国際的な租税回避行為に的確に対応

国際的な租税回避行為に的確に対応

国税庁長官
川北 力 氏



聞き手 編集局長 島田一

――国税庁長官に就任されてから、まもなく2年となられる…。

川北 税務行政をめぐる環境は厳しいものがありますが、納税者やその他関係者の皆様のご理解とご協力を得て、概ね着実に事務が運営されていることに感謝しています。海外の国税庁長官と話をするなかで、新興国の中には税収を最終的にいくら上げるかを税務行政の目標として意識されている長官もいますが、我が国の税務行政は、税制をきちんと執行していくことを第一としています。税務調査では、例えば国際的な取引や富裕層の資産などに重点課題を置いていますが、力点は税収を増やすということよりも、適正公平というところにあります。

――事務運営の基本的方針は…。

川北 納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現することが国税庁の使命とされています。その意味では、IT環境などの納税者サービスを充実させることを通じて納税者の申告・納税の利便性を向上させるということと、不正をきちんと把握して、的確に課税・徴収しようというエンフォースメントの2つが必要となります。その両方を法律に基づいて実施することが国税庁の事務運営の基本中の基本です。

――23年度は東日本大震災への対応が大きな課題となった…。

川北 振り返ると、この1年余りは東日本大震災に関する対応が、大きな仕事となりました。震災は3月11日でしたが、所得税・贈与税の確定申告の期限が3月15日ということもあり、我々にとっては非常に緊迫した場面で震災が発生しました。国税庁では緊急の対応として税務署への申告・納付等の期限を延長したほか、税務署の管轄を超え、避難所の最寄りの税務署でも、納税証明書の交付や還付金の支払いなど税務に関する相談に対応しました。また、23年分の確定申告においては、被害の大きかった地域の税務署では、例年を大幅に上回る方が来署されることが想定されたので、全国から国税職員を応援派遣したほか、仙台国税局管内の電話相談を大阪に設けたサテライト・オフィスで対応するなどの体制整備を行いました。

――国税庁として新年度に取り組む課題とは…。

川北 23年度の税制改正で税務手続に関する基本的な法律である国税通則法が大きく改正されました。具体的に言えば、税務調査を行う際には原則として事前通知をする、すべての不利益処分について理由を附記するなど、我々が今まで行ってきたことの延長線ではあるものの、手続きが法定化されました。調査手続の透明性や納税者にとっての予見可能性を向上させることが改正の趣旨です。施行されるのは25年1月からとなります。我々としては、これをきちんと施行できるように準備をしなければなりません。今は通達の策定や税務調査を担当する職員に対する研修などに取り組んでいます。

――企業活動のグローバル化が進んでいるが…。

川北 経済社会が非常に国際化しているなか、国税庁の仕事でも外国との関係が重要になっています。私もマルチやバイの国税庁長官レベルの会議に出席し、各国で協力して国際化時代における税務行政を追求しています。国際的な動きとしては、もともとOECDやその他いろいろな国際会議の場で税務の協力を結んできていますが、リーマン・ショックの際に不透明な資金の動きが経済全体に大きな影響を及ぼしたことを受け、それ以降、不透明かつ国際的な資金移動について、政府全体や税務当局としてきちんと監視しようということがG20のコミュニケでも言及されるなど、ハイレベルな合意となりました。また、各国と租税条約を結び、情報交換を通じて不透明な取引を透明化していこうとする取り組みは大変熱心になっています。国税庁でも租税条約に基づく情報交換ネットワークを最大限に活用した深度ある調査を実施しています。少し前まで国税庁は外国に手を出しにくいという通念が持たれていたかもしれませんが、今やその通念は過去のものになりつつあります。

――国際的な租税回避行為に対する取り組みは…

川北 国際的な租税回避行為についてスキームの研究や情報交換を行うJITSIC(国際タックスシェルター情報センター)という機関がロンドンとワシントンDCにあり、日本からも職員を派遣しています。加えて、24年度の税制改正では国外財産調書制度が創設され、合計5000万円を超える国外財産を保有する居住者については調書を提出してもらうこととなりました。申告漏れがあった場合、調書を提出していれば加算税を5%減額する、逆に提出しなかったり、記載に誤りがあったりすれば加算税を5%加算するといった、自発的な提案を促す仕組みが取り入れられています。国外財産調書制度の創設は大変重要な制度改正であり、これで海外資産の状況を捕捉することができるので、こうした制度改正を通じて、国際的な租税回避行為に、より的確に対応するよう努めているところです。

――自発的な納税を促すことは重要だ…

川北 税務調査を通じて不正を正すというやり方ももちろん大事ですが、そもそも、税務行政の目標は、社会全体の納税コンプライアンスの向上にあると思います。特に国際的かつ大規模に経済活動を行っている大企業には、自らコンプライアンス態勢を上げてもらい、きちんと申告してもらうことが重要です。国税庁では、大企業のトップマネジメントの人たちに、法令遵守のためのコーポレートガナバンスの仕組みのなかで、税制についても意識してほしいということで、説明を行っています。これは日本だけではなく世界的な取り組みでもあって、国際的な大企業にコーポレートガバナンスできちんと対応してもらうことが大事だという議論が、国際的な税務当局の共通認識になっています。OECDの多国籍企業行動指針にも、きちんとコーポレートガバナンスを通じて納税しましょうという条項が昨年5月に入りました。日本の大企業は根本的にはコンプライアンス意識が高いほか、税務の問題が生じたとなれば企業のレピュテーションのリスクにもなるため、トップマネジメントの方々にも基本的な考え方は理解して頂いていると思います。また、グローバルに事業を展開している大企業は、移転価格課税が大きな問題になることがありますので、関係団体の会合等での説明や個別アプローチを通じて、企業が自ら移転価格上の税務コンプライアンスの維持・向上を図っていくことについても働きかけていくこととしております。

――税制を簡素にするなど、より納税を行いやすい環境を整えるべきとの意見もある…。

川北 「公平・中立・簡素」という租税原則があります。税制がシンプルであればそれだけ納税者も理解しやすく、また、我々もシンプルに仕事ができるので、それはいいことではあります。税務行政運営においては、非常に大勢の納税者と接触するなかで、サービスの提供の仕方として、処理を統一的にやるというニーズと、個々の事情を把握するというニーズの両方が存在します。そこで、統一性の中における個別性をどの程度配慮するか、あるいは配慮しないかということが非常に難しい問題となります。統一性を過度に重視すれば、それは不親切ということだったりする一方で、統一性を軽視してしまうと公平でなくなり、また、全体としてスピーディーにできなくなります。ここが税務行政の難しいところです。結局のところ、最近の納税者サービスでいえば、究極はIT環境をどう整えるかということにあります。なるべく分かりやすいIT環境を提供することで、全体として便利になるし、簡素になるし、効率も上がります。国税庁ホームページ「確定申告書等作成コーナー」のシステム改善などを行った結果、23年度のe−Taxのオンライン利用率は所得税・法人税などの重点15手続全体で52.7%まで上昇しました。23年8月にIT戦略本部で決定された「新たなオンライン利用に関する計画」を踏まえ、国税庁では「業務プロセス改革計画」を策定し、今後、財務省において決定・公表される予定となっています。この計画では、オンライン利用率だけでなく、納税者の利便性の向上や事務の効率化に関する成果指標を新たに設定する予定です。国税庁では、今後とも、e−Taxの一層の普及及び定着を図るとともに、引き続き、納税者の利便性の向上及び事務の効率化にも努めてまいりますので、ご理解とご協力をお願いします。(了)