産業投資立国への制度を整備

産業投資立国への制度を整備

自民党政調会長
衆議院議員 グループCEO
甘利 明 氏



聞き手 編集局長 島田一

――今日まで貿易で稼いだお金が有効に使われていない。その結果、国の借金は1000兆円に膨らむ一方で税収は減少傾向を続けている…。

甘利 これまで日本経済は貿易を基幹エンジンにしていたが、貿易収支は赤字に転じ、その構造が定着しつつある。日本を牽引してきた基幹産業の競争力が低下してきていることは非常に深刻な問題だ。もちろん、そこには為替の問題も関係しているが、だからといって、円安頼みの日本経済になってはいけない。為替が如何に動こうとも、日本を支えられる経済に設計し直さなくてはならない。

――為替が円高でも影響されない経済とは…。

甘利 例えば、昨年、武田薬品工業はスイス製薬大手のナイコメッド社を買収して傘下に置いた。その時の買収金額は約1兆円で、武田薬品の長谷川社長は「プランは前々からあったが、数年前に買収を考えた時の必要額は約1兆5千億円だった。それが、円高によって約5千億円ディスカウントすることが出来た」と言っている。このように、今までのような金融投資や不動産投資を主とする海外投資から少し視点を変えて、資源や産業に戦略的に投資し、日本の戦力となるような海外企業を買収したり、或いは、資源が高騰して安定供給や長期契約が危ぶまれるのであれば、資源がある山を丸ごと購入する。そういった、戦力追加型の産業投資がこれからの海外投資だ。そのために、足枷となる日本の税制や投資協定などの不備の問題は徹底的に洗い出していく必要があると考えている。

――自民党が唱える新しい経済成長モデルとは…。

甘利 日本従来の「貿易立国」と同時に「産業投資立国」という双発型のエンジンを持つ産業国家を目指す。必要なのは、双発型エンジンのシナジーを最大限に発揮させる仕組みだ。海外で投資したお金が日本に戻って来やすい仕掛けをつくり、戻ってきたお金が日本の競争力強化に資するような利用法を考えていく。ここで日本が目指すべき役割は、新たな付加価値を生み出す価値創造センターだ。新たな製品、新たなサービス、新たなシステムなどを発明するクリエイティブ・センターとして、戻ってきたお金を的確に新たに価値を生み出す技術開発力産業へと配分していく。そのためにも、競争力を生み出す研究開発や設備投資は深堀して減税対象としていく。

――一部分を限定して減税対象とすれば、歳入上の減収は少なく抑えられると…。

甘利 その通りだ。日本が研究開発やそれにかかわる設備投資を行うのに大変有利な国だと世界に認識されれば、海外の優秀な企業も日本に来てくれるようになる。特にクリエイティブ関係の外国企業が日本に来てくれることは大歓迎だ。そういった部分の環境を整えるためにも、理不尽に残っている規制を取り払い世界最先端の制度にしていくことを目指して「国際先端テスト」の導入も進めている。円が高かろうと安かろうと、価値のあるものは輸出できる。研究開発部門とマザー工場は日本に置き、完全に組み立て型になるまでの間は国内から輸出し、他国が技術をキャッチアップしてきたら、アドバンテージのある時点でモジュール化して海外の生産拠点に移す。そして、そこで稼いだ利益は国内に還流し、新たな価値創造に向かう。貿易立国エンジンと産業投資立国エンジンが隔離して存在するのではなく、シナジー効果を最大限に発揮できるような制度を確立していく。

――問題点は…。

甘利 学術界や経済団体の代表など日本の英知が結集している総合科学技術会議が、国の科学技術政策の指令塔としての機能を果たしていない。本来ならば、この機構がいわゆるナショプロのようなターゲティングポリシーを定めなくてはならないのだが、事実上、企画立案機能は文部科学省が、予算査定機能は財務省が掌握しているため、本当の司令塔になれない。これは大きな問題だ。例えば、電気自動車においてリチウムイオンには構造上限界があるが、新しい電池が開発されれば1000キロメートル走ることも可能になる。その新しい電池の開発には最低20年かかるといわれているが、それを10年以内に開発する体制を作ればいい。それを実現させるには、プロジェクトを掲げて官民一体で強引に進めていくための司令塔が必要ということだ。また、その他にも日本に技術の種は色々あり、少しずつ芽が出ているものもあるのだが、日本では芽が出た後に、実を成らせるまでのスピードが遅いため、芽を出したものが圧倒的なスピードで海外にキャッチアップされてしまう。それを改善するためにも、専門家がきちんと見極めた部分にだけ予算をつけ、それを事業化するまでの連携スキームをしっかりと作っていかなくてはならないと考えている。

――民主党のバラマキについては…。

甘利 民主党の政策は創造から入るのではなく、配分から入っている。お金をばら撒けば購買力が上がり、それによって消費が増え、生産も増えるという論法だ。しかし、お金をばら撒いたから単純に生産が上がるということにはつながらない。確かに増産体制は出来ても、それは競争力強化体制とは別物であり、まずは供給部門を改革する必要がある。一方で、民主党が事業仕分けで削減した内容を見ると、IPS細胞、はやぶさ、スーパーコンピューターといった日本の競争力にかかわるような予算が削られている。私が作ったアジア人材資金もカットされている。これは無駄の削減ではなく、政権を交代したら世の中が変わったと言わせたい単なるパフォーマンスだ。民主党のバラマキは次なる創造を生むためではなく、一時的に所得が消費に回るようなものばかりであり、行政改革にしても、実際に人件費を効率的に削減できる行政のIT化はこの3年間でほとんど進んでいない。

――マクロ経済についての考えは…。

甘利 為替の関係は日本だけが頑張って上手くいくものではない。マクロ経済についてまず大事な点は、政府と日銀の関係だ。日銀は中央銀行として独立性が担保されるべきで、政府の意思に隷属するものではない。しかし、政府と日銀の阿吽の呼吸で危機に立ち向かうような連携は必要だ。何事も、困難に立ち向かう時にはベクトルが同じ方向を向いていたほうが良い。そういう意味で、政府と日銀が共通目標を持ち、例えば外債の購入など、日銀により多くのツールを与えながら、政府と息を合わせて金融緩和をしていくようなことが必要だと思う。もう一つ、かつてプラザ合意の1年半後にルーブル合意があったが、その効果の論議は別として、我々は、円高を止めるための平成版ルーブル合意に向けて、EU、米国、中国との外交を積極的に展開していこうと考えている。現況下ではユーロが不安定でなかなか難しい部分もあるが、ユーロの安定と合わせて働きかけていく。日銀法を改正して日銀に結果責任を持たせるべきとの声も聞くが、例えば日銀がインフレ目標を設定して、それを達成できなければ総裁を辞めなくてはならないというような仕組みはまだ世界のどこにもない。ただ、インフレ値を政府と共有してそれに対して努力してもらう姿勢は必要だと考えており、その辺りは今まで以上に協調して進めていきたい。そのためにも、まずは我々が政権を取らなくてはならない。(了)