共通番号制、ソフトはこれから

共通番号制、ソフトはこれから

ジャパン・タックス・インスティチュート所長
中央大学法科大学院 教授
森信 茂樹 氏



聞き手 編集局長 島田一

――納税者番号制度について…。

森信 政府は、社会保障を軸にした共通番号制定の法案を今秋以降に提出し、平成27年1月から導入するとしているが、私も番号の研究・提言を数年前からしている。番号制度については、これまでグリーンカード・納税者番号と社会保障番号という2つの場面で議論が続けられていたが、今回の法案の大きなきっかけとなったのは麻生政権時代の定額給付金だった。当時、給付金を高額所得者に配るのはおかしいという意見があり、そこで給付金付き税額控除というアイデアが出た。しかし、結局それを実行するのは難しく全員に給付された訳だが、その時に自民党内には「番号」というツールが必要という認識が芽生えた。その後、政権交代した民主党も、社会保険給付のために国民の正確な所得を把握するには共通番号が必要だと考えている。さらに、日本のIT技術がこれだけ発達している中で、IT国家として番号を活用することで行政の効率を高める必要があるという議論もある。

――国民にとっての一番の心配事は、プライバシーの問題だ…。

森信 私はプライバシーの専門家ではないため詳しいことはわからない。プライバシーについては、国民側に漠然とした不安感はあるとしても、具体的に番号をどのように活用されるとどのような問題が生じるのか、はっきりしていない。具体的な議論をすべきだろう。また税においては、プライバシーは極めて限定される場面が多いので、簡単にプライバシーだから、とはならない。米国のように、番号を使ってクレジット会社が支払いの滞っている人達の情報を集めてひそかに高く売るというようなケースは十分に考えられ、その対策は必要だ。もっと詰めた議論が必要だ。いずれにしても、プライバシーには第三者委員会を作りそこで不正行為を監視していくことが法律で定められている。それを前提に番号制度が導入されるということだ。わたしは、むしろこれを機会に、プライバシーとは何かという基本法を作ればよいと考えている。

――共通番号をどのように利用するのか…。

森信 共通番号制定とは、番号というハードウェアを入れるための法律であり、その番号を税制や社会保障にどう利用していくかというソフトの部分はこれからだ。私なりの番号の活用法については、先日発行した著書(※)にも記しているが、今後、政府は社会保障の中で、給付金付き税額制度や低所得者向けの医療・介護費用の上限制度を制定する予定だ。給付付き税額控除は、私が年来主張してきた制度で、消費税率引き上げの逆進性対策として導入される予定だが、それには番号が必要だ。また番号導入後には、マイナンバーというポータルが個人ごとにできて、その中にいくら所得をもらっていくら源泉徴収されたか、医療費をいくら払ったかというような情報が入ることになっている。税務当局が持っている情報を活用して、「事前記入式申告方式(Pre Populated Tax Return System)」の導入が可能となる、これは、事前に情報を国税当局が納税者の申告書に記入して、納税者はそれをチェックして申告するというもので、欧州諸国で普及している。また、平成24年度税制改正では、例えば、夜間のロースクールや会計大学院に通う費用、また、雑誌などの購読料も必要と認められれば経費になるという動きになっている。個人の交際費も、会社都合であれば経費として認められる。こういった流れにe―Tax(国税電子申告・納税システム)を組み込ませれば、3月15日の確定申告最終日に税務署が混雑することなく、個人が自らの税額を申告により確定するという自主申告制度の導入が可能になる。そうなれば、自分が確定して払った税の額をきちんと認識することになり、政治に対する意識も高まり、行政の無駄に対してもきちんと声を上げるようになるだろう。これこそ民主主義の第一歩だ。

――共通番号を導入することによって、金融機関への影響は…。

森信 現段階では銀行に共通番号は導入されないということになっているため、銀行側はその対応をそれほど真剣に考えていないようだ。膨大な顧客の口座に遡って番号をつけるのは大変な作業であり、莫大なコストもかかる。国から義務付けられない限り率先して動くことはないだろう。しかし、銀行と全く関係のない納税者番号制度など意味が無い。源泉分離課税を申告分離課税に変更するといった対応は、金融一体課税という観点からも、利子所得と株式譲渡損失の相殺といった局面で必要となる議論である。銀行は共通番号を時代の流れとして受け入れ、受け入れるのであれば出来るだけ使い勝手の良いシステムになるように積極的に制度構築に参加・提言するという発想に変えたほうが良いのではないか。その際には、システム導入の作業負担を少しでも減らせるように、いろいろな銀行関連の法律で義務付けられている分野についての民間利用を認めてほしいということを、銀行も主張できるようになる。少なくとも、本人確認や犯罪収益移転防止法など金融機関が法律で義務づけられている情報については番号の活用を認めてほしいというようなことだ。そういった議論が年末にかけて起きてくるのだろうか。

――日本の銀行が大口預金者の情報を開示して利用するようになれば、お金持ちは海外の銀行へと逃げていくのではないか…。

森信 もともと源泉徴収などの情報は義務として税務署に伝わるようになっている。外国に資金を移動すれば、税負担から逃れられるというのは、脱税の発想だ。今やわが国は先進国だけでなく、タックスヘブンとも情報交換協定を結んでいて、我が国の課税当局にさまざまな情報が入ってくる仕組みになっている。また、海外の資産を税務署に報告することの義務付けも法律が通っている。問題は、番号を使って新たにどのような情報をとるのかという点で、年末にかけて議論が起きるかもしれない。個人の預金残高情報まで税務署に番号付きで流れていくようにするという発想は、行き過ぎであろう。おのずから民主主義国家としての節度が必要となる。

――身分証の代わりとなる共通番号。例えば、そのカードを色分けして納税額に応じた信用力をつければ、頑張って稼いで多額の税金を納めた人たちは、その証となるカードの発行料を自ら払ってでも手に入れたがるに違いない…。

森信 今のところ、国が写真付のカードを国民全員に配ることは費用面などからも難しく、申請者だけに配るということになるようだ。しかし、そうすると、例えば運転免許証をもっていない人が身分証代わりにカードの発行を申し出ることはあっても、その他で自ら申請するような人は少ないだろう。それを、例えば「1億円納税した人はプラチナカードにする」というようにすれば、それを持ちたいために頑張って稼いできちんと納税しようという人が出て、カード作成費用も自ら負担しましょうということになるかもしれない。それは良いアイデアかもしれないですね(笑)。(了)

※ マイナンバー〜社会保障・税番号制度課題と展望〜(金融財政事情研究会)
著/森信茂樹、河本敏夫