『官』と『民』との間を作る時期に

『官』と『民』との間を作る時期に

杉並区立和田中学校・前校長
東京学芸大学客員教授
藤原 和博 氏



聞き手 編集局長 島田一

――日本の労働の仕組みを変える必要がある…。

藤原 先般、厚生労働省が行った若者雇用戦略会議に委員として参加したが、取りまとめの最終段階で辞表を出した。戦略とは、日本の若者の雇用が何故現状のようになっているのか、その根源を議論して解決策を見つけることだ。しかし、会議結果の中身は戦略のかけらもなく、言ってしまえば、厚労省と連合によってハローワークへの予算の増額と、キャリア教育やキャリアアップのための補助金を増額するための、申し合わせの会のように思えた。もちろん、各省庁や内閣府からの補助金を使って、やらないよりはやった方が良いものは沢山ある。しかし、もっと投資先を変えた方がリターンが大きいのではないか、というような議論が行われるほどの戦略的マインドはない。補助金の成果について、その現場の人が発表すれば成果があったというのは当然だ。補助金をもらって動いている人達から批判の声などあがる訳がない。

――高度成長期に税収が拡大する中で、もっと色々なところに投資したいという状況であれば補助金の増額も効果的かもしれないが、今はそういう時代ではない…。

藤原 そもそも、現在のように各省庁がお互いに口を出せないような縦割り行政では、歳出を絞ることは不可能だ。各省庁内部も縦割りになっており、例えば文部科学省では生涯学習政策局が初等中等教育局に口出しすることは出来ない。本来ならば、そういった部分に政治的判断が入り、必要なところに集中投資するというのが国家戦略なのだが、民主党には、目標を絞り、限られた手段を集中的に投じ、投じた結果に対して責任を負うという感覚が欠落している。政治家は不連続に大幅縮小したり集中投資したりする必要があるのに、あっちにもこっちにもいい顔をしていては次の姿勢など示せない。とにかく、このままでは増税しようと何をしようと日本の財政は破綻してしまう。自民党も国家強靭化法案を計画しているようだが、私は、国民がそれを本当に望んでいるとは思わない。

――日本企業が海外に出て行く中で、将来の若者の働く先が心配だ…。

藤原 雇用問題はどうしても世代間競争にならざるを得ない。団塊世代の人達が自分の職を守ろうとすれば、必ず若者の仕事は圧迫される。もし外国でこのような状況になれば、すぐに若者による革命が起こるのだが、日本の場合、学生が自立せず親のすねをかじって生活しているため、その親から何かを奪おうとする行動は起きず、そのため、団塊世代の人達が自ら身を引かなければ若い人達の雇用は生まれない。ひとつの解決策は、若い人達の利害を代表する政党が出てきて、年金の給付レベルを下げることだ。お金を持っている老人は自分のお金で最後までやりくりし、そのお金がなくなった時に初めて政府が支えるという仕組みに変える。そういう政策を掲げる政党が出てこなければ、税金は上がり、年金もさらにばら撒かれるだろう。

――日本人の寿命が延びていることも要因の一つだ…。

藤原 もはや40歳代で一仕事を終えて、同時に人生も終えるような時代ではない。そうであれば、人生の前半を組織から給与をもらって仕えた後は、コミュニティーの中で生きるというような発想に転換すべきだ。自営業、あるいはNPOやNGOなどで、量質共に高いコミュニティーをいかに生きていくかによって人生の豊かさが決まってくる。団塊世代の人達が生きがいを見つけ、人生後半でそれを全うするようになれば、既存産業の雇用にも空きが出てくるだろう。一方で、今の若い人達は最初からNPOや社会ボランティア的な生き方、あるいは社会起業家に憧れているような風潮がある。そこで、例えば震災地や介護の世界、あるいは教育の現場といったところに、団塊の世代と若い世代がタッグを組んで入っていくというような取り組みも今の時代に求められているのかもしれない。大手企業に雇われて、十分すぎる給料や年金を得て一生を終えるというような人生観は、確実に変わりつつある。

――若者たちが、収入が不安定な自営業やNPO、NGOなどで生きていくには、子育てに困らない社会を作る必要がある…。

藤原 私の周りには20歳代で情熱や志や行動力を持った若者が沢山いるが、そういった人達は今、石巻とバングラデシュに結集している。特にバングラデシュはグラミン銀行創設者でノーベル平和賞も受賞したムハマド・ユヌスが社会起業の権化となっていて、例えば、ジュート(麻の一種)を使ってバッグを作る山口絵理子さんは、慶応大学を出て22歳で初めてバングラデシュを訪れ、現地に会社と工場を作った。人件費は日本の100分の1という最貧国で、世界に通用するブランドを一から作り上げ、今では日本の百貨店でも販売されている。また、早稲田大学の税所篤快さんは、家が貧しくて高度な教育を受けられないバングラデシュの子どもたちに、裕福な子どもたちと同じように学ぶチャンスを与えたいと考え、現地の有名予備校講師の授業をITでつないでPC配信するという学習システムを作り提供した。その授業を受けた子どもたちが次々とバングラデシュ名門のダッカ大学に合格している。そして、この学習システムはパレスチナでも行われている。さらに日本では、東日本大震災で大きな被害を受けた養殖漁業を復興させようと、東京から石巻に住居を移してまで協力する人もいる。このように、ゼロから物事を作り上げていくことに生きがいを見出す人生観を持った若者が出てきている。そして、そのような人達を応援する「社会イノベーター公志園」という団体も存在する。

――トヨタや新日鉄など大企業製造業を中心としたこれまでの日本経済から、まったく違う流れに生きがいを感じる人達が増えてきた…。

藤原 この流れをどのように加速させていくかが非常に重要になってくる。成熟社会においてはスウェーデンや欧州のような高福祉型社会を理想とする意見もあるが、公務員を増やせば税金が高くなるのは当然で、日本はそれを追うべきではない。むしろ、公務員や会社員の数をそれぞれ2割程度減らし、自営業を増やすなどして、「官」と「民」の間を作っていく時期に来ているのではないか。例えば、小規模のコンサルタントやアドバイザー、各種セラピストやアーティスト、カウンセラーといった人達は、今後もっともっと増えてよいと思う。さらに、ボランティアを有償にするという考えもある。日本では無償の自己犠牲と考えられているボランティアだが、欧米では「国境なき医師団」に代表されるような有償ボランティアが立派な仕事になっている。このような第3の勢力を増やしていくことで、日本の流れが良い方向に向かっていくのではないか。(了)