利が異様に低いなど、アセット間のリスクリターンが無茶苦茶になってしまったが、その背景には、日本における金融リテラシーの低さと、独立系有力証券会社の減少という構造的な問題がある。

――統合で今後期待されることは…。

日比野 ファイアーウォールなど法律上の足枷が外れる為、今後はリテールとホールセールの連携が強化される。今までどうしても手薄にならざるを得なかった地方法人に力を入れていくつもりだ。一部のメディアではSMFGとの合弁解消がマイナスに働いたとも言われていたが、実際には概ねニュートラルに推移している。明らかに損失だったのは、この投資銀行不況の中で、結果的に大和側がすべての損失をもたなくてはならなかったことだ。大和SMBCの業績が振るわなかったのは時代の問題であり、合弁を解消したからではない。合弁解消後は三井住友という看板がとれたことで、他の銀行すべてとのエクイティ・ファイナンスの共同主幹事への参加も可能になった。一方、エクイティで顧客をSMBC日興に奪われてしまったということもない。資本のバッファーも流動性バッファーも適正レベルよりもかなり大きく全く心配ない。むしろ過剰資本に近いため、マーケットが安定すればもう少しリスクを取らなければならないと考えている。実力さえ備えていれば、独立系のメリットは大きくなっていくものだ。

――最後に、社長2年目に向けた抱負を……。

日比野 我々はこの逆境の経営環境の中で、随分と筋肉質になった。今年は創業110周年を迎え、13年ぶりにひとつの大和証券に戻ることになる。分社で背負っていたハンディキャップが解消され、証券ビジネスに吹いていた逆風も止まり、良い形で110周年のスタートがきれそうだ。完全体の独立系総合証券会社として、社会にとって必要不可欠といわれるところまで昇りつめたい。(了)