現場を重視しプロを育成

現場を重視しプロを育成

中小企業基盤整備機構
理事長
高田 坦史 氏



聞き手 編集局長 島田一

――日本は中小企業が支えていると言われているが、その実感は…。

高田 マクロ的な数字を見れば、日本企業の99.7%が中小企業で、雇用も中小企業が66%を占めている。しかし、政策当局を含めて「中小企業が日本を支えている」という意識があるのか、疑問を感ずることが多々ある。結局、消費者が商品を手にした時に目にするのは大企業の名前やブランド名であり、その部品ひとつひとつに関っている中小企業の名前が表に出てくることはない。しかし、日本経済イコール中小企業という視点をもたないといけない。

――今年度末に金融円滑化法が終了するが…。

高田 金融円滑化法終了後に倒産に陥る可能性のある中小企業は約6万社と言われており、我々としては、中小企業全体を底上げしていく方法を考えなくてはならない。経営困難に陥っているすべての中小企業が金融機関に相談に来ている訳ではない。経営者の危機感のなさなどもその理由のひとつだと思う。また、相談したいと思ってもどこに行ったらいいかわからないとか敷居が高いと感じている人もいるだろう。一方で、例えば円高のせいだとか、国家間による外部的な問題が影響して経営困難に陥っているといったように、社会情勢、経済情勢が理由だという企業もいるだろう。もちろん、そういった中小企業の手助けをするべきだと思うが、実際にはそれだけが原因というわけではない。その線引きは非常に難しい。

――7月に民間から理事長に就任され、特に心掛けている事は…。

高田 とにかく現場の意見を重視し、明るく、自由闊達に、何でも発言できる雰囲気をつくっていきたい。上司に遠慮をして部下が発言しないような組織では、活性化は図れない。また、本来の目的を達成するために必要なお金を必要な時に使うという意識を欠くことなく、予算は予算として、実行段階では現場の判断で本当に必要なところに存分に資金が投入できるような柔軟な仕組み作りも必要だと考えている。我々としては、実行部隊がどの部分に一番資金を必要としているのか、現場の声をしっかりと立案部隊に届ける橋渡し役にならなくてはならない。しかし残念ながら、今はまだ現場との関係がそこまで密接だとは言えない状況だ。

――具体的に、現場の状況は…。

高田 現在、420万社の中小企業が存在する中で、当機構は全国9カ所に地域本部を配してサポートにあたっている。とはいえ、当機構が実際にどれだけの会社と付き合いがあるのか、そもそも当機構のサポートを必要としている会社がどのくらいあるのか、今はそういったデータベースを構築していくというような段階だ。実はこれまでに蓄積されたものもあるのだが、すぐに必要な情報を取り出すことができていない。こういった管理体制の甘さは民間企業では考えられないことであり、ひとつひとつ見直すべきことが山積している。データベースがきちんと構築されれば、様々な強みをもつ中小企業を、その技術を必要としている大企業にスピーディーに紹介することが出来る。大企業は、コンセプトについて検討し、商品開発を行うが、大企業だけですべてができるわけではない。そのため、商品コンセプトが決まれば、大企業はそれに必要な高度な技術力を持つ中小企業を探し始める。その際にデータベースを使って、我々が的確な中小企業を大企業に紹介出来るような流れが出来上がれば、双方の役に立てる。日本には、まだまだ宝がたくさん埋もれている。それを整理して発掘しやすいようにするのも我々の仕事だ。

――大企業と同じように中小企業まで海外に進出し始めると、日本が空洞化してしまうという懸念もあるが…。

高田 大企業が海外に進出する中で中小企業だけが国内にいても、人口減少、円高などにより、国内市場だけでは企業を存続させることが難しくなってきている。それはそれで仕方のないことだが、それは言い換えると「国内から海外へ企業が出ていく」という意味の空洞化から、「倒産、あるいは廃業する」という意味での空洞化になるということだ。そうであれば、中小企業も元気なうちに海外へ進出した方が良いのではないか。中小企業は毎年約27万社が廃業し、開業するのは約22万社。着実に減少しており、このまま何もせずに国内にいても、違う形での空洞化が起こるのではないか。

――むしろ日本経済を活性化させるため、中小企業を元気にしていくために、海外進出を勧めていくと…。

高田 先進国では売れなくても、マーケットが拡大している新興国では売れるものが沢山ある。そういったところに進出し、しっかりと稼いでくる。国内大企業のトヨタさえそのような形で経営を維持しているのに、中小企業だけがそうせずして生きていくことなど出来るはずがない。大企業はこれまで数十年をかけて、輸出、商品力強化、円高対策といった海外進出のための知恵とプロセスを培ってきた。我々はそれに学び、中小企業の方々が短期間で海外展開出来るための支援に力を注いでいく。

――中小企業が海外進出するにあたって、気をつけるポイントは…。

高田 どのような発展段階の国に進出するかは、中小企業にとって極めて重要なポイントになる。進出する際に必要となる資本や人材、販売チャンスということを考えれば、発展途上段階の地域に進出するほうがリスクは少ないだろう。また、海外では10年くらい根をおろしてやらなければ成果は出ないことを考えると、経営リーダーには意欲や強いメンタリティをもった若い人材が求められる。会社自体が元気なうちに外に出て行くということも絶対条件だ。会社が衰退してからでは遅い。当機構の海外進出をサポートする部署は機能強化のために現在の形に再編されて間もないが、この部署が早く十分な戦力となるように全力を注いでいきたい。また、当機構だけでなく、JETROなど色々な機関が一緒になり、総力を挙げて日本の中小企業の海外展開支援を応援していくような仕組みも必要だと思う。

――各機関が連携して支援することが必要だと…。

高田 ひとつひとつの組織が大きく、さらに縦割りになっている組織で全体にかかわるようなプロジェクトを成し遂げるのは非常に難しい。それぞれが持つ力を結集しなければ実現しない。また、組織としても、人事異動を2〜3年でしていては、何を育てたいのか、後任に何を託すのかを明確に示すことなど出来ず、組織力の低下は免れない。中央省庁のような政策立案するところではそういった制度のほうが見識が広まって良いのかもしれないが、我々のような機関にとっては、そういった人事制度はマイナスでしかない。人間の数を増やせない状況の中で組織力を高めるためには、プロフェッショナルな人材を育てることが一番だ。プロがどれだけいるかで組織力は変わってくる。そういった意味で人事制度を変えていかなければと考えている。当機構の理事長として、今、やらなくてはいけないことを山ほど抱えているが、あせらずひとつひとつ着実に前進していきたい。(了)