証券会社の減少傾向を憂慮

証券会社の減少傾向を憂慮

日本証券業協会
副会長
増井 喜一郎 氏



聞き手 編集局長 島田一

――外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)についての議論が進んでいる…。

増井 米国議会は、米国の富裕層が外国に資産を移して租税を回避する動きを規制するため、2010年にFATCAの枠組みを作った。その狙いは米国人が外国の金融機関に開設した口座の情報を得ることで、それに協力しない金融機関にはペナルティを課すという厳しい枠組みだ。確かに日本にも同様の問題があり、租税回避行為への対応策は必要だと考えているが、現段階のFATCAの枠組みがそのまま適用されれば、非協力的な顧客に30%の源泉徴収をかけたり、酷い場合は口座を閉鎖するなどが盛り込まれており、少々乱暴だとアメリカ以外の多くの国が感じている。そもそも日本に米国人の口座はそれほど多くなく、さらに日本には日本の制度がある中で、その証券会社が米国の法律に従って口座を閉鎖することは出来ない。日本だけでなく、世界各国の制度と整合的かどうかも問題だ。また、例えば、日本の金融機関に口座を開いている日本人が米国に出張で数年間を過ごす場合、その情報も米国に提供する必要があるのか。そもそもその人は日本の居住者なのか米国の居住者なのか、そういった事まで調べて情報提供するには大変な手間がかかる。それは本来のFATCAの目的とは違い、米国の税務当局にしても、富裕層で租税回避を企てる人達以外まで巻き込んですべての情報を提供させるような枠組みは必要ないはずだ。もっと、リスクベースでのアプローチが重要ではないかと考えている。

――各金融機関が米国に情報提供するための新システム構築には、多額のコストもかかる…。

増井 我々としても米国に対して出来る限りの協力はしたいが、それにはもっと手続きを簡素化して、コストを抑える必要がある。また、日本で国籍の情報は特にセンシティブに扱われているため、その辺りが米国の情報管理の状況と違う。このように、各国それぞれに存在する文化の違いを無視して米国流のやり方を他の国に押し付けられると、実務上、大変な制度になってしまう。我々を含む日本の各金融団体はIRS(米国内国歳入庁)に対して、こういった実務的な問題についてきちんと考慮してほしいと働きかけをしており、このため、最初の案に比べれば相当改善されてきているが、まだまだ懸念する部分は多い。この点、政府間での情報交換の仕組みを構築する米国と欧州5カ国との共同声明のアプローチとは異なるが、6月21日に公表された日米の政府間協力の枠組みは、日本の金融機関が懸念していた源泉徴収や口座閉鎖といったことが回避されることになることから評価している。日本政府には、金融機関の実務的な負担を一層軽減する方向で引き続き協議を進めてもらいたいし、我々業界としてもそのための協力は惜しまない。

――ボルカールールにしても、最近の米国は自国以外のところにまで影響を及ぼしている例が目立つ…。

増井 米国が言っていることが間違っているという訳ではないが、グローバルな問題は各国が集まって議論して制度を決め、それぞれの国で法的な整備を行う方が上手くいくのではないか。今回の枠組みでは、例えば日本の証券会社が100億円の資産を保有し、その内の30億円が米国資産で運用されているのであれば、米国側はその30億円に相当する部分を米国由来として源泉徴収をかけるという話だ。本来米国源泉所得とは全く関係ないはずの株主への配当が米国に源泉徴収されてしまうのであれば、株主は離れ、その証券会社の株は下がってしまう。何より、そういうことになると米国資産で運用する人間はいなくなるだろう。このように、国際的な金融市場にまで混乱を及ぼす可能性が大きい。

――一方、わが国では証券会社によるインサイダー情報の提供が大きな問題になっている…。

増井 協会はこれまで証券市場の信頼を得るために色々なことを行ってきたが、このところ証券会社だけでなく、その周辺でもインサイダー事件が多い。これは忌々しき問題だ。まずは事実関係をきちんと解明した上で、我々としても出来る限りのことに取り組んでいくが、こういった事件で共通しているのは証券会社の役員や担当職員の倫理観の問題だ。即効薬ではないかもしれないが、倫理観を高めていく地道な活動が大事であり、そうすることで無駄な規制も必要なくなるのではないか。

――証券会社は色々な規則や規制に対応するために多大なコストがかかり、経営が苦しいという声を聞く…。

増井 我々の協会員数も一時期の約320社から40社以上減少し、現在は約280社となった。原因の一つに、中小や地場の証券会社の経営が苦しくなっていることが挙げられる。システムコストやコンプライアンスコストがじわじわと上がり、その一方でマーケットも不況で、中小・地場の証券会社が得意としていた分野が少なくなってきたという現状がある。地場証券会社は地域に密着した営業でその地域のニーズを熟慮しているため、地域金融システムの円滑化という観点から大事な役割を果たしている。今後もその役割が期待されているのだが、そういう会社がなくなっていくことは日本全体の金融システムにとって決して好ましいことではないと私は憂慮している。

――具体的な改善策は…。

増井 コンプライアンスなどのコストが、会社にとって負担にならないような形での規制が求められている。同時に、取引手数料などが下がっていく中で企業が収入の部分を改善する策としては、新しいビジネスや新規顧客の開拓を考える必要があるだろう。我々の役割は環境をきちんと整備することであり、この点において、最近は「グリーンシート銘柄制度の検討に係る懇談会」を開き、新興市場の在り方について議論しているところだ。現在のグリーンシート市場は活発とは言えないが、非上場の優良企業の株へのニーズはあると思う。例えば地方に行くと、上場していなくても誰もが知っている名門企業があり、そういった企業の株を買いたいと考える人は多い。特に鉄道やバスの会社であれば株主優待券に魅力を感じている人もいる。今は適時開示の問題で売買しなくなったが、昔はそのような株は地域証券会社で売買していたものだ。そういった市場を復活させたり、その他にも地方の証券会社が出来ることがある。この辺りについては6月19日に報告書がとりまとめられている。また、社債についても個人向け社債発行市場の環境を整備するなど、新しい分野の仕組みを整えることで色々な形での証券市場の機能強化を図っていきたい。

――最後に、税制改正についての考えは…。

増井 今の株式市場の状況の中では軽減税率を継続すべきだという声が多い。業界全体の要望は、他の取引所や投信協会と一緒に進めて、とりまとめ、6月20日に公表した。まず、個人投資家による金融資本市場への参加及び資産形成の促進等の観点から、上場株式等の譲渡益及び配当金等の軽減税率の維持、日本版ISAの拡充・簡素化、並びに上場株式等の譲渡損失の繰越控除期間の延長などだ。また、金融商品間の別なく公平・中立に取り扱う金融所得課税の一体化を推進することや、さらには、我が国の今後の社会構造の変化を見据え、確定拠出年金制度の拡充並びに中長期的な教育資金形成を目的とした金融商品に係る優遇制度の創設など、少子高齢化社会における国民の資産形成をサポートするための措置の検討などについて要望している。(了)