市場の恐さを理解できる人の時代に

市場の恐さを理解できる人の時代に

DIAMアセットマネジメント
代表取締役社長
中島 敬雄 氏



聞き手 編集局長 島田一

――市場はユーロ危機一色だ…。

中島 ユーロの問題については6月末のEU首脳会議がメインイベントだった。ギリシャ選挙でもG20でもない。この会議で、メルケル独首相がかなり踏み込んだ形でコミットメントを出したのでしばらく落ち着くかも知れないが、依然として今後の道のりは険しい。市場では、スペインの銀行に10兆円の資金注入を発表した際や、ギリシャの選挙結果が出た時など、その時々のイベントに対して一瞬は反応するものの、それも一日や半日程度しかもたず、事態はより厳しくなっている。今後、例えばECBによる更なる金融緩和、3年物資金供給オペ(LTRO)の第3弾を行うといったアクションはあり得るが、同時にもっと根本的な解決策として、財政一体改革の道筋を示すことが周囲の支持を得るためには必要だ。その一歩として急遽検討され始めているのが「バンクユニオン」であり、例えば預金保険を一つにまとめるなど、時間がかかっても前向きなプロセスが見えてくれば多少は安心出来る。こうした積み重ねが、ゆくゆくは「フィスカル・ユニオン」として結実できるかにかかっている。ユーロを作った以上、欧州全体を一つの制度の中でコントロールしていくことは当然のことであり、今回の危機でようやくその兆しが出てきたということだ。

――中国についての懸念も台頭してきている…。

中島 先日、中国マクロ経済学会の重鎮である王建氏の議論が新聞に紹介されたが、中国経済は07年から既に下降局面に入っているとのことだ。やはり永年の投資主導型経済の高成長の帰結として「需要の生産能力化」のピッチが早まり、足元では相当な需給ギャップ(アウトプットギャップ)が生じているのではなかろうか。アーバニゼーション(都市化)も必ずしも計画通りに進んでいるわけではなく、日本が高度成長期に見事に実現した第一次産業から第二次・第三次産業への余剰労働力のシフトが実は順調に進んでいないのではないか。つまり中国経済の低迷は欧州問題によるものではなく、中国固有の問題によるものだろう。それがオーストラリアやブラジルの一次産品に影響し、ひいては世界のコモディティ価格の下落につながっていくリスクがある。これまで世界各国は、中国の需要が莫大だと見越して様々な種を蒔いてきたが、実はそうでもないと考えるようになれば、潮が引くように流れは逆になろう。中国は日本と違い、国債発行余力も金利を下げる余地もまだ沢山あるため、様々な手を打ってくるだろう。しかし短期的にはリバウンドもあろうが、そう簡単に中国経済が上向くことはむずかしかろう。

――世界経済全体がなかなか上向かないが、その中で米国と日本は相対的に明るい兆しを見せている…。

中島 米国は、シェールガスやシェールオイルなど新たなエネルギーの発掘を進め、既に”ゲームチェンジ”の声もささやかれ始めた。ここにきて、やはり米国強しということが明らかになってきた。やはり米国経済は懐が深い。一方で、欧州や新興国は色々な意味で脆弱性が出てきてしまった。その点、日本経済も米国同様に懐が深く、様々な変化、ショックを吸収しうる力がある。米国に相伴して日本が復活してくるというシナリオも大いにあり得る。そう考えると、今後、世界のマネーフローは欧州や新興国から米国に移り、ドル高、円高、ユーロ安、新興国安という流れが更に強まるのではないか。基軸通貨国というのは絶対的な権益をもっている。これまで米国は、一方的なドル安という流れの中で輸出をうまく使って経済を回復させてきたが、次はドル高のほうが米国の国益になると考えれば、今度は速やかにギアを切り替えるだろう。

――2012年の国際競争力ランキングで日本は27位とかなり落ち目だが、今なお円高で、外国からみると円は安心通貨と思われているようだ…。

中島 日本が経常黒字をバックに積み立てた対外純資産は世界第一位だ。中国の1.7倍あり、それが崩れている訳ではない。日本をそこまでネガティブに見る必要は無かろう。日本人は「絶対レベル」で物事を考える人が多いが、そういう感覚で議論をすると間違える。マーケットは「相対感覚」で決まるものであり、日本が落ち目だといっても、それ以上に低迷している国が出てくれば、相対的に勝ってしまうというのが通貨のゲーム。今は安全が一番で、そうなると、資金は米国債や日本国債にシフトせざるを得ない。そういう局面は今暫く続くだろう。

――円高・株安で、運用業を行う立場としては厳しい状況にあるのではないか…。

中島 先日ペンション&インベストメント誌から世界の資産運用会社の投資顧問ランキングが発表され、我々は世界58位にランクインした。日本の運用会社の中で一位となった。確かに現在の環境は厳しいもので、このランキング262社中に、今回日本は4社のみのランクインとなった。実際に我々のところには日本の大手企業年金や公的年金などに加え海外からの運用依頼も増え始めた。着実な運用の積み重ねが信頼につながっているのだと思う。もちろん、円高や株安というような状況でのリスクコントロールは重要で、こうしたリスクマネジメント商品へのニーズが大きい。特に大きな年金ほど円高対策はセンシティブだ。円高に対応し、従業員の年金を守るためのプロダクトを提供することは、資産運用会社にとっての重要な課題だと考えている。

――円高対策のリスクヘッジは一般的に行われていると思うが、何か違いがあるのか…。

中島 いわゆるダイナミックヘッジという手法だが、我々の商品はその中でも、なかなか使い勝手が良いという評価をいただいている。この手法は株安のヘッジにも利用できたり、例えば今後日本の金利が上がるという心配がある場合にも活用できる。当社は洗練されたリスクマネジメント手法の提供を武器にしている。今後、ますます企業・年金を取り巻く環境は不透明・不確実なものになっていくが、そんな中で改めて感じることは、どの業種であれ、どの会社であれ、この市場化が進んだ環境の中で、市場に鍛えられ、市場の恐さをきちんと理解して経営しているかどうかが非常に重要だということだ。マーケットにいたぶられてしまってはいけない。市場は決して単なる売り買いの場ではない。

――しかし、日本の大企業はマーケットを見ずに社内政治ばかりを行っているところもある…。

中島 それは十年以上前の日本の姿であり、今でもそういう残滓があるかもしれない。また、中国も今後、元が自由化されて、全体が市場化されていくというプロセスを経て、初めて良質な企業が生き残っていく。中国がそこまで行くにはまだ相当の時間がかかるだろう。もはやBRICsという言葉に飛びついていた時代は終わり、これからは懐の深さを、つまり諸々のストックの厚みを確認していくフェーズに入っていく。その比較感で見れば、やはり米国はトップに君臨し、我々日本も相当高いレベルに位置している。しかし、日本がここから更に一皮むけるかどうかという大事なこの時期に、もっとマーケットの恐さを肌身で感じている人達が経営する時代が求められている。(了)