何のために尖閣を国有化?

何のために尖閣を国有化?

石垣市長
中山 義隆 氏



聞き手 編集局長 島田一

――尖閣諸島問題について、地元石垣島の人達はどう感じているのか…。

中山 一番の当事者は漁民の方々だ。彼らの中には、過去に尖閣諸島で漁をした経験を持つ人もいて、そういった人達にとって尖閣諸島は、やはり自分たちの漁場という思いがある。台湾からの船もよく来ていたそうだが、昔は仲良くやっていたという。それが、今では統制が取れなくなってきており、マグロの延縄の場所を奪い合ってトラブルが起こったりしている。石垣市としては、尖閣諸島に港を作る要望書を国に提出しているのだが、政府は対中国経済のことを重視して乗り気ではない。ただ、この問題はいずれ決着をつけなくてはならないことだ。40年前、当時与党だった自民党がトウ小平氏との間で尖閣問題を後世に任せるとして棚上げしたが、その時はここまで大きな問題ではなかった。それが今では、中国側が「核心的利益」として確実に獲得しにきている。このまま決着をつけなければ、中国がさらに大国になるであろう10年・20年後に果たして尖閣諸島が日本の領土としてあるのかは疑問だ。そう考えると、やはり今のうちに決着をつけるべきだ。

――「決着」をつけるために、具体的にどういったことが必要なのか…。

中山 必要なのは、やはり港だ。簡単な桟橋などでも良いから、とにかく船を停留させる場所を作る。さらに、灯台や漁業用無線の中継基地局などがあれば、安心して漁が出来る。必ずしも漁民の皆さんが上陸しなくとも、島の周辺で毎日漁をしているという状況があれば、わが国の実効支配が明確になる。さらに海上保安庁の巡視船が常に接岸して警備をしていればよい。尖閣諸島を巡って国は東京都に対抗して購入の意を示しているが、結局、買った後にきちんと利用出来る形にしなければ他国に実行支配されてしまう。国が本当に購入するのであれば、こういった管理をきちんとして利用出来るようにしてもらいたいと思う。中国側からしてみれば、東京都が購入して色々なことをされるよりも、国が購入して何もしないでいてくれる方が良いと考えているのではないか。

――日本の政治は目先の経済の事ばかりを考え、領土問題などをたな晒しにしていた。そのツケがきている…。

中山 経済活動と領土問題は明確に分けて考えなくてはならない。一時的に経済や景気のことを考えて他の国に遠慮していても、将来領土を取られれば、その時の損失の方が遥かに大きい。中国にとっても、大事な貿易相手国である日本との経済関係が止まってしまっては中国経済が成り立たないだろう。それなのに、一昨年の漁船衝突事故の時のように、ちょっとした脅しに負けて弱腰外交と見られ、どんどん侵食されつつあるのが現在の状況だ。すべてにおいて、国は目の前のことだけを考えて動くのではなく、長期的に考えてもらいたい。

――もともと民主党幹部には「国土を守る」という意識がないように感じる…。

中山 以前、我々が政府に「尖閣諸島に港を作ってもらいたい」と要請した時、「中国人が上陸しやすくなるから作らないほうが良い」 と言われた。港は日本領土に作る、日本人が利用するためのものだ。中国人など、領海に入ってきた時点で止めればよいだけの話ではないか。何故、上陸するまで放っておくのか。その辺りの感覚がかなり違うようだ。一昨年の中国漁船衝突事件で中国船船長を逮捕した時には、当時国土交通大臣だった前原さんもすぐに駆けつけてくれて、我々は「ようやく国が本腰を入れて対応してくれる」と安心したのだが、結局はご存知のとおりで、実に期待はずれだった。先日も、野田総理は尖閣諸島や竹島問題について国民に向けた演説を行ったが、それも選挙向けのような気がする。本当にやる気があるのなら、わざわざ国有化するまでもなく、国が借り上げている今の状態のままで整備すれば良いだけの話だ。出来ることはやらずに国有化するなどというのは、恐らく国有化しても何もしないということだ。むしろ何もしないための国有化なのかもしれない。

――今の政治家はどうしようもない…。

中山 自民党の小泉チルドレンや民主党の小沢チルドレンなど、政治をやったこともなければ、経済や経営を経験したこともない人達が公募に応募して、その人達がすべて国会議員になってしまったという弊害は大きい。地元の話をしても全くわからず、自分のところに寄せられた要請書に対して、自分なりの判断をすることもなくそのまま上にお伺いを立てる。そして採決の時には党議拘束をかけられて賛成に回ったり、反対に回ったりする。そういった人達が国会議員なのかと驚いてしまう。制度的なものを言えば、昔の中選挙区制で議員同士が切磋琢磨する方が良かったのかもしれない。

――現在の石垣市の財政状況は…。

中山 予算総額は約200億円で、そのうち市税収入が40億円程度、残りの約160億円は国や県からの補助金だ。どこも同じだと思うが交付税の比率が高い。赤字になっているわけではないが、この予算は厳しい。一つの問題として、地方交付税が島の面積で計算されているということがある。石垣市全体の面積は海の領域を含めるとかなり広い。石垣島周辺に生息する珊瑚礁海域にオニヒトデなどが発生すれば駆除作業を行ったり、島に漂着したゴミの処理をする必要もある。200億円という予算で尖閣諸島問題も含めて島全体を管理することは難しい。一方で、滋賀県などでは琵琶湖の面積を含めて地方交付税が支給されていると聞いている。そのため、現在、石垣市でも海域面積を含めた地方交付税にしてほしいとお願いしているところだ。海の領域も含めれば少なくとも現在の倍程度の金額になるだろう。

――それだけ予算が増えれば、市が尖閣諸島を管理するということも可能になる…。

中山 尖閣諸島については海上保安庁がしっかりと警備してくれればよい。自衛隊を置いた方が良いという声も聞くが、隣国との兼ね合いを考えると、現時点では海上保安庁で十分だ。この点、改正海上保安庁法が成立し、海上保安官に陸上犯罪捜査権限などが認められたことは本当に良かったと喜んでいる。都会の人にも知っていただきたいことは、石垣市や尖閣諸島など、島の周りには領海や排他的経済水域があり、この海域をタンカーや貨物船が通り、日本本土にエネルギーや食料を運んでいるということだ。尖閣諸島が中国に奪われてしまえば、領海がなくなり食料や原油を日本の本土に安全に届けることが出来なくなるかもしれないということを認識すべきだろう。もう一つ、尖閣諸島がクローズアップされたことで、日中中間線が忘れられつつあるということにも注意しなくてはいけない。現在でも、中国は日中中間線を境にして中国側で資源開発を行っているが、日本も、まずは尖閣諸島よりもはるか中国側にある日中中間線を境に資源開発作業を行うべきではないか。仮に尖閣諸島が中国に奪われてしまえば、日中中間線は尖閣諸島と石垣島の間になる。石垣島から尖閣諸島までは170キロメートルしか離れておらず、沖縄本土からの距離よりも近い。その間で中国の軍艦が自由に出入りするようになれば、今度は石垣島にさえ間近に危機が迫ってくることになる。私は住民の命を預かる立場として、そういった状態は到底受け入れられない。(了)