国内リテールこそ成長産業

国内リテールこそ成長産業

野村ホールディングス
代表執行役 グループCEO
永井 浩二 氏



聞き手 編集局長 島田一

――これまで、とりわけ営業では大変なご活躍をしていらしたようだが、その秘訣は…。

永井 我々の年代は、就職したら先ずは国内の営業店に配属され、そこからキャリアが始まる。私も高松、本店、京都、豊橋、岡山の5カ所を回った。営業の基本は、とにかくお客様に対して「誠実」であることだと思う。数字に対するこだわり等が強いと、つい安きに流れてしまう可能性がある。しかし、誠実とは言えないやり方で目先を凌いだとしても絶対に長続きしない。相場は常に変動するが、その変化に上手く対応しながら、一生懸命、地道にやっていくしかない。

――これまでの株不況で、株を売ったことがない社員も増えてきているのではないか…。

永井 そうかもしれない。私はこれまで、リテールでのブローカー業務とホールセールでの引受業務を交互に経験してきたが、そこで、川上から川下までの流れを知ることの重要性を感じた。販売という川下の業務は一番大変だ。しかし、そこで川上の引受業務の苦労を知っていれば、販売する意味をきちんと理解しながら、お客様にお勧めできる。逆に、販売する苦労を自分が身をもって分かっていれば、それが引受業務にも役立ってくる。この両方を経験することは、非常に重要だと思う。

――円高・株安の影響もあり、株離れも見られる…。

永井 株式市場では機関投資家の比重が高まり、さらにアルゴリズムの複雑化や増加を伴って取引手法が変化していく中で、インフラコストは膨大になっている。一方で、手数料は限りなく薄くなっていく。そうなると、証券会社が株を取り扱うインセンティブが下がってしまう。それによって投資家層が薄くなれば、資本が効率的に回らなくなり、必要とするところに資金が流れにくくなってしまう。つまり、今は逆回転している状態だ。ただ、私は、国内リテールこそ日本で最たる成長産業かも知れないと思っている。日本における直接金融と間接金融の比率を見ると、直接金融は約1割で圧倒的に間接金融が多い。米国の直接金融が約5割、ヨーロッパが約3割ということを考えても、まだまだ延びる余地はある。1510兆円という個人の金融資産のうち、今後、多少の個人資産の取り崩しが始まったとしても、300〜400兆円程度は証券市場に流れる可能性がある。その中で、個々のお客様のリスク許容度に合った適切な運用を提案しなければ、受け入れていただくことは出来ないだろう。我々としては、もっと商品・サービスのラインナップを広げていく必要がある。豊富なメニューを用意し、投資家の皆様一人一人のニーズに合わせた商品をご提供していきたい。

――御社の財務状況、そしてビジネスの方向性は…。

永井 バランスシートは半年前とほぼ変わっていない。自己資本と手元流動性は厚くしており、レバレッジも、もともと少なかったものをさらに抑えている状況だ。問題はP/Lだけで、特に利益の部分は簡単ではない。この点、例えばM&Aは付随するビジネスもあり裾野が広いため、ビジネスのひとつのシーズになると考えている。一方で、リーマンショック前まで行われていたような、自らのバランスシートにレバレッジをかけてリターンを追及する投資銀行モデルは、もはや規制の流れの中で難しく、もともと我々の得意とするところではない。対顧客ビジネスからのオーダーフローを上手く活かしてレバレッジをかけるのが、我々の得意とする投資銀行モデルだ。中心は顧客ビジネスであり、お客様のニーズがあるところに特に力を入れていく。

――海外についての考え方は…。

永井 現在、海外のホールセールビジネスでは10億ドルの追加コスト削減を進めている。また、日本と一部のアジア以外の株式の執行ビジネスはインスティネットに集約することとした。システムなど二重投資になるようなことはやめて、野村の得意とする分野やお客様のニーズがある分野に資源を集中していく。日本の内需は少子高齢化などもあり、新しい成長分野を海外に求めにいくという流れは強まりを見せている。法人のニーズは国外が中心で、グローバルネットワークがないとお客様のニーズに応えられない時代になってきた。国外といって最初に眼を向けるのは、やはりアジアだ。そこで、我々はアジアの内需化をテーマに、日本を含めたアジアの一体運営を考えている。これまでのような「日本を除くアジア」ではなく、「日本を含めたアジア」だ。今回の組織変更でも地域ヘッドをあえて日本人にしたが、それは、日本をよく知り、日本のバンカーを動かせなければ、日本を含めたアジアのビジネスが上手くつながらないという考えからだ。

――アジアは法の整備なども遅れており、苦労も多そうだが…。

永井 確かに大変だと思う。しかし、今後アジアが成長していくことは明らかであり、世界中の金融機関は、皆アジアを狙っている。2050年頃までに世界のGDPの約半分をアジアが占めるようになるという試算もあり、その過程では多額の資金を投下してインフラ整備をする必要も出てくるだろう。それをすべて公的な資金で賄うことは難しい。そこで我々は、今後必要とされるアジアでのインフラ投資を投資商品という形にパッケージ化し、日本の個人金融資産と結びつけていく様なことも考えていきたい。そうして、15年3月期には海外部門の黒字化を達成させたい。

――今後の抱負を…。

永井 我々が為すべき事は変化するお客様のニーズを敏感に察知し、時代の変化に合わせて当社自身も変化していくことだと考えている。「すべてはお客様のために」という基本観のもと、公共財である資本市場の担い手としての社会的責務を自覚し、目標を達成すべく、まい進していく。(了)