ミャンマーの潜在成長力をさらに顕在化

ミャンマーの潜在成長力をさらに顕在化

日本アセアンセンター
事務総長
大西 克邦 氏



聞き手 編集局長 島田一

――日本アセアンセンターでもミャンマーへの取り組みが盛んになっている…。

大西 昨年6月に東京で行ったミャンマーセミナーが大成功し、ミャンマー側より「是非、企業ミッションを送って欲しい」という要望をいただいた。そこで同年9月に企業視察団を送り、婦人服や手袋の縫製企業などが投資を行うことを決めた。また、このミッションがきっかけとなり、ヤンゴン都市開発協議会とミャンマーの企業が、日本の上下水道やプラスチックリサイクルなど環境技術を視察するために来日した。ミャンマーでは、ゴミ収集車が不足していることもあり、ある日本企業がゴミ収集の中古車数台をミャンマーへ寄贈するということも実現した。さらに、前駐日大使で現ヤンゴン市長のラーミン市長の「ヤンゴンをより綺麗な街として発展させたい」という要望に応え、プラスチックリサイクルの専門家をミャンマーへ派遣した。今年は、6月に行った東京、名古屋での日本企業を対象とした投資セミナーに続けて、8月にはミャンマーの豊かな農産物加工とインフラをテーマにした投資環境視察ミッションを派遣する準備を進めている。

――ミャンマーは経済的にみてアセアン最後のフロンティアといえる…。

大西 ミャンマーの人口は約6000万人。ベンガル湾に面し、中国、バングラデシュ、タイ、ラオスと国境を接しているため、地政学的にきわめて重要な国といえる。さらに、肥沃な農地が豊富にあり、米や野菜、様々な種類の豆、コンニャクイモやにんにく、カシューナッツなどの生産は世界の生産ベスト10に入るほどの農業大国だ。これから期待されるのはコーヒーで、ミャンマーには大変良質のコーヒーが出来る。しかし、ブランドが無いため、一旦ベトナムへ輸出して、そこでブランディングしている。こういったところはもっと違うやり方があると考えている。また、これは先月末の日本での投資セミナーでミャンマーの大統領経済顧問も言っていたことだが、例えミャンマーが毎年7〜8%の経済成長を続けても、他のアセアン諸国に追いつくには10〜15年はかかるだろう。投資についても、その辺りを十分認識した上で行うべきだ。現在、多数の日本企業がミャンマーを視察に訪れているが、インフラなどの投資環境の整備はこれからという現況を鑑みれば、急速な変化に若干の不安を感じる。ただ、政治の不安定さについては、国際社会、アセアン域内社会の一員として現在、懸命な努力を続けており、あまり心配をする必要は無いようだ。2015年の総選挙で公正な選挙が行われればスーチー女史率いるNLDが政権を担うという可能性もあり、現在のミャンマーの民主化、自由化の勢いが止まったり、昔のような軍事政権に戻ったりするようなことは考えににくい。

――確かにミャンマーの潜在能力はすばらしい…。

大西 南北回廊、東西回廊、南部回廊というアセアンの3つの経済回廊の西の玄関口がミャンマーだ。また、ヤンゴン郊外のティラワ港、西の玄関口ダウェイ港、西海岸ベンガル湾に面するチャウピュー港の3つの港が開発されて、インド、バングラデシュ、さらに中東を通ってEUへとサプライチェーンがさらに伸びれば、ミャンマーを更なる経済発展へと導くだろう。ヤンゴンに最も近いティラワ経済特区の開発については、日本の官民で最も力を入れているところだ。また、ミャンマーは、労働人口の70%、GDPの43%を占める農業大国であり、農業の生産性を上げることが国全体の安定的な成長に欠かせない。日本アセアンセンターでは、日本の強みである品質管理、安全基準面での食品産業支援として、2009年より、JETRO、JICA、日本大使館と協力し、食品分析機関(FIDSL)の設立支援を行い、今年1月から始動している。ODA再開などにより、ハード・ソフトと様々なインフラ整備が進めば、ミャンマーの食品に対する安全性もさらに高まり、国際競争力も強化されることになるだろう。

――インフラ整備も日本の支援が必要だ…。

大西 鉄道では、新幹線の前に、まずは列車から直す必要がある。列車は現地の人達にとって大切な交通手段であるが、線路や列車の整備などで、自動車を使うよりはるかに時間がかかるといわれている。この前ネピドーを訪れたが、毎週金曜日の夕方と日曜の夕方は、首都ネピドーとヤンゴンを結ぶ鉄道はネピドーで勤務する官僚たちにとって欠かせない足となっているようだ。また、パガンなどの有名な観光地に行くには、ヤンゴンから4〜5時間かかるため、最近急増している日本の観光客にとっても公共交通機関をもっと充実させる必要がある。日本からの観光に加え、貿易、投資は、ミャンマーが大いに期待しているところであろう。特に投資では、中国や韓国の場合、資源、エネルギー、サービス産業への投資は多いが、製造業の投資に関してはあまり力を入れていない。だからこそ日本企業は製造業への投資に中心をおくべきで、人材の育成による技術移転や企業の労務管理を整えていけば、ミャンマー国内に優秀な人材が育っていくことになる。そういった製造業への投資は、日本が得意とするところだ。

――ミャンマーは日本に大きな期待をしている…。

大西 アセアン・プラス・ワンの逆の発想から、ミャンマーは中国などの一カ国に偏ることなく、様々な国から投資を呼び込みたいという意向が強く、その一つとして日本の投資に期待するところが大である。また、現在は中国における人件費の高騰から、ベトナム等へ移転する日本企業も多いが、そのベトナムも徐々に賃金水準が上がっており、ミャンマーとしてはベトナムから労働集約型の産業を引き寄せたいという考えもある。少し前までのミャンマーでは、関税などにより日本の中古車が高額な値段で販売され、さらに車の輸入も一部のみが独占してきたこともあったが、今では関税も約65%など、きちんとした仕組みが整えられつつあり、徐々に改善してきている。日本アセアンセンターとしてもミャンマーの持つ潜在成長力をさらに顕在化させるためのお手伝いをしたいと考えている。

――今後、アセアンで力を入れていくところは…。

大西 毎年センターではアセアン10カ国が参加する食品・飲料展示会が行われているが、その中で圧倒的に売上げが多い国は、毎年ベトナムとミャンマーだ。これも当センターが以前から、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の生産性向上と競争力強化に力を入れてきた努力が実を結んだともいえるが、CLMV強化の方針は変わらない。一方で気をつけていることは、アセアンはあくまでも一つということだ。CLMVに対する色々なプログラムにしても、他の6カ国が保有する技術、経験、英知を、出来るだけCLMVと共有することで成果が上がると考えている。先進6カ国の中には高い発展レベルに達した国もあり、後発4カ国とは差別化された活動を提供する時期に来ている。さりとてセンターを不要という国は一国たりともないし、日本とアセアンのパートナーシップの具現化としての活動を大いに評価している。「一つの理念、一つのアイデンティティ、一つの共同体」というアセアンの基本的な精神の下、アセアンは一つであるということを念頭に入れてこれからの活動を続けていきたい。その大きな目標を実現する到達点が2015年の共同体設立であると考えている。

――予算は厳しいようだが、日本のアセアンに対するスタンスは…。

大西 アセアン全体のGDPは2000年までは日本の12〜13%程度であったが、06年には約25%に、そして昨年は34.5%まで拡大しており、確実に勢いを増してきている。日本とアセアンの関係が垂直型から次第に水平型に近づいている証左と言える。アセアンの中には「アセアンが日本を必要としている以上に、日本がアセアンを必要としている」という意見もある。日本としては、少子化高齢化で国内市場の展望が見られない今日、アセアンへの積極的なビジネス展開を進めるべきであろう。人口約6億5000万人、しかも大変若い人口構成になっている。これからの国アセアンを、日本がまだ一目おかれている今の状態のうちに、もっと大事にして、協力関係を進めていかなくてはならない。それが日本の国益につながることには疑う余地がない。(了)