貸金業法、事実を踏まえた改正必要

貸金業法、事実を踏まえた改正必要

前衆議院議員
広島経済大学 教授
増原 義剛 氏



聞き手 編集局長 島田一

――超党派で改正貸金業法の見直しに向けた議論が進んでいる…。

増原 ちょうど6年前、多重債務者問題が大きな問題となっていた頃に、私は自民党金融調査会の小委員会で、小委員長として貸金業法の見直しに取り組んだ。それ以前は出資法上限利率の段階的な引き下げや、貸金業者に対する行為規制の追加などの改正を行った一方、登録業者には利息制限法の上限金利20%を上回る、当時の出資法上限金利29.2%で貸付を認めていた。ところが、改めて規制を見直すタイミングで、多重債務者に対するヤミ金融の過剰な取り立てがクローズアップされ、相次いで報道された。また、その年の1月に、最高裁がグレーゾーン金利を実質的に否定する判決を出した。世の中全体で多重債務者に対する同情が集まるなか、加えて最高裁の判例が出て、立法府としての対応をしなければならないという時代背景があった。今となって結論を言えば、その時の空気だけで結論を出してはいけなかったのではないかと反省している。

――当時は多重債務者を救済すべきという意見に世論が流されてしまった…。

増原 当時の報道のごく一部には、もっと冷静に、ビジネスライフに議論すべきというものもあった。ただ、見直しにあたった私たち自身も、例えば国民の1割以上にあたる1200万人余りが貸金業の利用者で、さらにその中の230万人が、5社以上から借り入れをしている多重債務者だという事実に驚いた。当時230万人いた人たちの相当部分は、弁護士など司法の仲立ちを通じて解決するしかないと思うが、立法としては新たに法を改正し、将来に向けて新たな多重債務者を生まないようにすることが目的となった。だが当時、端的に言えば「利息が高いから多重債務者が増えている」という意見が先行し、「仮に支払能力が一定以上であるとして、金利が下がれば借り入れ量は増える。金利が上がれば借り入れ量は減る。」といった冷静な意見は出てこなかったということは悔やまれる。

――貸金業者による過剰な貸し込みも当時は問題として取り上げられた…。

増原 上限金利をどうするかという問題に加え、もう1つは貸金業者間の競争で、債務者の支払能力を超える貸し付けを行っているということがあった。もう返済が出来なさそうな人には貸さないほうがよいのではないかという意味で、所得の3分の1を超える借り入れを制限する総量規制ができた。だが、改正貸金業法が完全施行される約半年前に、金融庁が貸金業協会に依頼して行った調査では、所得の3分の1を超えて借りている人たちがなんと約5割もいた。つまり、既存の債務者の2人に1人は、完全施行されたら新たな借り入れが出来なくなる。完全施行に備えて貸金業者が貸出抑制をした影響もあっただろうが、延滞情報登録者がどんどん増えだした。その中には、従来ならば返済できる人もいたはずだ。ピーク時には約4.7万社あった資金業者は、急速に金利を下げていく過程で、当然儲からなくなるので大幅に廃業していった。それならば本来、貸金残高は減るはずだが、残高はどんどん増えていった。約4万社あったころは無担保無保証の消費者ローンで2〜3兆円程度だったが、ちょうどバブル崩壊後で金融機関が貸し渋り、貸しはがしをしたこともあり、ピーク時は約12兆円まで増加した。1社あたりの貸付額は増えている。上限金利が低下し利子収入が減ってしまうので、貸し込みによって利子収入を確保するためどんどん貸し込み多重債務者が発生するという構図だ。弱者救済という観点で、上限金利を引き下げたが、逆に多重債務者を生む結果となってしまった。

――今後はどのような対策を取ればよいのか…

増原 やはり、まずは約500万件の延滞情報登録者について、その中身をよく分析する必要があるだろう。せっかく認可法人としての貸金業協会も誕生したので、どのような理由で延滞しているのか、多重債務者であるのかどうかなどについて、ある程度のサンプル調査を行うべきだ。貸金業者から聞いた話では、貸付を受ける理由として多いのは「1に博打、2に異性関係、3に投資、4に生活苦」であるという。メディアでは生活苦を理由に借り入れを行うケースがよく取り上げられるが、貸金業者も返済能力に疑いが残る先には簡単に貸さない。本当は、そこでビジネスライフの貸金業の世界と、生活保護や生活福祉資金貸付といった社会保障の分野に一線を画して、だいたいの整理が出来ていれば今のような問題は起こらなかっただろう。金融調査会の小委員会では金融面の議論が中心となり、社会保障についてきちんと議論を行うことが出来なかった。ただ、この両方を合わせて議論していかないと、多重債務の問題は解決しない。「貸金業者はけしからん」と上限金利引き下げや総量規制の導入などやみくもに規制を強化するのは、処方箋を間違えている。

――貸金業者が悪だという前提で一気に議論が進んでしまった…。

増原 まさしく当時はそのような空気で、議論がそういった方向に進んでしまった。原発事故以降の世論にも見られるが、日本人は「右向け右」で一気に行ってしまうところがある。そんな時は、果たしてデータはどうなっているか、事実をしっかり踏まえて考える必要がある。貸金業法の改正においても、完全施行まで3年間あれば、仮に総量規制に抵触していてもしだいに適正化していくと思っていたが、実際には完全施行の半年前の調査では事実として2人に1人が総量規制の対象となった。だからこそ、先ほど言った500万件の履行遅滞者の実態をよく把握し、とても返済できないという債務者には生活保護や自己破産を進めるなど、ネットワークを整備しなければならない。いずれにせよ、実態を踏まえてしっかり判断しないと、本来は資金を借りてもきちんと返済する能力がある人たちまでサービスを受けられなくなってしまう。場合によっては、そのような人たちがヤミ金融に流れていってしまうことが懸念されている。

――ムードに流されず冷静に議論を行う必要がある…。

増原 このたび、貸金業法改正の経緯を振り返った「弱者はなぜ救われないのか」という本を出版したが、これは私の反省の書だ。マスコミの報道にも問題があったが、政治家も行政も、事実がどうなっているかをしっかり把握して議論を行わなければならない。一時の空気に流されて議論を進めてしまうと、あとでとんでもない副作用が出てくることになる。昨年の東日本大震災以降、脱原発の世論が高まっている。だが、本当に原発の稼動を全てストップすれば、大きな電力を使う製造業は日本から出て行ってしまう。そうなれば製造業の輸出で得た資金で食糧や資源を輸入するモデルも立ち行かなくなるし、同時に職場や雇用を失い、年金制度や医療、介護など社会保障も維持できなくなる。ただでさえ中国・韓国に追い上げられている日本はどうするのか。また、水力を除く再生可能エネルギーについても、現在は電力エネルギー全体の約1%のシェアであり、それを10%や20%に増加させるのには多大な時間と資金を要する。特に太陽光発電は原発との比較で稼働率が低く、実際の発電能力は極めて効率が悪い。日本の原発は米国や韓国と比べて整備点検期間が長いため、原発事故の前までは、むしろ規制を緩和しないといけないとの意見もあった。日本人の心情にはややウェットな側面があるのかもしれないが、事実に則った、バランスの取れた議論をしなければならない。もちろん賛否両論があっていいが、感情で議論をしたのでは生産的でない。感情論ではなく、事実をしっかり把握したうえで、かみ合った議論をする必要があるだろう。(了)