日本の暴力団規制はまだまだ

日本の暴力団規制はまだまだ

警察庁刑事局
暴力団排除対策官 警視長
松坂 規生 氏



聞き手 編集局長 島田一

――暴力団対策法改正案を閣議決定した目的は…。

松坂 ここ数年、福岡県などで暴力団同士の対立抗争や、事業会社を狙った暴力団によるとみられる事件が多発している。これは福岡県に限ったことではなく、東京都内でも昨年中に工事現場に銃弾が打ち込まれたり、暴力団同士のトラブルによる殺傷事件などが起きている。こういった事件は全国各地で起こりうるものであり、それに対応して市民を守るための規定を整備するのが暴力団対策法改正案の目的の一つだ。ほかにも、金融機関について言えば、例えば金融機関が拒絶しているにも拘らず、暴力団側がしつこく取り引きを求めてくるような場合に、今回の改正により警察が中止命令を出せるようになった。

――なぜ、最近になってそういったトラブルが目立ってきたのか…。

松坂 社会で暴力団排除が進むにつれて暴力団は追い詰められ、資金を稼ぐ場所が限られてきたのが大きいのではないか。そのような環境の中で暴力団組織が生き残っていくためには、他の暴力団の縄張りに手を出すか、もしくは暴力団とは付き合いたくないと考える人たちを脅してでも、金を出させるかしか手段がなくなってきたということだ。昔は暴力団でご法度とされていた詐欺や泥棒にも手を出して検挙されるという犯罪も多くなってきた。暴力団はあらゆる場面で追い詰められており、行き場がなくなっている。

――米国は、日本の指定暴力団山口組を国際犯罪組織に指定したが、この背景は…。

松坂 暴力団が資金をどのように動かしているのか実際にはわからない部分もあるが、例えば、株式市場など表向きまっとうなところで資金運用して稼いでいる部分も大きい。そういった部分で米国市場がターゲットとされないように、排除していくということではないか。日本の暴力団も、犯罪組織という意味ではいわゆるマフィアと同じだ。そして、米国としては、どこの国のものであれ犯罪組織がアメリカで資金獲得活動することは許容できないという強い意志を示した訳だ。米国を含む世界中で、現在、国際組織犯罪対策が強化されている。その一環として、米国内でも非常に警戒を要する犯罪組織として山口組が指定されたということだろう。こうした世界的な流れとしては、このほかにも例えば、金融の領域では、疑わしい取り引きの届出をはじめとして、FATF(資金洗浄に関する金融活動作業部会)の勧告に従ったマネーロンダリング規制などがある。

――FATFでも、IFRSのように国際基準を世界各国に強いている…。

松坂 欧米における金融関係の規制は極めて厳しく、FATFからも日本の制度はまだまだだと指摘されている部分は多い。ただ、すべての金融機関に対して国際基準へのすり合わせを強いるのは、個人的には日本にとってかなり大変なことだと思う。国際基準を満たしていなければ外国との取り引きが出来なくなる危険性があるのであれば、日本でも、特に国際金融にかかわっている大手金融機関は従わざるを得ない。他方で、外国取り引きをしている訳でもなく、海外支店も持たないような地域の金融機関にしてみれば、なぜそこまで外国の規制に引きずられるのかという不満はあると思う。しかし、FATFの基準は金融機関である以上、一律に規制を求めている。

――日本では、暴力団排除条例により銀行口座の管理など金融機関へのコスト負担がかかりすぎるとの批判があるが…。

松坂 警察としては理解していただけるよう支援していきたい。ただ重要なのは、暴力団と取り引きするということは、暴力団の活動を助ける可能性が大きいということであり、法規制があるから取り引きをしないということではない。平成19年の犯罪対策閣僚会議では政府指針を打ち出し、あらゆる取り引きからの暴力団排除を各企業に求めている。もともと暴力団は排除しなくてはいけないものであり、これを企業の社会的責任とする必要があるということだ。金儲けを目的とする暴力団のターゲットにされた企業が、そのまま暴力団と取り引きを続けていれば、企業経営に食い込まれたり、従業員がターゲットになったり、結果、企業そのものの存立が危うくなる。社会的責任、そして企業の存立という意味で、暴力団排除にかかるコストは必要なものであり、その前提に立ったうえで、実際に拒絶を容易にするための法的なバックアップが、暴力団排除条例ということだ。つまり、暴力団排除条例により新たな規制が事業者にかかるということではなく、もともと企業としてあるべき取り組みを条例でバックアップすることで、より容易に暴力団などを拒絶することができるようになるということだ。

――暴力団排除に注力することに伴い、警察組織も肥大化していくのでは…。

松坂 決してそんなことはない。もちろん、色々な状況の中で警察組織として扱う仕事の幅が広がっており、たとえば昨年度であればサイバー犯罪対策と検視対策の強化のための人員が認められているが、暴力団排除のためということではない。そもそも、今、公務員を増やすということは容易なことではない。1億3000万人の日本国民のうち警察組織に携わる人数は約28万人。警察官1人当たりの受け持ち人口は505人ということだ。一方で、欧米諸国をみると受け持ち人口は300から400人程度。これでもだいぶ警察官の増員が進んできたところではあるが、単純に警察官1人当たりの受け持ち人口で比較してみれば、日本の警察組織は決して大きくはない。もちろんそれは、日本の治安がよく、国内での犯罪数が少ないから出来ることだ。

――例えば、日本国内で金融詐欺を行い、大儲けをして捕まったとしても、その詐欺罪の量刑は軽い。そのため、暴力団が金融取引に入り込んでくるという意見がある…。

松坂 確かに、日本における金融犯罪の処罰の程度は米国などに比べてかなり軽いのではないかと個人的には思う。それが、金融詐欺に手を染めようと考える人たちへの威嚇力になっていないということなのだろう。ただ、警察という立場から量刑について語ることは難しい。それは世の中が判断するべきものだからだ。

――暴力団対策法を強化すると同時に警察組織を強化しない結果、一般人が巻き添えになっているという意見もある…。

松坂 犯罪の続発を防止するには、事件を起こした張本人を検挙することが一番重要なのだが、それが出来ない事態が生じており、それに対して我々は率直に反省している。そこで、昨年の暮れから、暴力団に狙われている人の保護対策強化として民間版SPを付けて警戒するような取り組みも始めている。守るべき人をしっかり守りつつ、犯罪を起こしている暴力団は確実に検挙していかなくてはならないと考えている。(了)