常により良い決済ツールを提供

常により良い決済ツールを提供

証券保管振替機構
代表取締役社長
加藤 治彦 氏



聞き手 編集局長 島田一

――証券保管振替機構は日本の証券決済の要だ…。

加藤 証券にも色々種類があるが、既にご承知の通り、我々は株、社債、投資信託の証券など、国債以外の全ての証券を決済している。決済には安全性と合理性が不可欠であり、そのために、日々、技術革新による進化が求められている。当機構でも、受け渡しと支払いを相互に条件付けて行うDVP決済制度を整備し、日銀とのネットワークでDVP決済を行うことで安全性を確実なものとし、最初の売買情報から受け渡しまでのすべての過程を一切人の手を使わずにコンピューター上で処理するSTP化することで合理化に努めてきた。すべての取引がDVP決済になっているわけではないが、出来る限り決済をDVP化、STP化していくことが、最終的には安全性にもつながっていく。

――決済分野においても技術革新が進んでいる…。

加藤 国によって状況は違うが、日本はこの10年程度でトップレベルにまで来ている。そもそも券面をすべて電子化することは非常に難しく、例えば米国などではディズニーランドの株券を子どもの誕生日プレゼントにするというようなニーズがあり、外国では100%電子化は出来ていない国も多いが、日本では完全に電子化した。少しでも券面があるとそのための事務作業が必要となるため、日本はその点で非常に進んでいると言えよう。また、DVP決済制度については日本以外の国でも扱っているが、日本の技術レベルは最先端にある。例えば貸株取引に伴う証券や資金の決済はDVP化が行われているが、それも2014年にはシステム化出来るように作業を進めている。このように、まだ完璧に仕上がっていない部分を100%にしていくような作業を現在行っているところだ。

――その他、改善すべきところは…。

加藤 日本国内での決済の問題はほぼ片付いている。グローバルな観点から言えば、決済時の情報伝送ツールとして主に使われているスイフト(SWIFT)のメッセージフォーマットとしてISO20022が採用されるが、当機構でもこれを使用することを決定している。このように、常により良いツールを提供することで、金融市場の発展に努めていきたい。また、決済期間にも各国それぞれの流れがあり、例えば、欧州は株式がT+2に統一されつつあるが、日本では現在国債がT+2、他の証券は多くがT+3だ。日本国債に関してはT+1に向けた取り組みへの検討が始まっているが、特に日本では外国からの株式投資も多く、時差による影響を考えると、決済期間の短縮だけで良いのかという議論もある。世界の潮流が決済期間の短縮という流れにある中で、日本もその方向に向かえば、我々は、それにきちんと対応していく責任があると感じている。グローバルな競争に晒される中で、日本の決済機関が国際的に不十分とみなされれば、日本の金融市場全体の魅力が落ちてしまう。また、日本から外国に投資する場合も、決済機構が不安であれば市場は活性化しないだろう。そのため、我々のような機関は出来るだけ国際基準に合わせる必要がある。

――金融インフラ機関に対する規制も強化する動きがある…。

加藤 国際決済銀行・支払決済システム委員会(BIS/CPSS)や証券監督者国際機構(IOSCO)など国際的監督機関からは、決済機関についても、例えば流動性や自己資本など、金融インフラ機関が健全であるための一定の水準を確保することが求められている。我々は、金融市場全体の動きの中でこの機関の位置づけや性格的なものを考慮しつつ、求められていることにきちんと応えていくつもりだ。この仕事は営業をしたから売上げが増えるというものではない。しかし、この機能が止まれば市場が崩壊してしまう。日々の業務をいかに安全に滞りなく運営していくかが一番重要だ。皆で支えあっていく市場の一員として、マーケット全体が発展するために足りないことがあれば、それに速やかに取り組んでいく。

――海外の決済機関には銀行業務を行っているところもあるが…。

加藤 そうした方が便利だという意見もあるが、実際に私がここに来てからユーザーの方たちからそういった声は聞いていない。もともと銀行から発展したCSDであれば話は別だが、当機構の設立経緯はそれとは全く違い、金融機関・日銀のネットワークとの両輪で決済が成り立っている。その役割分担を乱してまで我々が銀行業務に手を出す必要はない。そもそも、この機構は法律によって規制されており、金融庁の認可が得られれば業務拡大も可能だが、それはあくまでも本業をきちんと行った上の話だ。証券決済業務にプラスになることを行うことが大前提であり、それが海外投資家を日本に取り込むためであれば積極的に取り組む。他方、その際にはコスト負担をどのように考えるかということも慎重に考えなくてはならない。収支相償を前提としている当機構では、過剰な利益を出すことも損失を出すことも避けなければならないため、多大な設備投資をする前にはユーザーを含めて皆で相当の議論が必要だ。会社だけの見込みで突き進むことはない。基本的には、当機構の株主はユーザーである金融機関であり、彼らが自分たちで利用するために作られた組織であるため、ユーザーが必要としないことを勝手にやろうとすることはおかしい。ユーザー手数料を犠牲に単に業務を拡大しようとしても、納得は得られないだろう。株主であるユーザーが我々に何を求めるかが一番重要だと考えている。

――インターネット証券が増えたことで、機構の利用回数も増えているのではないか…。

加藤 取引の頻度と口座間の振替件数は必ずしも正比例しないが、市場全体が発展していくためには、日本の上場企業が将来性を買われて株式投資が盛んになることが一番だ。売買回数が多いから良いというだけでは寂しい。世間の多くが期待することは、株価が上がっていく上昇回転だ。約700兆円の資産を預り、一日に約12兆円の決済を扱う責任重大な決済機関として、万が一でも決済トラブルなどが起きないよう、皆に安心して利用していただけるように常に努力していきたい。(了)