不正で得しない基盤作り必要

不正で得しない基盤作り必要

参議院議員
財政金融委員会筆頭理事 民主党
大久保 勉 氏



聞き手 編集局長 島田一

――AIJ投資顧問による年金消失問題について…。

大久保 まず、年金資金は基本的に投資は自己責任だが、年金資金を運用しているのは年金基金の理事だ。その理事に適正な行為能力があるのか否かが重要な問題だ。具体的には、年金資産は年金受給者や加入者のお金だが、理事がきちんとそういった人たちからの受託者責任を果たしているのか。株式会社では徹底して求められているガバナンスが、果たして年金基金でも行われているのか。こういったことをもう一度振り返る必要がある。過度なリスクをとって年金が破綻した場合に、その責任を取るのは、結局、受給者だ。

――今回のような場合、年金を運用する側に責任を問うことは可能なのか…。

大久保 厚生年金保険法では、理事が連帯して責任を負うことになっている。今回、ある年金基金はAIJ投資顧問に対して全資産の5〜7割を投入していたが、これは分散投資義務を怠った明らかな善管注意義務違反だ。例えばこのケースで年金加入企業に20億円の損害が生じた場合、年金受給者が理事に対して20億円の賠償を求めた裁判を起こせば、その金額を理事が連帯して払わなくてはならないということだ。過去にそういった裁判事例はないと思うが、法律上の規定はある。今回のケースで始めて年金の理事は責任重大であり、きちんと代議員会をしなくてはならないということが徹底したと思う。さらに年金基金としては、安全運用と分散投資を行うべきだ。

――1年前にも不動産投資会社のダヴィンチ・ホールディングスが倒産したが…。

大久保 その問題が起こったことで、昨年、資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律案に「一部の企業年金基金において多額の損失や大幅な積立金不足が発生している実態に鑑み、資産の管理運用を委託されている金融機関等の業務の実態を把握した上で、その業務に関し、適切な検査・監督を行い、基金に係る受託者の責任・注意義務が十全に発揮されるよう配慮すること」という一文を入れた。これは年金基金の問題であり、AIJ投資顧問の問題でもあった。さらに、厚生年金基金の委託者責任についてもしっかり調べることを決議していた訳だ。それにも関らず、それを政府が実施していなかったことは問題だ。

――行政の責任問題だ…。

大久保 この付帯決議(案)には「政府は、次の事項について、十分配慮すべきである」としてあり、この「政府」の中には当然、金融庁、厚生労働省が入る。国会の主として全会一致で決議したのに、何もしなかった。ここは大いに問題にすべきだ。その責任については、AIJ問題に一定のけりがついた後に取るべきだと考えている。

――AIJ問題と厚生年金基金問題の関係については実は密接な関係がある…。

大久保 この二つの問題はコインの裏表の関係にある。表側のAIJの問題では、橋本龍太郎内閣での金融ビッグバンで規制緩和とグローバル化政策がとられた際に、本来ならば、性悪説に則った管理監督体制をしっかり作るべきだったのに、それを当局が怠っていた。自由化が間違いだったとは思わないが、自由化するのであれば、それに応じた検査体制を作るべきだった。また、裏側の厚生年金基金の問題では、バブル崩壊後に中小企業の経営が厳しくなり、金利も急激に下がりゼロ金利政策を行う中で、5.5%で運用し続けることなど不可能だったにもかかわらず、厚生労働省がそれを放置し、年金を10数年そのままの状態にしていた。厚生年金基金に関しては厚生労働省の管轄で金融庁も口を出しづらかったのだろうが、それは、やはり問題だ。身の危険を察知して厚生年金基金から確定拠出型の年金へ移行した会社もあったが、そのほとんどは体力のある大企業であり、その結果、AIJは運用に苦しみ、かつ運用報告書が多少ずさんでも見逃してくれる年金基金にターゲットを絞って、虚偽の高利運用を掲げて販売していたということだ。

――これからどのような制度的対応が求められると考えているのか…。

大久保 AIJ問題は資本市場の信頼を揺るがす極めて重大な犯罪だ。実態が明らかになった段階で、適切な法改正が必要だと考えている。現在の金商法に関する量刑が軽すぎるという意見もあるが、それは十分に合理性のある議論で、その場合、金商法と刑法の見直しから始めることになる。AIJが投資をしていた年金から他の年金へとAIJのファンドを売却した金額は約700億円だ。買った年金が売った年金に対して、実際にはその価値が水増しされたことから、不当利得返還訴訟を起こされた場合には、資本市場は非常に混乱する。NAV(Net Asset Value)が水増しされることによって、正味価値で売買するという証券市場の基盤が壊れてしまうということだ。この犯罪性を明らかにして、少なくとも、こういった不正をしても得をするようなことがないような基盤を作る必要がある。

――金融庁では、人員不足のためチェック機能が甘くなったという声も聞かれるが…。

大久保 自由化・グローバル化という今の流れを方向転換し、以前のような行政指導で箸の上げ下ろしまで規制する体制に後戻りすることは現実的ではない。むしろ日本の金融の国際競争力を高めていく観点から、市場の信頼性や透明性を高めることが必要だ。そのためには、証券取引監視委員会の人員を質量の面で強化すべきである。ただ、むやみやたらに数を増やすのではなく、例えば、検査官の中にファンド・オブ・ファンズの経験者や、年金の資金管理経験者などを入れて、質を高めることを同時に考えなくてはならない。

――これまで、ファンドに監査を義務付けていなかったこと自体が驚きだ…。

大久保 今回の調査では、投資顧問会社が国内で運用する私募ファンドの約半分が外部監査を受けていなかったということだった。一方、海外の投資顧問会社に関しては約9割が監査を受けていた。つまり、国内の監査が甘かったということだ。また、年金の理事が監査も受けていないようなところに資金運用を委託したことも大きな問題だ。年金基金は理事たちのお金ではない。外部監査がないということを何故チェックしなかったのか。その程度のノウハウしか持たない厚生年金基金が、果たしてオルタナティブ投資をすべきだったのか、もう一度きちんと議論する必要がある。場合によっては、これまでのように信託銀行への一任勘定による運用や、一定の商品に関するノンプロの投資家の運用規制を考える必要もあるのではないか。

――代行資金の損失分を政府が補填するような考えは…。

大久保 投資は自己責任が原則だ。分散投資もせずにお金がなくなったからといって、国に公的資金を請求するのはおかしい。そもそも、代行資金として使われていたのは厚生年金からの公的資金であり、本来ならばそれを返さなくてはならないお金だ。代行割れの部分の返済が出来なければ、その時点で公的資金が入ることと同じだ。だからこそ穴が空かないように、長期に亘ってでもしっかりと払ってもらうしかない。支払いはその厚生年金に加盟する中小企業が負担することになる。企業の中には負担分を支払えず破綻に追い込まれる可能性もある。さらには、兵庫県のタクシー会社のように連鎖倒産になる場合もある。そこで中小企業の連鎖破綻を防ぐために国の何らかの関与が必要になるかもしれない。勿論、この場合でも厚生年金基金を救うのではなく、年金破綻の結果一時的に大きな負担を被る中小企業に対して、それも本業で利益を上げている中小企業に限定されることになるが、公的融資とか保証協会保証などの資金の融通に限るべきだ。また民間金融機関の貸し剥がしや貸し渋りに至らないように金融庁が指導することも重要だ。(了)